田口トモロヲにナレーションしてもらうべき。
映画『トゥモローランド』
ふだん広告代理店でコピーライターやCMプランナーをしている僕が、映画や音楽、本などのエンタテインメントを紹介していく田中泰延のエンタメ新党。
前回、キリのいい10回目を迎えたところで、なにかすっかり終わったような気がしまして、貴族だけが来店を許されるという高級割烹・鳥貴族に入り浸っていたところ、驚いたことに編集部から「貴族? 何様だ? 働け」と原稿の催促がありました。終わってなかったのか。貴族に対してはもう少し敬意を払った言い方をしてほしいものです。そんなこんなで連載11回目、高貴な者の義務を果たすべく書きます。どちらかというと、観てから読んだほうが話のタネになるコラムです。
ちなみに、「働かざる者食うべからず」という言葉がありますよね。これ、「労働者やサラリーマンは怠けてはいけない、怠けるやつは餓え死にしろ」という意味だと思っていませんか? 違います。これはソビエトが社会主義革命を成し遂げた時に、「働かずに人々を搾取する資本家や貴族」を共産党が批判した言葉だったのです。ですから鳥貴族に入り浸る私のような貴族に向けられた今回の場合は、本来の使い方であると言えるでしょう。
さて、「かならず自腹で払い、いいたいことを言う」をこの連載のルールにしていますが、「田中は映画を褒めてばかりではないか」 「鳥貴族に行きすぎではないか」「もも貴族焼きの食べ過ぎではないか」などの批判が、ごく一部の、全体のわずか90%程度の人から寄せられました。
ですが、別に無理して褒めてるわけでもなく、ここまで10回、けっこう面白い映画に当たってきたのです。ですが、今回は大丈夫です。安心してください。褒めてません。
そんな、決して悪くはないけれども隅から隅まで褒めるわけにもいかない映画がこちら。映画『トゥモローランド』。予告編をご覧ください。ここ大事なんで、ぜひご覧ください。
Reference:YouTube
ディズニー映画です。SF超大作です。製作費1億9千万ドルですよ! 日本円に換算しようとすると…円安が進んでいるので、こうしてあなたがこの文章を読む間にもどんどん製作費が増えているのです。
なにしろ主演はあの、ジョージ・クルーニー様です。世の中の映画は、ジョージ・クルーニーが出ている映画と、出ていない映画に分けられるという、あのジョージ・クルーニーです。

僕、よくタクシーの運転手さんにジョージ・クルーニーと間違われるんですよ。「お客さん、ジョージ・クルーニーはんちゃいまっか?」「えっ? 似てる似てるとは言われるけどなー」「いやいや、本人は皆そない言いまんねん。ぜったい本人でっしゃろ」「隠されへんなー」「そらそうと阪神負けましたなあ」「今日は鳥谷がアカンわ」……大阪のタクシー、めんどくさいです。
ストーリーをぐいぐい牽引するヒロイン、女子高生ケイシー役にはブリット・ロバートソン。

実は25歳の女優さんですが、この映画では女子高生にしか見えません。演技はとても表情豊かでチャーミングです。
さらに、物語に大きな意味を持つ少女、「アテナ」にラフィー・キャシディー。

この子が本当に少女かどうかは置いといて、この3人で映画は展開します。
まず見どころはなんといっても画面いっぱいに広がる “トゥモローランド ” の都市そのもの。

シド・ミードがデザインした都市は、僕のような45歳のおじさんが、小さいころ漫画や本の挿絵で見た未来そのものです。
これは、手塚治虫が『鉄腕アトム』で描いた未来都市。似てますね。もう、僕が子供のころはこんなのばっかりでした。

道路は空中をグネグネしてるし、車はかならず空を飛んでました。レトロフューチャー感とでもいいましょうか、逆に言うと、決してそうはならなかった人類の未来ですね。
僕が大阪で生まれてしばらくして、1970年の万国博覧会、いわゆる大阪万博がありまして、「人類の進歩と調和」がスローガンでした。とにかく科学の力で、未来はユートピアって信じてたんですよ。ところがその後、人類はどうも進歩も調和もしないぞ、ってみんな気付き始めたんですよね。環境破壊は進む、原子力発電もけっこう危ない、核兵器はなくならない、戦争もなくならない。
なので、映画や漫画も、『マッドマックス』とか『北斗の拳』とか、『ターミネーター』とか『AKIRA』とかね、人類の未来はユートピアじゃなくてボロボロの “ディストピア” だっていう作品ばっかりになってしまいました。
しかし、この映画はそんなバラ色の未来をみんな信じていた、1964年のニューヨーク万博のパビリオン、「イッツ・ア・スモールワールド」から始まります。そう、「イッツ・ア・スモールワールド」はいまも世界各地のディズニーランドにありますね。もともとは、ニューヨーク万博に建設されたものが、カリフォルニアのディズニーランドに移築されたものだったんですね。

