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2026年9月【連載】唐木俊介のなんかいいたい

唐木俊介


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9/1(火)
最高気温36度。今日から9月だというのに夏が終わらない。森山直太朗はよ歌え。
8月の日記が公開され、届いたメッセージに返信。ありがとうございます。メッセージはただひたすらうれしい。どんな形であれ、言葉を発するのは誰かと関わりたいからだと思っている。独り言もコミュニケーションの一種なのだ。
今日はBTSジョングクの誕生日なので、奥さんのテンションが高い。「あらら!グクがインスタライブやってる!」と上機嫌でスマホを眺めている。「おれの誕生日より遥かにテンション高いやないか」と言うと「わっ!ねえ!すごいよ!リアルタイムで700万人が見てる!」と返ってきた。噛み合っていないように聞こえるかもしれないが、実はこれこそが真の阿吽の呼吸なのである。


9/2(水)
先週末のサーフィンで痛めた右膝を庇いながらスイム。股にプルブイを挟んで、キックなしで1500Mだけ。怪我をした時、希望的観測ばかり持ってしまう。ネットで「膝 治療 水泳」「膝 靭帯 運動 大丈夫」などと検索し、自分の欲しい情報だけを漁っている。しかしどのサイトにも「希望的観測を持つな」「無理は禁物」「すぐに医療機関を受診して」とある。ネットの情報は当てにならない。


9/3(木)
「山田さん、車で仙台まで行ったんだって。片道12時間以上かかったらしいよ」と奥さん。へぇ~と驚いていると、続けて「でね、さすがに帰りはしんどくてフェリーにしたんだって。でも車はどうやって運んだのかな?」と不思議そうな顔で言う。たぶん私の方が不思議そうな顔をしていたと思う。


9/4(金)
来年の国家予算が143兆円というニュースを見た。すさまじい金額。大袈裟ではなく、本当に私の年収の100倍以上ある。


9/5(土)
波予報が良すぎた。私は必死で止めたのだが、身体が勝手に2時半に起きて島根まで北走していた。5時半到着。目当てのポイントで期待通りの波が割れており、アドレナリン大放出。右膝を庇いながら一日中サーフ。途中、膝がズキッと痛んだのは3回程度であった。と思いたい。
夕方になって、秋が来た。水平線に陽が沈み、波面が紅く染まった。虫がリンリンと鳴くのが聞こえる。沖から岸を振り返れば、何年も前に使われなくなった海の家の残骸が寂しく佇んでいる。風が冷たい。「見わたせば 花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の 秋の夕暮れ」とは藤原定家の一句。海の上で波待ちしながら詠んだに違いない。


9/6(日)
泥のように眠って7時起床。洗車して水回りの掃除をしてから『Tシャツが乾くまで』の9話を観る。前回で乾いたと思っていたTシャツが、また湿り気を帯びた。
昼、次女を塾まで送り、図書館で調べ物をしてからT子さんに会いに行った。今日は自分で右手を上げ下ろししていた。そして少しだけ喋った。うれしい。例えばT子さんが自分で右手を上げ下ろしすること、呼吸を整えて声を絞り出すことは、そのひとつひとつが私にとって、どんなトップアスリートのパフォーマンスよりも劇的であり、偉業なのだ。物事の劇的性に絶対値はない。


9/7(月)
木工の師匠、久さんが「葉鉋」の製作で悩んでいる。御歳75歳、組子細工製作のために鉋を自作しようとしているのだ。謎のバイタリティ。曰く「仕込角39°、切込角45°の状態で、目標削り角を90°にするためには、セット角や傾斜角をどう設定すりゃええんかのう」ちょっと何言ってるかわからない。と、AIに問いかけると、読みきれないほどの回答が返ってきた。「よし、まずはこれを読む」と久さん。続けて「ところでよお、明日の美保関沖の波と風はどんな感じ?」と聞いてきた。久さんはときどき車にボートを積んで遠くまで釣りに行く。謎のバイタリティ。予報を見ると波風ともに強そうだ。危ないからボートで沖に出ちゃダメですよ!と伝えておいた。明るく「ほーい」と久さん。心配である。あんた行くやろ。


