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お父上の思い出も登場。一連の準備で、人生は動いている——古舘伊知郎さん×田中泰延<第二夜>

田中泰延


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マイク一本身一つで喋り続ける『トーキングブルース』がライフワークだという、喋り屋・古舘伊知郎さん。2時間半の公演中、水を一滴も飲みません。その理由とは……?

ひろのぶと株式会社から刊行している『伝えるための準備学』についてもトーク。古舘さんにとっての準備とは? 準備に関する幼稚園時のお父上との思い出も話題に。

田中泰延が、いま会いたい人・話したい人と、聞きたいことを語る「田中泰延のふたりごと」、古舘さんをお迎えする第二夜。古舘伊知郎さんと田中泰延の”ふたりごと”を、ちょこっとのぞいてみましょう。

(執筆・編集:廣瀬翼)
※本記事は、2026年5月9日のラジオ大阪の放送を元に再構成しています

2時間半以上、水を飲まずに喋るのは「意地」

さて、今日のゲストです。先週に引き続き、古舘伊知郎さんにお越しいただいてます。

ありがとうございます。よろしくお願いします。

よろしくお願いいたします。

古舘さん、先週は『トーキングブルース』のお話をうかがったんですが。『トーキングブルース』ね、もう2時間以上、一人舞台でずっとマイク一本喋り続けるけど、水をお飲みにならないですよね。

はい。

で、今日はちょっと飲んでらっしゃるじゃないですか。

はい。

あの時どうしてあんな飲まないのかっていうのを。

それは、私の単なる意地です。

意地で。

というのは、やっぱり音楽には敵わないなっていうジェラスが私を支えていて。

トークっていうのはみんな雑談とかトークとかするから。やっぱりメロディーが乗って、詞と相乗効果を生んで、人々の情緒や感情に直接訴えてくるであろう音楽っていうのは、ものすごく人を酔わしたり、悲しませたり喜ばせたりできるけど。なかなかトーク一本っていうのは、そこまでいけるだろうかっていうジェラスがあるわけですよ。

はい、はい。

で、それでいうと、たとえば3時間、ポール・マッカートニーが日本でライブをやって、降りてきて「どうだった?」って感想を求めたときに、スタッフでもファンでもいいんですけど、「すごかった。もう言葉で表せない」みたいに酔いしれるじゃないですか。

うん。

でも僕の場合、アンケートでもなんでも、「どうだった?どうでした?」って言うと、「よく2時間半近く水一滴も飲まないで喋れますね」っていう声が圧倒的に毎年多いんですよ。

水の話ばっかり(笑)。

じゃあ、そんなにそこがすごいと思ってくれるなら、水は飲まないという意地です。

わははは。

本当は飲みたいですよ。横にグラスに注いであって。

はい。

唯一あれがセットですから。サスの灯りが当たってね。

本当は飲みたいですよ。1時間15分ぐらい経ったあたりで。でもその給水ポイントはなしだと。軽い酸欠で終わりゃいいんだと思ってガンガン喋ってますから。

もうあれは意地です。

意地で。

はい。水を横に置いて、自分をステイっていう状態にして伏せてるわけですよ。

いやー、ラジオをお聴きのみなさんも一度ね、『トーキングブルース』体験されてください。

ありがとうございます。

僕はもうね、笑うとこあり、考えさせられるところあり、そして泣けるとこもあるし、やっぱなんか一つのもう芸術の形だと思います、本当に。

『トーキングブルース』は、スタッフのおかげ

芸術とまで。ただ、もしそう言ってくださるなら、僕はスタッフのおかげだと思ってます。本当に僕一人であんなものできるわけないんで。

はい。

僕が喋りたいことを「これを喋りたい、あれを喋りたい」って言ってて、「ダメダメ、あれじゃダメ、それじゃ話になんない」って。「こう変えればいいよ」じゃなくて、ダメダメされるところから始まるんですよ。

なるほど。

で、そういうダメ出しの話の中で、最終的にあれがエッセンスみたいになってますから、エキスみたいになってますから。

スタッフのおかげです。あれ、スタッフがつくってるんですよね。

なるほど。

僕はもう最終的に自動書記のように、ただ何かが取り憑いて、スタッフが取り憑いて喋ってるだけじゃないかなと思うときもある。

ああ。

で、僕の意地は水を飲まない。

飲まない。

水を飲まないっていう不自然さだけです。本当に。

なるほど。あの2時間15分のステージ。どれぐらい準備されます?スタッフと一緒に。

そうですね、半年ぐらいかかりますかね。ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメですよ。

『伝えるための準備学』で語られる「準備」とは

その膨大な準備っていうのがね。

私、ひろのぶと株式会社っていう、ちっちゃい出版社やってるんですが。そこから光栄にも、憧れの古舘伊知郎さんに本を出していただいたのが『伝えるための準備学』。

ここに古舘さんの「喋り屋人生」の準備の、全ての過程と考え方が書かれてる。僕大好きな、うちから出した本——手前味噌ですけど、一冊なんですが。

はい。

ここにはもう、本当に準備のことが書かれてるんですが。あとね、このF1のときのぎっしりメモとかもすごい、こう。

準備、準備、準備のね。

この「準備」っていうものに関する古舘さんの心構えっていうか、改めてお聞きすると?