物語は、のちにジョージ・クルーニーが演じることになる主人公・フランクの子供時代から始まります。ニューヨーク万博に来ていた少年、フランクが少女アテナと出会い、彼女を追いかけて「イッツ・ア・スモールワールド」に乗ると、もらった「T」のマークのピンバッジが光って、まるで異次元へワープするかのように未来都市「トゥモローランド」へ導かれます。
そして話は現代に飛びます。女子高生ケイシーがひょんなことから手に入れた同じ「T」のピンバッジ。それに触れると、彼女もやはり、ワープするように「トゥモローランド」へ行けるのです。
トゥモローランドといえば、いま現在、世界各地のディズニーランドにあるエリアの名前でもあります。

室内型ジェットコースター、「スペースマウンテン」が目印ですね。

映画で描かれるトゥモローランドは、巨大都市そのものなのですが、そのなかに「スペースマウンテン」もちらっと映ったりしてなにか関連があるような印象を受けます。

そうなると、どう考えても、実際のディズニーランドにあるトゥモローランドと、この映画内の「トゥモローランド」に密接なリンクがあって、ディズニーランドに行くのが次回からきっと楽しくなる! と思いませんか? でも違うんですよ! ぜんぜん関係ないんですよ!
この映画の公式ホームページに掲げられている宣伝文を見てみましょう。
世界に何が仕掛けられたのか?
ディズニーランドにあるテーマエリア“トゥモローランド”を知っていますか?
それは、夢と魔法で人々を魅了し続けたウォルト・ディズニーが創った、未来への扉。
だが、それが実は、彼の本当の夢を覆い隠す、壮大なカモフラージュだったとしたら?
映画「トゥモローランド」は、ウォルトが遺した最大の謎にして最高のプロジェクト。
エジソンなど世界の天才たちが英知を結集して建設した“すべてが可能になる場所”──それが“トゥモローランド”。
いやいや、映画の中でウォルトとか、まったく関係ないですから。予告篇にすら、本篇に関係ない話が紛れ込んでいます。
実際は、ウォルト・ディズニーはテーマパークどころか、本物の未来都市をフロリダに作ろうとしていました。「実験的未来型地域」(Experimental Prototype Community of Tomorrow)略して「EPCOT」です。それがよくわかる映像です。
出典:YouTube
このウォルトの理想とこの映画の関係、好意的にとらえれば、映画を作り上げた意思そのものがウォルト・ディズニーの夢を継いだものと言えるし、脚本家と監督が、現状のトゥモローランドから想像を膨らませて、あえて今あるテーマパークと関係ない物語にしよう、という意気込みがあるのかもしれませんが、この宣伝コピーと予告篇はどうかと思います。
監督は、ブラッド・バード。

『Mr.インクレディブル』や『レミーのおいしいレストラン』で2度のアカデミー長編アニメ賞を受賞した監督です。
アニメ監督なんで、その後、実写映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の監督を務めたときも、やはりちょっとアニメっぽいなぁと思ったんですが(特に人が落ちたり殴られたりしても痛そうじゃないところとか)、今回はどこからどこまでCGなのかわからない絵作りなんで、向いてたんじゃないでしょうか。ただ問題は、ちょっとこの映画にかける意気込み、詰め込んだ中身が多すぎ、なような気がします。
脚本は、デイモン・リンデロフ。

