〜鯛を獲る藤川さん「生き物との戦い」〜

こんにちは。
ひろのぶと株式会社の田中泰延です。
「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」を製造・販売する「おのみち鮮魚店」の鈴木創介さんから、尾道を取材して寄稿を、というご依頼を受けたのは、今を遡ること3年前。
「うちの鯛は、藤川さんという漁師さんから仕入れているんです」
「ぜひ直接お話を伺いたいです。鈴木さん、お願いいたします」
そうして実現した、尾道漁業協同組合 代表理事組合長・藤川伸一さんへのインタビュー。この収録は、世界がまだコロナのただ中にあった2022年2月に行われました。

田中
初めまして。田中泰延と申します。
今日は鈴木さんにお招きいただきまして。
鈴木さんから、こちらの「天然真鯛の炊き込みご飯」を送っていただいて。あまりに美味しくて、家族で取り合いになるぐらい食べてしまったんです。

鈴木
喜んでいただけて。
田中
そのまま解凍して炊飯器で炊いたら、鯛も全然形が崩れないまま出来上がって、もうめちゃめちゃ美味しかったんですよ。
その鯛を獲った漁師さんが藤川さんと伺って、今日はお仕事場にお邪魔しております。

藤川
はじめまして。なんでも聞いてください。
鈴木さん、これ、販売するにあたって、鯛は姿のままでシートパックに入れて?
鈴木
鯛を3枚におろしてですね、半身を1つ入れる。野菜とともに冷凍して、それをあのパッケージで販売してます。
藤川
骨なんかどうするん。
鈴木
全部抜くんです。
田中
僕が食べた時、パッケージに「骨にお気を付けください」って書いてあったけど、一回も骨に当たらなかったですよ。
鈴木
そうですね、そこは気をつけて作ってます。
藤川
骨取ったらちょっともったいないけどなあ。
出汁を取る時は骨から出るんじゃけ。ラーメンでも一緒じゃろう? とんこつでも骨からじゃけ。
鈴木
出汁はですね、完全にアラを綺麗にして、昆布だしにアラを入れて、圧力鍋で取ってるんです。
藤川
昆布と鯛は合うからね。昆布締め、いうてね。
うちもね、遊漁船でお客さんと釣りに出る時には鯛めしをね、沖で炊きょうるわけだけど。
内臓とエラをね、絶対取らなきゃいかんから。エラから臭みが出るけ。
田中
エラから臭みが。
藤川
血合いのところを歯ブラシでこすってね、取ったりするけど。
鈴木
ええ、ええ。
僕は、つまようじを10本ぐらい束ねて、ぐるぐる巻きにして血合いをこすってますね。やっぱり臭みをどうしても取りたいんで。
藤川
歯ブラシがええなよ。歯ブラシが見やすうて。
鈴木
あー、歯ブラシなんですね。 なるほど。いいこと教わりました。

田中
鯛めしというのは、尾道では昔からみんな食べよったんですか?
藤川
船の上でね、鯛を獲ってその姿のままね、ご飯の上に乗せて、それで鯛めしを作りょった。鯛の出汁が全部出るけの。
この辺はね、昔は鯛を獲る船は、そんなにおらんかったね。
田中
あ、そうですか。
藤川
昔はクロダイを獲る船が多かったね。チヌね。チヌもご飯と炊いて食べよったね。僕もチヌを獲りょったんじゃけど、チヌと鯛いうたら、価格は雲泥の差があるよね。
田中
はい、はい。
藤川
鯛は昔、1匹何万もなりょった魚じゃけ。 で、自分も鯛を獲りに行き出して。