9/8(火)
仕事から帰ると娘たちと奥さんが恋愛リアリティ番組「今日好き」を見ていた。晩御飯を食べながら眺めていると、奥さんが唐突に「ハルカ君に決めた!」と言い出した。娘たちもウンウンと頷いている。後ろから「シュンスケ君はどうするんや」と聞くと食い気味に「殿堂入り」とのこと。早い。最近は「食い気味とはこういうこと」みたいなタイミングで返してくる。
その1時間後、風呂上がりにリビングに戻ると、男子バレー日本対オーストラリアを観戦していた奥さんが不意に「高橋藍に決めた!」と言った。決断力の塊。


9/9(水)
海外の通販サイトから配送通知メールが届いたのだが、一行目に「俊介 シュンスケ 唐木様」と書かれている。井脇ノブ子か。
少し咳が出るのでジムに行かず18時過ぎに帰宅。いつもより2時間余裕があったはずなのに、インスタでいろんな人がBillie Jeanを踊る動画を見ていたらあっという間に寝る時間である。寝室までムーンウォークで行く。


9/10(木)
折りたたみ式のiPhoneが出るという。368,000円。もはやトーカ堂の北社長に紹介してもらいたい価格である。いや、それにしてもオーバースペックすぎないか。画面は開いても閉じても同じ縦横比で超高精細。閉じたまま片手でも使える。開くと左右で別々のアプリを起動できる。チップは6コアCPUと7コアGPU。少し開いて自立させることも可能…たしかに目を見張るスペックだが、本当にこんな機能が要るのか?話題に心躍らされている人たちは、値段に見合う性能なのか、自分が本当に欲しいのか、一旦冷静に考えるべきであろう。私は別にそこまで欲しい。


9/11(金)
アフリカのルワンダには「野生のゴリラを見に行くツアー」というものがあるそうだ。高額なツアーだが世界中で人気があり、その収益は莫大。実にルワンダのGDPの1%を占めるという。すごいなあと家族と話していると「ケンタ元気かな」と奥さんが言う。懐かしい。生でゴリラを見たのは15年ほど前。千葉の動物園にいた「ケンタ」を見たのが最後である。「久しぶりに本物のゴリラ見たいなあ」と返すと「私は毎日見てるからいいや」とのこと。うほ。


9/12(土)
8時間爆睡して夜明けと共に起きた。1時間ほど本を読んで『Tシャツが乾くまで』の最終回を観る。そののち町内会の溝掃除からの包丁研ぎ。今日は300番→1000番→5000番の3種。8000番は使わなかったが、これで十分な気もする。包丁の切れ味コンテストがあれば出たい。
午後は美容室からのジム。下肢ウェイトからのスイム。疲れ果てて水風呂でアイシングしていると、サウナから勝俣さんが出てきた。このおじさん、水風呂に入る時に必ず「シャーッ!」と声を出すので、本名は存じ上げないが心の中で勝俣さんと呼んでいる。勝俣さん、今日も全身に湯気を纏ってサウナから出てきて、軽くシャワーを浴びた後、ゆっくりと水風呂に足を踏み入れた。そして一気に身体を沈めると同時に「フゥーッ!」シャー言えや。美木良介か。
家に帰ると台所からゴッ、ゴッと音が聞こえて、見ると娘が冷凍バナナを切っていた。今朝キンキンに研いだばかりの包丁の、その背に手を当てて叩くようにゴッ、ゴッ。いや、別にええねんけど…


9/13(日)
朝イチでウチヤマダフーヅ朝礼。Tバックを引き締めて拝読。
今日は広島市内の祖父母宅へ。祖父(93)、祖母(95)、二人とも変わらず元気にしていた。身体のあちこちに不調があっても、毎日ちゃんと生活している。歩いてスーパーに行き、肉や野菜を買って帰るなどしている。会うたびにその強さに感服する。帰り際に「また来るわ」と言うと「それまでは生きとくわ」と返す祖母。強い。


9/14(月)
ラジオで洋服のボタンの話を聞いた。男性物の洋服のボタンは身頃の右側に付いているのに、女性物は逆なのは何故?という話。出演者一同、誰も知らないというので耳を疑った。しかし冷静に考えてみると、これは普通に生活しているだけでは馴染みのないことかもしれない。私は前職がアパレル関係だったので、こういう知識は当たり前のように知らん。


9/15(火)
今日は金粉入りのお茶をいただいたのだが、そもそも金粉というものは飲んでも大丈夫なのだろうか…と調べると、食用の金箔や金粉はそのまま体外に排出されるので問題ないそうだ。ということは、料理に大量の金粉をかけて食べれば、次の日には金のウ⚪︎ンコをリリースできるかもしれない。いわゆる金糞である。


