休憩、一服、ブレイクタイム、コーヒータイム。とてもいい響きだ。
仕事に集中しているとき、休むことを忘れていて、誰かに「休憩しよう」と言われたときの幸せな気持ちといったらない。
若く力がみなぎっていたころは、学生時代の延長よろしく、休憩時間も何かをすることが多かった。同僚とこぞってバスケットボールをしたり、キャッチボールをしたりした。そんなとき、工場にいた目上の職人さんたちはみな口を揃え、「休むときは休んだほうがいい」と告げてくれた。
どの国でも、ブレイクタイムは存在する。
アジア広域では主にティータイムが多く、様々な種類のお茶を出される。
ベトナムも北部はお茶が多いが、南部ではコーヒーも出てくる。目の細かいフィルターでドリップされるコーヒーではなく、もっと豆々しいドロドロしたものが多い。形態はブラジルコーヒーと似ていて、砂糖をこれでもかというほど投入する。絶対に甘すぎると思いながら飲むと、これが予想外に美味しい。
仕事で疲れているときほど効果が高い気がして、頭もスッキリする。脳の疲労に、砂糖の甘さは大切なのかもしれない。

加えて、ベトナムにはシエスタのような昼寝文化が存在する。一説によると、スペイン圏のシエスタはアジアから輸入されたのが発祥、という話もあるようなので、時間があるときに調べてみたい。
昼寝といっても、日本のように昼休みにデスクに突っ伏して寝るスタイルではなく、ベトナムの彼らは本格的に寝袋やタオルケットを持参し、オフィスも消灯して床に寝る。
拙著『スローシャッター』でもベトナムのことを書いているが、忙しいロアンですら、その時間になるとキッチリ寝ていた。
僕も仕事中にウトウトすることがある。数分間寝ると、午後からやたらと目が冴えて、集中力が増すことはわかっているのに、つい眠らずに何かをしてしまうので、日本でも昼寝を新しい文化として取り入れるべきだ。
南米チリでもシエスタの文化は古くからあったようだが、近代ではすっかり廃れてしまった。だが、彼らにはオンセ(Once)という文化が存在する。オンセは概ね夕方の17時頃からはじまる「軽食タイム」であり、国民的パンであるマルケタ(Marraqueta)やアユジャ(Hallulla)に、各々が好みのトッピングを乗せ、紅茶やコーヒーと共に食べる。家族はもちろんのこと、会社の同僚同士でもオンセは行われ、日の暮れる時間に優雅な時を過ごす。
オンセとはスペイン語で数字の「11」を意味するが、以前チリの連中になぜオンセと呼ぶのかと尋ねた。
昔の鉱山労働者たちは、労働の疲れを癒やすため、アルコール度数の高いサトウキビの蒸留酒、アグアルディエンテ(aguardiente)を人目に隠れ飲んでいたそうだ。
このアグアルディエンテの単語が「A-G-U-A-R-D-I-E-N-T-E」と11文字であることから、奥さんや家族の目を気にして「11(オンセ)を飲んでくる」と隠語で呼んだのが最初だと説明され、歴史的にどこの国の男もしょーもないという話になり、大笑いした記憶がある。
その後、オンセ文化はお酒ではなく、軽食とお茶を楽しむ形に変化した。
米国でもオンセ同様のハッピーアワーがあり、ミネアポリスで仕事をしているときも平日の16時には会社を出て、近場のレストランで小一時間アルコールを飲んで帰ったことが何度かあったが、とても良いシステムだと思った。
GAFA企業などでたまにある、社員にはジムから洗濯サービスから食事まで全て揃えていますという企業広告を見ると、陰鬱な気持ちになることがある。
従業員が家に帰り、家族や仲間と過ごすべき時間を消してまでここで働いてくれというスタンスは、人間というものに対して敬意があると思えない。
SNSでも就業時間や仕事の効率について延々とポストしている人を見かけるが、人生は仕事だけのためにある訳ではない。
世界では既に過激さを増すハッスルカルチャーの異常さに気づき、何が人にとって本当に大切なのかを理解し、働く仕組みを変革する企業が年々増加している。
近い将来、もっと人が人である世界に戻れるよう、静かな期待をしている。
田所敦嗣さんの著書
スローシャッター
田所敦嗣|ひろのぶと株式会社
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田所敦嗣
エッセイ
千葉県生まれ。水産系商社に勤務。エッセイスト。著書 『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)で、SNS本大賞「エッセイ部門」受賞(2023年)。フライ(釣り)、写真、野球とソフトボールが趣味。人前で声が通らないのがコンプレックス。