田中
僕のおじいちゃん、祖父が日立のドックで働きよったんですよ。そこのね。大正時代ですよね。
で、 親父は昭和元年生まれで、向島の生まれです。その後、親父が大阪に出て僕が生まれたんですけど。
藤川
昭和元年いうたら、いま90いくつぐらいに。
田中
76歳の時に亡くなりましたけど、生きてたら96歳ですね。
父に連れられて、子供の頃は尾道来よったんで、今日はすごい嬉しいんです。
藤川
ここは昔ね、捕鯨船が着きよったんよ。
田中
ええ! この岸壁に! クジラを水揚げしてたんですか?
藤川
いや、船の修理で、ドックに捕鯨船が入ってきよった。
自分はこの浜で育った人間じゃけ、小さい頃、捕鯨船がね、大きいのが入るのを覚えておりますね。捕鯨船がね、ここに着けて、尾道は結構、飲み屋街がにぎやかだったねえ。船乗りが皆、尾道の飲み屋へ出て遊んだりした。福山の人も飲みに来たくらい。
田中
福山の人も飲みに。
藤川
あの頃は華やかでな、捕鯨船からクジラを持ってきて、みんなに配るとか、そんなこともあったんで。あの頃はクジラに関して厳しくなかった(笑)。
田中
捕鯨はね、今は叩かれるから。
藤川
クジラで世界が騒ぐようなこともない。今は環境保護のなんとかいうのおるやろ。
田中
そうですね〜。
藤川
まあ50年ぐらい前の話です。

田中
組合長はずっと漁業されて。
藤川
おじいさん、親父、わし。知っとる限りは3代目よな。
ひいおじいさんは何をした人か知らんよ。父親もひいおじいさんの話はわしにしたことなかったからわからん。
田中
おじいさんも船乗り。
藤川
そうそう、漁師。
まあ、今とは漁法が全く違うけどね。例えばコハダ、それとコハダの大きいのがコノシロ、獲りに行ったりね。ボラとか。
あの頃は、まだ養殖がない時代で。道もない橋もないで、海が時化たら、魚がそろわん時代で。ボラは大きゅうて、刺し身になるでしょう。だからね、キロ単価でかなりの高額で取引されたんですね。
田中
ボラ、どれぐらいの大きさのも獲れます?
藤川
僕らは目方だけなあ、重さで測るけ。今は魚は「何センチ」ていうけどね、昔はね、1キロぐらいあったらもう大きいのだと言うとったけどね。
今頃はね、地球温暖化になったのかしら? なんかとんでもないでかいの、ボラは2キロ、3キロぐらいの、もうとんでもないのが揚がる。重うて持たれんで。
「とどのつまり」いう言葉があるでしょ。
田中
「とどのつまり」言いますねえ。
藤川
あれはボラから来とるんです。ボラがもっともっと大きくなったらトドいうて、それより大きくならんけ。それで「とどのつまり」、その言葉はボラからきてる。
カラスミを持っとるかな。重いトドはね。11月入ったらね、その時分にはトドの中にカラスミが入っとるけ。