「準備」っていうと面倒くさいとかね、努力しなきゃとか、予習復習とかね、まあいろいろ勉強的なものがつきまとってきちゃうんだけど。

準備をしていくってことを考えると、「準備=本番」なんですよね。

はあ。

準備と本番は混ざり合っている

たとえばあの田中さんでも僕でも、こういう番組をやる。前の日に準備する、当日も準備する。そして本番があるって、言葉ではラベルを貼って、本番とか、その前のリハーサル、打ち合わせ、ドライ、ランスルー、歌番だったらとか、いろいろ段階を踏んで、全部本番までが準備じゃないですか。

で、本番になったら本番。で、本番が終わったら次の何かの準備に取り掛かるって繰り返しだと思うんですけど。

全部「準備」なんですよね。言ってみれば。

はい。

本番っていうのは準備の積み重ねの発表会に過ぎないし。で、発表会が終わった瞬間、何かの準備に着手するんで。一本の準備なんですよね、人生って多分。

人生が一本の準備。

っていう感じがするんですよね。

うん、うん。

だって、お母さんの自然の摂理がスタンバイ状態に入り、苦しい陣痛を経て子供が生まれてきて、生まれた瞬間から人生の準備どころか、一つの生まれ出ずるというスタートがあって、あと死に至るまで、ずっと準備の連続だと思いません?

なるほど。

本番もひっくるめて。

だから今日のこの本番も準備であり、本番である。

うん、だからもう両方なんだと思うんですよね。だから水割りはウイスキーなのか水なのかって言われてるようなもんで。

なるほど。

準備と本番というのは、ない混ぜになってますよね。

混ざり合ってる。

今、自分でもいいこと言うなと思いますよね。ちょっとびっくりしちゃいました。これ、田中さんがうまいからですよ。

いやいや、いやいや。

「ひろのぶと株式会社がつくったんだな、って」

この本だって、さっきね、「手前味噌になりますけど、ひろのぶとって私どもの小さな出版社」とおっしゃいましたけど。

確かに小さいですよ。

(笑)。

ものすごく小さいですよ。小さいがゆえのですね、一体感。ものすごい強いじゃないですか。

はい。

スタッフのみなさん、社員のみなさん。そしてみんなで頑張るんだっていう熱情の中からこの本が生まれてますから。

著者は僕ってことになってますけど、やっぱり「ひろのぶとがつくったんだな」ってとこに戻るわけですよ。

うわぁ、ありがたい。

これも、準備の賜物。ひろのぶとが僕に目をつけてくれて、そして準備して。時にはね、「よくも今日はいっぱい喋ってくれたよね、そのネタを」っつって。そしてお菓子かなんかくれて、そして帰っていくわけですよ。

はい。

もう気がついたらお菓子のための準備。

ははははは。

だから、そういう一連の準備で、人生っていうのは動いてるんだと思いません? なんか。

いやぁ〜。

それをね、準備っていうと努力だとか、ひらめきと対応させてね、「自分はあんまり準備とか努力とかしないから」とか言って。で、パッとね、「その時の思いつきで」とか言ってる人は、僕は嘘だと思うんですよ。

なるほど。

それも準備なんだよって。

なるほど。

きれい事ばっかり言うなよっていつも思う。

一連の中で準備があるし、それがパッと目立つ時もあるということですよね。

幼稚園のときに父から学んだ「準備」とは?

僕ね、なんでこの『準備学』にのってね、本まで出させていただいたかってことを一度あの考えたことあったんですけど。それは本の中にも盛り込まれてない、言ってないし、書いてないですし。

だけど、昔から好きだったのかなと思うんですよね。

うん。

幼稚園のときに、2週間後に遠足があるってのが決まってたんですよ。で、2週間前から母親に言って、リュックサックを用意してくれとかね、どんどんエスカレートして。

あと一週間後に遠足だっていったときに、ちょっと非日常がドキドキワクワクしてきて、母親に「お菓子詰めてくれ」って言ったんですよ。持って行っていい範囲内の。おふくろも詰めてくれたんですよ。あんまりなんか取り憑いたように言うから。

はい。

で、5日後、5日前になったんですよ。遠足5日前。今度はついに父親が朝仕事に行くときに、僕が遅れて幼稚園行くときに、こう言ったんですよ。

「お弁当詰めて、お父さん」って言ったんですよ。自分でも覚えてます。

そしたら呆れた顔して、父親が「5日前にお弁当詰めるって言うんだったら、それもいいことで準備になるから、お母さんに言って台所の奥にある生ゴミを詰めてもらいなさい」って返してきて。

わははははは。

で、ちょっと我に返ったんですね。

あぁ。

「あ、5日前にお弁当入れるってことは、おむすび入れるってことは、生ゴミを入れるに等しいんだ」ってことを一つ学びました。

なるほど(笑)。

父親はうるさいとか何も言わないで、そういうふうに合わせてくれたんですよね。あれも何かの準備だったような気がするんですよ。

なるほど。そしてそれを今日ね、お話うかがうってことは、ずっとその準備がまたここへ来て、今なるほどって僕が感じる準備になってるわけですから。

あ、本当ですか。本当ですか。なんか循環してますね。準備の時間が。

今日の曲紹介|中島みゆき「ホームにて」

そんな『伝えるための準備学』のお話をうかがったところで、今日の古舘伊知郎さんのリクエストは中島みゆきさんの「ホームにて」。

これは思い出、思い入れといいますと?

