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悩みに一挙解決はないから、みんなで考えたい——古舘伊知郎さん×田中泰延<第三夜>

田中泰延


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「僕は悩みと共存して生きるのが人生だと思う」

そう語る古舘伊知郎さん。新刊『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』で説く、悩みとの向き合い方とは?

田中泰延が、いま会いたい人・話したい人と、聞きたいことを語る「田中泰延のふたりごと」。古舘伊知郎さんとの第三夜。「答えはありません」というスタンスで綴られた新刊について、人生と煩悩について——古舘伊知郎さんと田中泰延の”ふたりごと”を、ちょこっとのぞいてみましょう。

(執筆・編集:廣瀬翼)
※本記事は、2026年5月16日のラジオ大阪の放送を元に再構成しています

ドアを閉めて、階段をおりながら、まだ喋る

さて、本日のゲストです。先週に引き続き、もうあんまり説明いらないですね。古舘伊知郎さん!

ああ、どうもありがとうございます。いつもありがとうございます。

ありがとうございます。

なんかもう3年ぐらい一緒にレギュラーやってるような気持ちです。なんでだろう、この親近感っていうんですか。

いや、光栄です。いろんなところで古舘さんとは、本が出た時の書店のイベントとか。

はい、『伝えるための準備学』の時にね。

はい。それからあとYouTube用にもお話をさせていただいたんですけど。

まあ、もう、あんまり僕が喋るのがもったいない。もう聞いてるのが楽しいし。なんならもうずっと喋って、僕は「はぁ」とか「ふぅ」とか言ってれば幸せになるんで。

いやいや、そんなことないですよ。「はぁ、ふぅ」だけじゃダメですよ。ワンタン麺食ってるわけじゃないんだから。はぁはぁ、ふぅふぅはそういう時だけでいいですよ。

いや、もうね。古舘さんといえば、たとえばロングインタビューさせてくださいって言って、会議室みたいなとこ来ていただいたときも、もう喋りながら入ってこられて、2時間お話しされて。

僕、本当に「はぁ」とか「ふぅ」とか言ってたら、「そろそろお時間で」って言って帰るときも、あのドアを閉めながら階段おりながらまだ喋って、ずっと姿が消えていくってことが何度もありましたからね。

頭おかしいですね。こういう感じで喋ってる自分が好きです。

(笑)。

もう、ああいう時って、大サービスしたいんだっていう自意識のダメさもあるんですけども、本当にブレーキングシステムを失うんですね。

(笑)。

だから、そういうのもやってきてるんだけど、こういう風に普通にこう対面で話できる幸せを今噛みしめている。一方的に喋ると良くないですね。

いやいや、あのエネルギーに触れて、まあ僕らもね、いろんな本を出したり、それからどんどんファンになっていったりするわけですけど。

ありがとうございます。

古舘伊知郎の人生相談本『寝ても覚めても煩悩』

そんな古舘さんが今年、まだまだ新しい本です。この3月に出たばっかりの、『寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます』。こちら、人生相談本を出されました。

はい!

寝ても覚めても煩悩 人生のモヤモヤ、いっしょに悩みます
Amazon / Kindle

すごい、表紙にかわいい古舘さんのイラストが。

嫌なんですよ、その表紙が。

かわいいじゃないですか。

一応著者、僕じゃないですか。それなのに別人ですからね。イラストがね。

このね、髪の毛がね、紫なところを含めて、すごくね。

そこだけなんですよね。

非常にちゃんとキャラクター化されていて、まさに古舘さんって感じですけど。

こちらYouTubeで人生相談をどんどんされてて、もうすごくいろんな悩みが寄せられてるんですが、まあそれがもうぎゅっと本になっている形になるというところで。

はい。

これどうですか? 答える、人生相談にこういうふうに乗ろうみたいな基準ってあるんですか?