9/16(水)
Windowsのログオン画面は背景が定期的に変わる仕様になっている。最近は出勤してパソコンを立ち上げると、砂浜で数頭のアザラシが気持ちよさそうに寝転んでいる画像が表示されて最高に腹立つ。


9/17(木)
内閣改造人事、第2次高市内閣の閣僚名簿が発表された。結論から言うと今回は私の名前は無かった。私は別にいいのだが、国民はどうだろうか。


9/18(金)
世間は明日から5連休。しかし私は3連休。この事実だけで補償金が出てもおかしくない。


9/19(土)
2時半に起きて鳥取へ。右膝と真剣に相談した結果、最近は痛みも少ないし、ちょっとだけならサーフィンしてもいいだろうという結論に至った。夜明けと共に目当てのポイントに入水し、午前中だけ良波堪能。しかし終盤、深い踏み込みで痛みを感じるようになり、仕方なく海から上がる。これ何なん?重症なん?皿?半月板?靭帯?さすがに長い。休み明けに病院へ行こう。あと1ヶ月で46歳。そもそも週5で運動という今のサイクルに無理があるのかもしれない。弱気な考えがチラつく。おっさんはつらい。


9/20(日)
スナワチ前田将多さんのアメリカ旅行記、第1部を拝読。前田さんの旅はいつも、野生味があり冒険的。いわゆる「観光旅行」という雰囲気ではない。読んでいて沸々と冒険心を掻き立てられるのは私だけではないはず。続きが楽しみである。旅の話の面白さは、その人のタフネスのバロメーターな気がする。バロメーターのバロが何なのかわからない。知っている人は連絡してほしい。


9/21(月)
朝から家族で岡山北部へショートトリップ。自宅付近は晴れていたのに北進に伴って天候が悪化。「晴れて気温も上がるので涼しいところに行こう」というテーマだったのに、天気予報とは裏腹の曇天は暗さを増す一方。鳥取との県境付近まで来ると気温は18度。霧雨と冷風が容赦なく吹きつける。そんな中、最初の目的地は山奥の渓谷。隠れ家的な茶店で流しそうめんを食すというもの。うう。雨で水嵩が増した渓谷の脇で、寒さに震えながら流れる素麺をすくう。もはや苦行。
そののち、冷え切った身体を温めながら次なる目的地、蒜山高原のハーブガーデンへ。蒜山三座を望む雄大な高原に四季折々の草花やハーブ、ラベンダーなどを敷き詰めた美しい庭園である。ただし晴れていれば。
天は低く、雨風は強さを増した。車から降りると、エアコンで温まった身体は一瞬で冷えた。ゲートを抜けると小洒落たイングリッシュガーデン、通り抜けると広大なハーブ園、その向こうには赤や黄色の可愛らしい花々が一面に咲き誇る。美しい。ただし晴れていれば。
吹きつける冷雨。誰も皆、寒さに震えながら花を眺める。もはや苦行。
帰りに湯原温泉へ立ち寄ってから夕方帰宅。夕飯は熱々の鍋を食す。後半で謎の挽回。謎の一日だったねと大いに盛り上がった。家族がみんな面白いのがいい。我が家ではどんなアクシデントも必ず笑いに変わる。


9/22(火)
通勤時の道路が空いていた。空きすぎていた。世間は今日も明日も休日なのだ。しかし冷静に考えてほしい。皆が一斉に休んでも我が国の経済活動が止まらないのはなぜか。その間ほかの誰かが、いや、この私が働いているからである。今日を楽しく過ごした全ての国民は私に感謝し、寝る前には我が家の方角に向かって一礼すべきである。どうしてもということであれば現金振込も受け付ける。PayPayも可。


9/23(水)
結局ヨガなのか?と思い始めている。昔から興味がなくはないが、どうも手を出す気にならない。ただ、ウェイトを使わない自重トレーニングとしては有効と思われるし、実際にトレーニングとしてヨガを取り入れているサーファーは多い…と、Youtubeでヨガの動画を流して見よう見まねでやってみた。やや熱くなり、リビングで逆立ちしたまま腹式呼吸を繰り返していたら2階から降りてきた奥さんに「どこに向かっとん」と聞かれた。私もわからない。