田中
ここから船が出て、漁場というか、どのあたりまでが範囲なんですか?
藤川
組合によって漁業圏の設定が違うけね。うちの組合はここからここまで、とか厳しく漁業圏が設定されてるわけではないんで。
まあ、個人個人、1つの船を持ってる人は社長で。その人の行きたい場所、漁業圏内の許された場所で行きたいところへ漁に出るだけのことであって、うん。圏外漁業も多少はしとるんじゃけどね。
田中
どのへんまでですか?
藤川
愛媛の方までね。大三島とか、弓削島とかね。ああいうところは組合個人でまあ、お金を払うとか。資源管理の費用を収めてやらしてもらったりね。許可を得てやらせてもらったりと。
田中
ここは、瀬戸内海がぐっと狭なっとるところですけども、ここで目の前で獲れるといったらなんですか?
藤川
一番は鯛。やっぱここでは鯛。
季節によるけどね。まあ、尾道水道はええとこで、ヒラメもおり、チヌもね、ここは砂地で餌が豊富にあるんでね。昔はアイナメがよう獲れたけど、今は1匹もないけな。アイナメは今、幻の魚になっとるけな。
田中
はいはい、子供の頃よく食べましたアイナメ。
藤川
脂がええけね、アイナメは今ものすごい価値ある、おらんけ。で、明石でね、宮城から稚魚を貰うてきてね。放流も試したんじゃけど効果がないんでね。
アイナメが減ったのはやっぱり温暖化のせいやけね。アイナメいうのは水温が上がるとようないね。
11月から12月に産卵するんじゃけど、水温が高いけ産卵の感覚を忘れたんじゃないかなと思うんです。北海道のホッケと種類が同じようなけな。
田中
ですか? ホッケと?
藤川
ホッケにそっくりじゃ。アイナメは。ホッケはやっぱ冷たいところおるじゃろ?
田中
ホッケはえらい大きくなるまで育ってますけど。
藤川
アイナメも大きゅうなったら1キロぐらいにはなる。45センチくらい。あれが一番減ったな。逆に鯛は増えてきたなあ。
田中
そうですか?! 鯛が増えた!
で、さっき明石の話が出ましたけど、明石とよう似てますよね。ここの地形が。海峡で。
藤川
まあまあ、そうよね。明石も淡路島に橋がかかって、まあちょっと大きいけど(笑)。潮流があっちのほうがちょっと速いかな。
田中
明石も鯛がよく獲れるというじゃないですか。それはやっぱり海が似てるとかあるんですか?
藤川
まあ行って海で操業したことはないけど、明石へ研修では行ったけどね。明石の組合長とも話をしたけど、あそこは「ちりめん」に力を入れとるわなあ。
田中
あの、釘煮にするやつですね。
藤川
そうそうそうそう。ちりめんに力を入れてる。漁師の奥さん連中が働くところでね。
明石はね、市場行くとね、銭湯の浴槽みたいな、とんでもない水槽があるけね。中は全部海水で。そこでね、漁師の奥さん連中がカゴに入れて魚を活かして競りをする。昔は仲買いからしか仕入れることができなかったけど、明石は料理屋とかすし屋とか、直接競り落とすことができます。
田中
はぁ〜。
藤川
そんで鯛も揚がっとったけど、大きな。
田中
明石の鯛と尾道の鯛とで、違いみたいなもんありますかね?
藤川
いや、それはわからんな。じゃけど形はすごいよかったな。明石の鯛は。
田中
尾道の鯛の、ここが美味しいみたいなのありますかね? ここがええ!っていう。
藤川
まあ、そうじゃなあ、脂がのっとる時期があってね、魚には。
尾道の魚はやっぱり餌が豊富でね。
田中
餌が豊富。
藤川
潮の流れも結構あるし、どこにも引けを取らんぐらいの脂乗りがあると思う。うん、食べた人はやっぱり実感しとると思うんですよね。
田中
はい、美味しかったです。本当に。

藤川
だけど、どの魚にも言えることは、獲ったあとじゃね。獲るだけじゃないで、獲ったあとのね、例えば締め方とか、うん、そんなんも考えてね。
獲ってからどれだけ付加価値をつけて、売るか、それでどう美味しく消費者に食べてもらおうかと。
例えば血抜きをするとか。神経締めとかね、それをきちっとね。氷水のなかで何分間つけて締める、そういうことをきちきちと丁寧にして渡すと、やっぱし美味しいってね。うん、まあ評判になってくるんだけど、そこらへんが一番大事なんじゃないか? どんな魚でも、なんぼよう肥えて、脂が乗ってるいうても、それより人に渡す前の準備ね、やっぱし、そこが一番大事。
田中
獲れたらしまいじゃないんですね。
藤川
そう、獲ったあとが。例えば、大きなええ魚獲れたんです。それですぐ、はいはい、そのまま渡した、これじゃダメよな? まあ漁師それぞれやり方があるんだけどね。
田中
神経締めってどうやるんですか?
藤川
頭のとこでね、針金を通して、背骨の真ん中に神経あるんですけど、突くんです。
田中
すごい! そんなことをやるんですね。
藤川
鼻から入れる方法と、尻尾を切って刺す方法もあるけど、1匹ずつそうやって締めていくんです。
鈴木
藤川さんはもう、本当に丁寧に。
藤川
尻尾から血抜きすると、それだったら尻尾とかに血が固まるよね。エラを首の骨のところまで切ってあげたら、そこから血が全部出る。で、氷水をね。 桶に冷たい水を作ったところに頭から突っ込んで逆さまに、尻尾を上にして血抜きをしっかりして。それでやっと消費者に渡せる。
田中
僕はもう、食べさせてもらって脂が良かったですね。なんか大阪だから、そんなに普段鯛は食べてないけれども、例えばほら、正月とか焼いたやつなんか、もっとこうこうカスカスッとした魚かなと思ったから脂がいい感じで。
藤川
ええ魚持って帰っても、調理の仕方もあるでしょう(笑)。なんぼええ魚でも調理が下手だったら、これはまたね、美味しいものにならんわな。
田中
あの炊き込みご飯は、事前にまずいろいろと調理をして、出汁も取っておいてからですもんね。
鈴木
そうですね。出汁はもう本当に丁寧に取ってますね。
藤川
2週間前に鈴木さんが炊いてくれてね。
ここで漁師のメンバーがそろって食べさせてもらったんだけど。おいしかったですよ。
田中
ああ、そうですかあ。漁師さんが言ったら間違いないですね。
藤川
うちに口うるさい人がおるんよ。あの人がお代わりしよったぐらいやから。