「こうすれば悩みは小さくなる」をみんなで考えたい

僕はこの本を出したいなと思ったのは、やっぱり今、タイパ・コスパ信仰が強すぎて。

はい。

この本を読めば救われるとか。まあ、宗教ってのは救済装置だから、ある種いいなとは思うところもありますが。やっぱりタイパコスパすぎて、悩みを一挙に解決するとか。悩みとか葛藤とか、忸怩たる思いとか、人生思い通りにいかないとかいう本質的なことを敵対視するでしょ。で、何かで解消しようとするでしょ。

はい。

だから僕はそれが嫌なんですよ。

僕は悩みと共存して生きるのが人生だと思うし。悩まない人間は悟った釈迦とかそういう人であって。

多くの人が僕を含めて悟れないとすれば、悩みを小さくしていく努力とか。「悩みの根本原因はここだから、この悩み小さくしよう」「ここを小さくすれば悩みも小さくなるよね」とか、そういうことをみんなで考えたいっていう本を、まだるっこしいけど出したかったんです。

うん。

やっぱり、どうしても一発OKとか、悩みを敵にして「この科学薬品で一発消失させよう、悩みを」——無理ですよ。生きてる限り。そうでしょ? 悟らない限り。

はい。

だから、そういう思いを込めて「答えはありません」って本なんですよ。一緒に悩みましょうとか。回答してる私が質問者になって、回答者に教えられたわっていうふうに転倒する、立場が。そういうところを狙ってる本なんです。

あぁ〜。

だから、神田伯山に読みづらい本だって言われて。

読みづらい本。

そういう意味では一発解消になってないんで。

僕も拝読して、「こうしなさい」ってことは一回も言ってない本ですよね。で、一緒に悩んで、「まああの、ちょっと参考になるかどうかわかんないけど、釈迦はこう言ってんだけどなあ」っていうところが、時々、その教えを引きながらも。でもなんていうか、答えじゃないんですよね。

そこが寝ても覚めても煩悩っていうのが、その相談者が「お前煩悩がある」っていうんじゃなくて、「いや、自分も煩悩あるよ」と。一緒のサイドに立つっていう、そういう本だと思いました。

悩みを味方にしよう

で、一緒に悩もうプラス、もっと極論で言えば、悩みを味方にしようっていう。

悩みを味方に。

はい。あの悩みっていうのはゼロになるわけないんで、悟らない限りね。死なない限り悩みはゼロにはならないわけだから。

はい。

もう極端に言うとね、これも原始仏教と、その後の上座部仏教とか、あるいは部派仏教っていうふうに、日本に入ってきてる仏教、その後、釈迦没後700年経ってからの大乗仏教がすべてなんで。それどっちもいいんですけども、まったく質が違うんですね。言ってることがね。釈迦仏教、原始の方は。

ええ、ええ。

「一切皆苦」は、真っ当な”生きる”ということの本質

僕は原始釈迦仏教の推し活をやってる、立場で言うと。

推し活!

すべて人生ってのは思い通りにならない。認めなさいと。たとえばね、「一切皆苦」っていうややこしい言葉あるんです、仏教の中に。

「一切、皆苦しい」と書いて「いっさいかいく」。

皆苦しい、一切皆苦。人生は生まれてから死ぬまで苦しい。そんなネガティブシンキング嫌だよっていう時代じゃないですか。

はい、はい。

資本制のもとに、資本主義のもとに、みんな競争社会を勝ち組負け組で戦っていかなきゃいけないっていうところであくせくしてるから、やっぱり日本を強くしよう、自分の生活を良くしよう、当たり前じゃないですか。そういう煩悩、欲望があって。

はい。

でもそういう中で極端なことを言ってる釈迦仏教に触れるとすると、すごく大事なのは、思い通りにならない「一切皆苦」ってネガティブじゃないんですよ。現実そうなんです。

たとえば、僕も田中さんもディレクターの方々もみんな、「スゥ〜ッ」て、こう息を吸いますよね。

はい。

息を吸いたくて吸って、ひと心地ついてんだったら、ずっと息止めときゃいいじゃないですか。

ええ。

苦しくなるから吐くじゃないですか。吐いてひと心地つくんだったら、吐いたまま永遠に暮らせばいいじゃないですか。吐いたらまた苦しくなるから吸いますよね。

呼吸するってことも、思い通りにならないから吸って吐いてを繰り返すわけですよ。

う〜ん!