9/24(木)
来年4月から飲食料品の消費税が1%になるので、仕上用の天然砥石やiMacなどの大きな買い物はそれまで待つことにしている。これらの税率が9%も下がるのはありがたい。さすがに車や大型家電は無理だが、砥石やパソコンなら少し頑張れば食べることができる。レジで何食わぬ顔をして「これテイクアウトで。箸を1膳お願いします」と言えばいいのである。私はこのやり方で、今でもほとんどの買い物が軽減税率で済んでいる。若者はNISAなどやっている場合ではない。ぜんぶ食え。


9/25(金)
右膝痛の原因を解明すべく整形外科でMRI検査を受けた。結果、前十字靭帯が少しだけ緩んでいるとのこと。手術をするほどの緊急性はないので、リハビリで様子を見ることになり、地味なエクササイズを数種習って帰ってきた。普段のトレーニングメニューを伝えると、下肢のウェイトトレーニングは止めて自重に切り替えた方がいいと言われた。水泳はOK。ただし平泳ぎはNG。クロールのキックは弱めにして、痛みを感じたらすぐに止めること。フリースクワットの痛みが無くなればサーフィンOKとのこと。先生だんだん熱くなってきて「痛みは危険信号。我慢することが強さじゃないんです。痛みを感じないくらいの適切な負荷を見極めて続けることが本当の強さなんです」えらい言うてくるやん…と、その場では思っていたが、確かにそうかもしれない。もうすぐ46歳。無理は禁物である。
波情報を見ると、日本海、夕方から波高が上がっている。むむむ。


9/26(土)
5時半起床。最近では陽が昇るのが遅くなったので薄暗い中で本を読んでいる。今朝は某巨匠の詩集。ほぼ何言ってるか分からない。
朝食前にウチヤマダフーヅ朝礼。終始ど正論の回。
昨日整形外科で習ったエクササイズに励む。どれも地味だが、確かに効く。効くということは弱いということ。本来鍛えるべき部分が全然鍛えられていないということ。ジムのマットエリアで鏡を見ながらリハビリに励む。最後にプールで1キロだけ泳いで帰ってきた。いつもとは違う疲れが全身に染みわたっている。


9/27(日)
8時間爆睡して7時起床。全身が心地よい筋肉痛。ストレッチしながらBEFOREDAWNを聴く。ゲストはエッセイストの中前結花さん。書くことについて、日記についてのトークだった。その中で知ったのだが、小学校で絵日記が廃止されたそうだ。生徒一人一人の「思い出の格差」が問題になったとのこと。意味がわからずググると、その格差とは「あの子はハワイ旅行に行ったのに、わたしは家で本を読んでいただけ」みたいなことらしい。教育、負けすぎじゃないか?経済力があれば思い出ができるとか、収入が多い人は頭がいいとか、そういう資本主義の歪みに気づける感性を養うのが教育の役割だろう。物事の価値は、それを見つめる解像度で決まるのだ。と、そうも言ってられないような事情が教育現場にあるのだろうか。知らんけど。


9/28(月)
奥田民生×田中泰延さんの新刊『ゆるさかげん』が発売された。早速購入。しかしこれは危険。一度ページをめくったら止められない。ちょっとだけのつもりで開いて、あっという間に半分読んでしまった。おもしろすぎるのだ。


9/29(火)
今日は法令改正に関する重たい内容のWEBセミナーを受けたのだが、講師が喋る内容がすべて字幕で表示されるというものだった。字幕は極めて正確で、てっきり私は録画したものに後から字幕をつけたのだと思っていたが、どうもAIがリアルタイムで変換しているらしい。というのも、始まって5分ほど経ったときのこと、講師のセリフとセリフの間に[鼻息]と表示されたのである。目が釘付けとはこのこと。そこから先、セミナーの内容は1ミリも頭に入らない。ひたすら字幕に[鼻息]と表示されるのを待ち、表示されたら喜ぶ。それを繰り返しているうちにセミナーは終わった。有意義な時間であった。


9/30(水)
末日。早い。早すぎる。今月はなんといっても膝の怪我に狼狽えた1ヶ月であった。しかしこれも一つのステップだと捉えている。怪我で身の丈を知る。体幹を鍛え直し、正しい肉体の使い方を覚える。結果的に今後、私のサーフィンは良くなる。と、強引に精神の舵を切った。『太陽と鉄』の同じページを何度も読み、ジムの隅っこで地味なトレーニングばかりしている。19日以降はサーフィンも我慢している。アジア大会にも出ず、家と会社とジム、同じ景色の中をぐるぐると回っている。よくわからんが、日々はすぎてゆく。


9月が終わった。
 

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  • 唐木俊介 エッセイ


    1980年生まれ 会社員