鈴木
うちの伯母が藤川さんと一緒で、ここの漁師だったんです。
それで伯母がみんなに振る舞っていた炊き込みご飯のレシピをもうそのままコピーして、あとは骨とか綺麗に処理をするっていうのをコンセプトにやってるんで。
藤川
そうです。 鈴木さんの伯母さんに当たる人はね。まあ、長年漁師で、旦那さんはうちの親父と同級生で、うちの親父とも親交があって。いろんな魚を獲ってご飯を炊いたりね、キジハタでアコウ飯をしたりね。遊漁船のお客さんに出しよった。
ここらでは遊漁船のこと、「なぐさみ」言うてね。
田中
「なぐさみ」。
藤川
勤め人の人がね、1週間しんどい思いをして、その疲れをね、船の上で癒やすというかね、自分をいたわる。
船の上で漁師の人が料理でおもてなしして慰める、漁師の間でも「なぐさみ行きよんか」言いよったね。そういう言葉で、「なぐさみ」と名前が付いたいうことを聞いたんですよ。
田中
船に漁師と一緒に乗って、本当の海の料理を食べて。
藤川
そうそうそう。
お客さんも日曜の休みの日に楽しみにして、いいストレス発散です。
船乗って、魚が網に入っても全部見えるわけだよ。これも演出。私らは、ええ演出をしてあげないと。乗ったお客さんたちに。漁師の体験を目でも見てもらうということです。
船頭さんが演出を大事にするんですよね。魚がおらんとこで、網を見ても全然1匹もかかってないじゃね、お客さんがご覧になっても楽しくないんでね、魚がようけ入るような場所で網を打っては、これでお客様の目の前で、ローラー上げて、それで喜んでくれるわけでね。
それ獲れた鯛で、刺し身に煮付け、鯛めし、締めに煮付けの汁でおいしいそうめんね。
なるほど、これがなぐさみですよ。
田中
ああ〜おいしそう〜。それはいいですね。
「なぐさみ」って初めて聞く言葉ですね。
鈴木
「なぐさみ」、結構、語源調べたんですけどどこにも出てなくて。
藤川
本当この辺りで使われている言葉で。昔から言われてる「なぐさみ」の船ね。