それも含めて「一切皆苦」。だから、苦しいって訳しちゃうから、適当な日本語がなかったから、ちょっとネガティブに聞こえるんだけど、至極真っ当な生きるということの本質を説くんです。

あぁ〜。

それで言ったら思い通りになるわけないじゃないですか。だから、そこから始めると悩みちっちゃくなるよっていう。

なるほど。

この悩みと同棲した方がいい、共存共栄した方がいいよねっていうふうになってくる。で、悩みの根本はじゃあ何なんだよってなると、これは自我だと思うんですよ。

これは自分という存在が強くあると、悩み強いですよね。喜びも強いけど。でも自分っていう存在がすーっとサイズ的にちっちゃくなると、悩みも比例しますから。

あぁ〜。

だから僕は自我が強い人間が出してる本だから。そんなね、不遜な答えなんか出せるわけないですよ、悩みに対する、人生相談に対する。

だから一緒に悩みましょうよと。「僕も欲望強いんですよ、自我強いんですよ」っていう本なんですよね。

自我をダウンサイジングする

そっか、自我のサイズをスーッとダウンサイジングしていけば、悩みもダウンサイジングしていく。

そうですね。だって自分というのがあるから自分が悩んでるんですね。だから、その自分を小さくする。

釈迦は固定した自分などどこにもないって、はっきり無我の思想を打ち立てたんですね、2500年前にね。

はぁ、はぁ。

で、これは「自我に目覚めよ」「自分探しせよ」「ありのままに生きていいんだ」という自己肯定感。いろんな自己、自分、自我にまつわることありますけど。自我を言い換えるとエゴイズムでもありますから。利他の精神の反対でね。

ええ、ええ。

僕もなかなか利他で生きることはできてませんけども、そんな自分の情けなさとかズルさを知ってるんで、この歳で。やっぱそこも見つめなきゃいけないなっていう。

もしかしたら自分を生きざるを得ないんだけど、人間っていうのは生存本能があるから。自分っていう規定があるから生き延びようとするわけで。それも大事なんだけど。

本当は自分っていうのはフェイクだよって釈迦が言ったわけです。

う〜ん。

固定した自分なんかどこにもない。

それで言えば、田中さんも僕も1歳のときの写真を親に見せられたとして、「これが1歳の時の自分だよ」と言われて、「そうだ」と記憶を一本化しますけども、1歳のときの僕なんてどこにも今ありませんから。全部細胞も血液も全て時と共に諸行無常で、変わってるわけじゃないですか。

入れ替わってますもんね。

全部入れ替わってます。性格も変わってます。

はい。

だからそういう意味では別人になってるんで、そういうふうに自分というのを見つめていくと、ふっと悩みが軽くはなる。

なるほど。

そういうのをお互いに共鳴し合いませんかっていう感じで、ちょっと訴えたんですけども。

いやー、だからいわゆる悩み相談本とは本当に違う。じっくり読んで、一緒に悩みの世界に飛び込んで。それが、ちょっとやっぱり、その中にもね、古舘さんらしいフレーズがたくさんあるので、読み飽きない。すごいもうね、羨ましい一冊。なんでうちの出版社から出してくれなかったんだって思うんだけど(笑)、素晴らしい本です。

ほんとですよね。でもそれは僕の責任じゃないんですけど。

でも、これいい本なのでおすすめしておきます。

今日の曲紹介|ハナレグミ「家族の風景」

そんな古舘伊知郎さん、今日のリクエスト曲はハナレグミで「家族の風景」。

はい、これ名曲だと思ってるんですよ。

この、どこにでもあるような家族の風景っていうわりに、ありそうだけどそんなにないだろうっていうね。聴きながら反発を覚えたりして。

はい。

で、最終的にハナレグミっていう、またこのユニットの名前が好きなんですよ。やっぱりさっきから言ってるように、自分から離れて見るっていう、これ今時の流行り言葉で言うとメタ認知っていうことなるんじゃないかと思うんですけど。