僕は別に北海道がふるさとじゃないし、東京の北区滝野川という、城北地域のズブズブの下町で29年間生まれ育ってるんですね。だから関係ないんですよ、中島みゆきさんの「ホームにて」って。物理的にホームに立って遠いふるさとに帰るってのはないんですよ。

ええ。

でも、やっぱり日々、街も人間も移ろいゆくので、僕が生まれ育った心象風景の滝野川はだんだん消え失せてるわけです。どんなに同窓会で小学校時代に仲良く友達と集まってもね。

だから、やっぱり物理的にふるさとに帰るんじゃなくて、心の故郷に帰るんだなっていうんで、これを事前に選ばせてもらっていたのに、急に親父の話しましたよね。さっき『準備学』から。

はい。

多分、「ホームにて」をこのあと流すんだってのをチラっと手元を見てるから、親父のことを思い出したんじゃないかなと思う。

えぇ〜?!

いや、だってそうじゃないと急に親父のことを言わなくてもよかったじゃないですか。「ホームにて」がこれから流れるんでしょ。

はい。

あ、だからこう、今は旅立ってだいぶ経つ、死んでしまった父親という、ある種半分のホームに戻りたいのかなっていう感じが、ちょっとびっくりしたな、今。

ああ〜。じゃあそんな古舘さんのお父さんのことも。

突飛すぎて田中さんも珍しく受けきれないような。

本当に。いや、でもその、まずね、どんな気持ちになるのか。中島みゆき「ホームにて」聴いてください。

話というのは、輪になっていく

♪中島みゆき「ホームにて」おわり♪

中島みゆき「ホームにて」聴いていただきました。

ちょっとびっくり。またあんまりびっくりしてるとリスナーの人がびっくりしないんですけど、こっちだけが独りごちちゃって。

あの、中島みゆきさんはやっぱり拓郎さんお好きで。「ファイト!」って、あの有名な曲あるじゃないですか。「♪闘う君の〜」って。

うん。

あの「ファイト!」は中島みゆきさんが吉田拓郎さんに歌わせたいというイメージでつくった歌です。

はぁ〜!

だから拓郎さんが故郷の広島に戻ったときに、スタジアムで「ファイト!」を歌うんですよ。だから中島みゆき、そこで本懐を遂げるみたいな。

うん、うん。

ちょっと全部、前回の拓郎さんの「イメージの詩」からちょっと続いちゃってます。

いや、こんな、なんか、つながって。

つなげるつもりもなかったのに。

いや、こうやってね、話というのは輪になって。なんか不思議な感じがするもんでございます。

宇田川ディレクターもかなり頷いてくれて。

頷いてます、はい。ということで、本日のゲストは古舘伊知郎さんでした。引き続きよろしくお願いいたします。

お願いします。

おまけの「アフタートーク」

いやぁ、そっかぁ。「ファイト!」そうなんすね。

そうなんですよ。

さあ第3週は、新刊のお話をさせていただきたいと思います。

ありがとうございます。

これね、オンエアの尺は15分なんですけど、YouTubeのコンテンツにもPodcastにもなるんで、はみ出す分はもう気にせず喋っていただければと思います。

あ、そうなんですか。調子に乗っちゃいけないですね。あれだけお菓子で餌付けしてもらったから従順に従いたいと思いますね。あれ何もなかったら暴走老人と化して。

いやいや。

「舌先の老害暴走おしゃべりじじい」になりますけども。今日はちょっと従順にやらせていただきたいと思います。

古舘伊知郎プロフィール

古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)
フリーアナウンサー、喋り屋

1954年東京生まれ。立教大学卒業後、1977年テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「ワールドプロレスリング」などを担当。鋭敏な語彙センスとボルテージの高さが際立つプロレス実況は「古舘節」と称され、絶大な人気を誇る。1984年、フリーとなり、「古舘プロジェクト」設立。F1などでムーブメントを巻き起こし、「実況=古舘」のイメージを確立する。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由な喋り手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。ライフワークとして1988年からスタートしたトークライブ「トーキングブルース」は”一人喋りの最高峰”と称され、厚い支持を集める。著書に『喋らなければ負けだよ』(青春出版社)、『喋り屋いちろう』(集英社)、『伝えるための準備学』(ひろのぶと株式会社)、『寝ても覚めても煩悩』(小学館集英社プロダクション)など。

LIFE

伝えるための準備学
古舘伊知郎|ひろのぶと株式会社



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    1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社 「ひろのぶと株式会社」 を創業。