田中
あと、お伺いしたかったのは、さっきも尾道は昔は夜の街も大変栄えて、漁師さんも多かったという話をうかがったんですけど、組合長として、近年の尾道の漁業のご苦労について。
藤川
うーん、そうだなあ。まずはねえ、ここの漁業者がね、私らが若い時は300人以上おったと思うよね。その組合が今60人足らず。 後継者がね、いない、うん。どうやったらいいのかな。
うちの父親も、バブルの時代に、お前、もう丘へ上がれと、お堅い仕事にせえと。もう安定した仕事、丘職をせえと言われたね。わしはやめんかったけど。
親父も自分自身が漁師が好きで漁師になっとるわけですけど。わしも漁師が好きで漁師になって41年だけど。
魚価の低迷がね、漁価の低迷がひどうなってる、これが一番のネックかなと。
早う言や、農業でいうたら「豊作貧乏」。
一番漁師の弱いところは、「生もの」なんよね。日持ちがせんでしょう。
田中
そうですね。
藤川
日持ちがせんけ、ようけ獲るだけ獲って、置いといて何日か経って出荷したらええいうわけにはいかんわけよ。
田中
うんうん。
藤川
増えてきてる魚もおるし、減っとる魚もおる。それは今の気候変動でね、温暖化で減っとる魚もおれば増えてきた魚もおるんよね。キジハタとかあれ高いわけよね。ああいうの増えてきたけ、ええこともあるわけ。それで、ええ言うても、キジハタなんか、昔の一番高かった頃の1/3の相場やけ。クロダイ、チヌはね、昔の1/10。
田中
そうなんですか!
藤川
昔は養殖もないしね。あの頃チヌがキロ5,000円。鯛なんか40センチの1匹が2万5,000円。
鈴木
すごいです。
田中
いまだと考えられないですね。
藤川
わしら、そういう時代を生きてきとるけ。
鈴木
うーん、今だと本当に、獲っても獲っても豊かになれない。
藤川
あの頃は魚がどこからも手に入らなきゃ、流通が行き届いてない、高速道路もない、橋もない。
今は橋が架かって愛媛県から何でも魚がくる。宇和島だろうがどこだろうが運んでくる。保冷車いうかね、トラックに冷たい水を張って、ろ過装置がついたもんで、魚をまさかの生きたまま運んでくる。
そういう設備がない時代だけえ、魚も高かったわけ。キロ単価4,000円だった魚が今は300円とか。
鈴木
ええ。確かにもうすごい立派なチヌが本当、キロ300円から400円。
藤川
わしが鯛を獲り出した頃はね、大体キロ7,000円か8,000円、それでも安なって。もっと昔のことだったらキロ何万でしょうね。
それがだんだんだんだんと下がって4,000、5,000円になって、今だったらええ鯛でも基本的にもう昔の1/10とか、1/8。
だいたい、漁師になるんは資本がかかるじゃろ、何千万も。
田中
そうですね、船もいるし。
藤川
この何千万の資本をかけて漁師になるのはちょっと無理があるわな。うちのこまい船でも、エンジン、設備、網、全部で2,500万円かかったけ。それだけの資本を投資して漁師になるかいうたら、ちょっと後へ引くじゃろうな。 今の単価でいうたら、そんなに高い魚ってないから。
安くても美味しい魚をね、一般の消費者に対しては、安い、美味しい、になるが。
安くてもおいしい魚を食べてもらって、量はたくさん! そういう考えで、リピーターが増えてくれればええんじゃけど、もう時代の流れには逆らうわけにはいかん。