ああ。

自我から離れてみるっていう。

離れてみる。

そんなのもイメージしながら、ちょっと聴いてみたいなと思いました。

はい、ハナレグミで「家族の風景」。

いや、楽しくやっていただいて、ありがとうございます。

ありがとうございます。

いや、ハナレグミいいですね、なんかもう。ハナレグミ、カバーも良くて。あの「ウイスキーが、お好きでしょ?」も、ハナレグミバージョンが1番好きなんですよ。

あぁ。そうだ、そうだ。

めっちゃ、いい。

ハナレグミで「家族の風景」でした。

本日のゲストは古舘伊知郎さんでした。来週もまた引き続きよろしくお願いいたします。

はい! よろしくお願いします。

おまけの「アフタートーク」

いやー、いい歌ですね、これ。

なんかこう、ハイライトとウイスキーつないでトトってなるじゃないですか。

はい、はい。

あれがこう、喋りじゃなくて音楽になって、「ハイライトト」ってなるだけで「トト」で泣きそうになるんですよ。不思議なのね。

わかります。

なんかね、何かと何かをつないでるもの。

やっぱこう目に浮かぶ。僕はまだ60年代生まれだから、そんなにね、古舘さんほど。たとえば「ハイライト」とか「ウイスキー」とかって言っても、多分これ、「だるま」のイメージぐらいですよね。

オールドかもしれない。

オールド。そういうのが。そういうのがやっぱり、こう目に浮かぶ。

ハナレグミの人たちも、多分僕の世代ぐらいだと思うんですけど、ちょっと下ぐらい?

そうですね。でもあれは、だからお母さんがお酒飲みながら、タバコを吸いながらフライパンを持ってるって僕は思ってるから。客観的に見てんじゃないですかね。

ですよね。

いや、この曲すごい好きで。この曲聴くと、詩人で黒田三郎っていう人がいて、その人のね、「夕方の三十分」っていう素晴らしい詩があるんですよ。

あぁ、そう、「夕方の三十分」。へぇ〜!

これはもう僕大好きな詩で。

もしかしたらそれモチーフになってるかもしれない。ね。黒田三郎さん。

黒田三郎。ちょっとまた工藤さんに送っておきます、それ。

ありがとうございます。ぜひ。

古舘伊知郎プロフィール

古舘伊知郎(ふるたち・いちろう)
フリーアナウンサー、喋り屋

1954年東京生まれ。立教大学卒業後、1977年テレビ朝日にアナウンサーとして入社。「ワールドプロレスリング」などを担当。鋭敏な語彙センスとボルテージの高さが際立つプロレス実況は「古舘節」と称され、絶大な人気を誇る。1984年、フリーとなり、「古舘プロジェクト」設立。F1などでムーブメントを巻き起こし、「実況=古舘」のイメージを確立する。3年連続で「NHK紅白歌合戦」の司会を務めるなど、司会者としても異彩を放ち、NHK+民放全局でレギュラー番組の看板を担った。その後、テレビ朝日「報道ステーション」で12年間キャスターを務め、現在、再び自由な喋り手となる。2019年4月、立教大学経済学部客員教授に就任。ライフワークとして1988年からスタートしたトークライブ「トーキングブルース」は”一人喋りの最高峰”と称され、厚い支持を集める。著書に『喋らなければ負けだよ』(青春出版社)、『喋り屋いちろう』(集英社)、『伝えるための準備学』(ひろのぶと株式会社)、『寝ても覚めても煩悩』(小学館集英社プロダクション)など。

LIFE

伝えるための準備学
古舘伊知郎|ひろのぶと株式会社


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    1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社 「ひろのぶと株式会社」 を創業。