ひろのぶと株式会社のしゃちょう・田中泰延は、整理整頓が大好きだ。
そういえば以前、前田将多氏に「電通でも泰延さんの机がきれい、というか何もなさすぎて、この人辞めたんかなと思った」と言われていた。整理整頓好きは昔かららしい。
彼の整理整頓の目が向く領域は、自身のカバンや机に留まらない。
私たちが会社で床にカバンを置いていようものなら、「床にあるってことは、ゴミやな〜」と言ってゴミ箱に捨てようとしてしまう。
暇があれば——あるいは、ゴッツイ作業に取り掛かる前には——ベランダでタバコを吸うか、ハタキでパソコンやモニターを拭いているか、カメラの手入れをして並びが美しくなるように仕舞い直すか……。
そうやって、掃除や整理整頓をしている時が、一番ご機嫌な気がする。
この日も、しゃちょうは鼻歌まじりに小さなハタキを手に持って立ち上がった。
結石で欠席している上田豪さんの机のモニターを、楽しげに、優雅な動作でサ〜っサ〜っと払い出す。
すると、その隣の席で仕事中だった加納さんがピャッと慌てて反応した。
加納「埃が舞うからやめてって!」
田中「うちは、そういう会社や」
加納「そういうのはウェットティッシュとか濡れてるやつでやって!」
田中「うちは、そういう会社なんや」
加納「私、それで喉アレルギーなんやって!」
加納さんはこの1ヶ月ほど前、喉が痛そうなほどのハスキーな声になっていた。病院に行ったら、風邪ではなくアレルギー反応によるものだと言われたらしい。
それでも、しゃちょうは意固地になって、ハタキを一振り。
田中「うちは、そういう……ケホッケホッ」
加納「ほら〜」
田中「急な掃除、あかんわ〜」
加納「だからいうてるやん。埃、無理やわー」
田中「無理か。退職か。モームリか」

加納「モームリ(笑)。ムリくない」
田中「……ゲホン! ゲホン!! 埃はアカン!!」
まるで自分が最初からわかっていたかのように埃を責めながら、豪さんの机から最も離れた会議テーブルで、今度は自身のラップトップのデスクトップ整理をはじめる、しゃちょう。
そんなしゃちょうに、いつものように「だから私言った! 私が言った!」と主張する加納さん。
今日も、小学1年生男子の日常喧嘩のようなやり取り。
途中で加納さんが笑いだして、咳き込むしゃちょうを心配するところまで、ワンセットだ。
しかし、そんな整理整頓が大好きなしゃちょうも立ち向かうのを諦める強者が、築地事務所にはいる——。
ひろのぶと株式会社は、いつもこんな感じだ。平和です。

そびえ立つ、ヒロセタワー
廣瀬 翼
レポート / インタビュー
1992年生まれ、大阪出身。編集・ライター。学生時代にベトナムで日本語教師を経験。食物アレルギー対応旅行の運営を経て、編集・ライターとなる。『全部を賭けない恋がはじまれば』が初の書籍編集。以降、ひろのぶと株式会社の書籍編集を担当。好きな本は『西の魔女が死んだ』(梨木香歩・著、新潮文庫)、好きな映画は『日日是好日』『プラダを着た悪魔』。忘れられないステージはシルヴィ・ギエムの『ボレロ』。