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2026年9月21日「街角diary」田中泰延がお届けします。

田中泰延


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彼岸断章

人は思い出さなければいけないこと、しなければならないこと一つ一つを、たくさんの糸を器用に手繰るように生きている。

彼岸だが、彼岸には達することができない。


***

土曜、日曜と休んで、きょう月曜になってやっと自分が戻ってきたような気がする。月曜は人間に人間を取り戻させないための何かである。

気が安まることなく、仕事をした日々だった。



思うようにならないことが続く。果たして思うようにしたいと願うこと自体が正しいのか、それもわからない。

ただ運命に従い、自分の能力を全部出す、それしかないのであって、思うように動かないことに苛立ってもしかたない。

しかし休みは必要だったことを思い出す。


***

身体を休めていると、ふと、死んだ友人の声がそこにいるように聞こえる。その人だけの声がする。その人だけが言えることを言う。

細い糸のような記憶を、しっかり握りしめていることに気がつく。

南の島の、水に濡れた肢体の向こうのペパーミントの海。

パリのカテドラルの壁で、咆哮したまま時間を止められている獣。

なぜその糸をたぐるのか。

小人閑居して不善をなす。至らざる所なし。


***

熊本に行った。

ヒノクニには自分になにかエニシがあるのだろうと思う。

その土地の深いところから湧き上がるような関係性を、それは勝手につくりたい自分の物語に違いない。

未来を変えることなんかできない、人が変えられるのは過去だけだ、これは友人の小説家の言葉。

毎日、糸をたぐっては少しずつその先の出来事を書き換えて生きている。


***

たくさんの糸を手繰り寄せて生きているが、いい歳になってしまうと赤い糸は見当たらない。

きょうはひとり車で、曇り空の下の海でも見に行こうか。

車が、故障していた。

彼岸だが、彼岸には達することができない。


***

どうでもいいか。どうでもいいな。と締めくくろうとして許可をもらっていないのでやめる。

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  • 田中泰延 映画/本/クリエイティブ


    1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社 「ひろのぶと株式会社」 を創業。