怪作感あふれる『カウボーイ&エイリアン』や、奇作としかいいようがない『プロメテウス』の脚本家です。この2本の映画を観た人は、ちょっとイヤな予感がすると思います。そもそもテレビシリーズ『LOST』の脚本家です。そうです、風呂敷を広げてたたまないことには定評ある御仁です。
さて、映画の筋に戻りましょう。物語は少女アテナがケイシーと出会うところから大きく転がり始めます。ニューヨーク万博の頃から何十年もたっているのに、アテナは少女のままです。彼女はロボットなんですね。で、アテナはケイシーに、滅びそうな地球を救うために、フランクに会え、という。なぜならあなたは世界を救う選ばれた人だから、みたいなまぁ、お約束のやりとりがあって、すっかりオッサンになった(ただしジョージ・クルーニー)かつての少年、フランクに会います。
そこから映画はものすごくドタバタします。ほんとにドタバタします。まるでテーマパークのライド、つまりアトラクションに乗せられてる感あふれるシーンが続いて手に汗握ります。ですが、さっぱり筋がわかりません。いや、これね、ほんとうにわからないんですよ。なんで主人公たちは追ったり追われたりするのか? なんで地球は滅ぶのか? その地球の救い方は? …自分の頭が悪くなったのではないかと疑うほどにわからない。もし説明してくれる人いたら、その人はたぶんTOEICで3,000点ぐらいとれます。
主人公ケイシーも何度も「どういう事なの!? 説明して!」と聞き、ジョージ・クルーニー演じるフランクは何度も “ Use your imagination ” といいます。いやいや、イマジネーションを映像にしてお金取るのが映画だろう。見せてくださいよ。
トゥモローランドは、現在の地球をはるかに超える技術がある世界で、地球を見張っている? だけど滅亡しそうな地球を見放している? いやトゥモローランド自体が滅びそう? はぁ? そもそもトゥモローランドを作ったのが昔の偉人なのか、未来人なのか、はたまたロボットの国なのかも、僕よくわかりませんでした。
もうちょっとkwsk説明してくれたほうがよかったのではないでしょうか? 人類を救う、という一大プロジェクトなんですから、NHKの『プロジェクトX』みたいに丁寧な説明ナレーションをつけてほしかったですね。もちろんナレーターは田口トモロヲです。…トモロヲランド。これが言いたかっただけか俺。
この映画、説明は不足ですが、脚本家と監督の「好きなものを詰め込みました!」「SF愛!」「美少女愛!!」「ロボット愛!」「ディズニーランド愛!」という意気込みは伝わります。伝わるんですけど、筋がわからない。と同時に、とても気になった点を箇条書きしていきますね。
● SFオマージュが多い割には、スターウォーズ関連グッズの扱いはひどい。「スターウォーズはディズニーの所有物だからどう破壊してもかまわんのや」的なの、それでいいの?
● なんか残虐描写多くないか?
相手はロボットとはいえ、首は飛ぶし腕はもげるし、ちょっとショックですよ。小さい子供がみたらびっくりします。
● ユートピア、ロボット、タキオン粒子、宇宙旅行、…SFとしてメインディッシュな素材をたくさん集めています。ですが、集めすぎてワケわからなくなっています。テレビシリーズでワンシーズンかけてゆっくりやればもっと面白かったでしょうね。そのへんも『LOST』の脚本家っぽいです。2時間しかない映画で「その謎はまだ秘密」って引っ張りすぎて、秘密のまま終わります。僕も職場では「我が社の秘密兵器」と呼ばれていますが、秘密のまま定年を迎えそうです。
● 特にストーリーを複雑にしてしまっているのが、エジソン、テスラ、エッフェルなど歴史上の科学者や作家が作った「秘密結社プルス・ウルトラ」が「トゥモローランド」を計画したというくだり。陰謀論なのかなんなのか、『ダヴィンチ・コード』みたいな謎解き感たっぷりなくせに、スッキリした答えもありません。監督がカットしてしまった「秘密結社プルス・ウルトラ」の部分がYouTubeに上がっています。
出典:YouTube
ところが、映画内では説明をやめてしまったくせに、映画のプロモーションの一環としては、「秘密結社プルス・ウルトラ」の話をほのめかしているのです。
ちょっとこれはこの映画をさらによくわからなくしています。もしかして続編があるのでしょうか。
● 映画自体が主張しているメッセージは真っ当です。「未来は、変えられる。諦めなければ、よりよい世界を建設できる」でも、これが人類の自発的なものでなく、上記の「秘密結社プルス・ウルトラ」の考えだとしたら、これまた危険です。本来なら、映画のストーリーというのは、観客が主人公と一体化して、地球を救うために苦心したりして乗り越えるものです。しかし、この映画では一方的な「選ぶ — 選ばれる」という関係にしか地球を救う鍵がありません。
● 僕は、それがたとえ的外れでも、こじつけでも、映画にちりばめられたようにみえる謎を深読みして遊ぶのは好きなので、「味園ユニバース」の回でも「バードマン」回でもかなり徹底的にやってみました。けれども、今回はする気がおきません。映画のラストに、選ばれた人だけが「T」のピンバッジを貰い、「トゥモローランド」へ行くという、一歩間違えれば選民思想にしかみえない表現が出てくるからです。しかも、地球を救うことを諦めない人がみんな地球を離れてトゥモローランドへ行ったら地球はどうなる。
● いちばん納得いかないのは、美少女ロボット、アテナの最後です。いやはや、なんとも痛々しい。僕は伝説のアニメを思い出しました。とにかく、観てください。僕、今回はこれをみんなに観てほしくてここまでぐだぐだ書いたような気さえします。1974年にTBSで放送された、『チャージマン研』という伝説のアニメの、伝説の第35話、「頭の中にダイナマイト」です。
出典:YouTube
見ましたか? 見ましたよね? あなたの手はいま合掌しているはずです。
何度も言いますが、いいところ、いっぱいあります。メイン3人の演技は悪くないし、未来都市、エッフェル塔…シーンごとに切り取れば、すばらしい映像体験です。ていうか、なんで僕、この映画のためにいろいろ弁解してるんでしょうか。
それと僕、この映画、IMAXで観たんで迫力は星五つでした。でも、メガネかけて観るもんだと思ってたら3Dじゃないんですよ。テーマパークのアトラクション的な映画であるからこそ、3Dで観たかったな、という思いは残りました。
あと、IMAXだからか、レイトショーなのに2,000円。自腹で払っているからこそ言わせてもらうと、高いです。ディズニー映画ということで期待も大きかったのですが、けっこうな…出銭。もう一回言います。ディズニーで出銭。もういいですか?
駄洒落と下ネタさえ言えば、きっと若い女の子にモテる、いつかモテる。そんな夢を捨てずに持ち続けることが大切なんだ、と僕は信じています。
なんか、小言たくさんみたいになっちゃいました。でも、途中何度も映像に目を見張りましたし、前向きなファンタジーには間違いないんで、可能であればIMAXシアターでの鑑賞がおすすめです。