田中
そういう中で、鈴木さんから届いたやつなんか冷凍でね、尾道の魚ってこんなうまかったのって、僕の家族びっくりしてましたから、そういうやり方は1つあるんちゃうかなあ。
藤川
尾道はね、昔から魚がおいしいと名高い地域だったけね。
田中
僕も父親がここの生まれなのに、魚がそんな美味しいと気がつかなかったです。
藤川
昔はね、例えばシャコなんかもすごい獲りよったね。今は全くおらんけどね。
田中
シャコおらんのですか?
藤川
今おらんなあ。桜の花が咲く頃一番おいしいけ。卵も。その時期になったらもうとんでもない相場になっとたな昔は。
田中
いま全然獲れないですかね。
藤川
少ないシャコを、まあなんとか獲れるかもしれないけど、その少ないシャコ狙っても、燃料代の払いにもならんけね。今一番ダメージ受けとるんが、燃料代。原油の高騰がこたえるけね。
田中
ガソリンも今大変なことになってますね。
藤川
漁業の関係者に聞いても、燃料代がバカにならんからな。一日100リッター以上使うけな。相当水揚げせんとね。
田中
100リッター……。
藤川
建て網漁の僕の船の場合は軽油なんじゃけど、底引き網の船は重油です。
燃料代が上がってくるとね、漁業やめるものが出てくる。イカ釣り漁船が何隻かやめた。イカ釣り漁船はね、ものすごい電気こうこうと照らすじゃろう。あれで燃料すごい食うわけ。一日イカ釣って11万円の水揚げ、それでは赤字だと。この程度の水揚げじゃ到底やっていけない言うて、 何十隻か辞めたよ。
こういう現状で、やっぱり漁師も今厳しい状況にあるんだろうな。コロナ禍でもあるし。
田中
そうですね。
藤川
このコロナ禍でどうやって生き抜いていこうかいうたら、やっぱり消費者の方にね、おいしい魚をね、本当においしい魚を提供して、まあ安くね、これもう値は上がる見込みはないんで、この先何年も。
それならそれで美味しい魚を提供して、みんなに魚を好きになってもろうて、また食べたいという気持ちになってもらって。そういう感じで頑張っていかなならんのじゃないかなと。
田中
ですね。
藤川
難しい時代になったな。このコロナの影響で飲食全部休みでな。
飲食と直接の取引する漁師さんって多いんですよ。そういうのがストップになってね。
今はちょっと難しいかな。 うちに電話してくるお客さんもね、一日に鯛を3匹4匹ね、お願いしますってね。今は注文がない日もありゃあ、あっても一日1匹とかもうそんなんです。 個人で鯛を神様にお供えするとか、そういうのは絶対に必要なもんじゃけ、絶対いるけど、飲食のは全く注文取れん。
鈴木
そうですよね。お店も休んでいるから仕入れてもしょうがないですよね。
藤川
そうそう、尾道の主な飲食がほとんど店閉めとるけ、開いてない! このコロナの先の見通しはね、まだわからないね。
鈴木
本当、飲食は大変ですよね。
藤川
飲食が滞るとなると、一次産業が一番困る。 農業をしよる人も、ものすごい堪える思うで。
鈴木
ああ、そうですね。
藤川
これが普通の魚になると、綺麗に血を抜いて冷凍する。だけど、血を残して冷凍したらやっぱり臭味が残る。
鈴木
その手間がやっぱかかるんですよね。藤川さんは鯛でそれを丁寧にやるから冷凍できる。
藤川
その違いなんよね。

鈴木
あとですね、藤川さんが獲ってこられる鯛は、なんかほんと他の人が獲ってくる鯛と「顔が違う」。
藤川
まあ喩えで言うと、この地球上は日本人、アジア系とまあ、例えば外人とね、顔が違うわ。まあそれと一緒でね、鯛も違う。喩えて言うたら。
田中
鯛も顔が違う!
藤川
同じような顔なんだけど、場所によってやっぱりある。
田中
顔のいいタイプがおるんですね。
藤川
大体似たり寄ったりなんだけど(笑)。
これこの辺におる鯛か、どこかよそから泳いできた鯛か、いうのはわかる。鯛いうのは回遊魚やけ、毎日毎日回遊して、自分の住み良いとこを選んでね。毎日おるとこ違うんで1匹の鯛でも。
鈴木
根魚じゃない。
藤川
例えばコブダイとかね、キジハタはね、自分の縄張りを持ってるからね、鯛はそういうんじゃない。毎日回遊するという。よその国のね、よその国いうたらなんけど、他所から来た鯛は顔が違う、いうのはそこよね。

鈴木
なるほどなるほど。
にしても、何が違うのかな、質が全然違う。
藤川
体型が違うね。
鈴木
藤川さんの鯛は、分厚さが違う。
藤川
潮の流れが速いところの鯛はね、痩せとる。
鈴木
ああ、流れにあらがうから。
藤川
すごい運動するけ太られん。痩せよる。それとね、潮が速いところはあんまり豊富な餌がないと思うんですわ。
わしが獲ってくるところは、あんまり潮の流れの強いところじゃないんで、肥満体じゃないけども、 ものすごい肥えて脂がある。
鈴木
真っ白なんですよ。
藤川
包丁に脂がついて取れんくらい。
獲る場所によって鯛の形が違うと思う。 それで顔もね、違う。口の形が特に違う。
鈴木
出汁を取った後のボールとかも、目盛りが見えなくなるんですよ。脂でまっ白です。
藤川
これはね、場所だ。 鯛を取る場所によって違う。 脂が乗ってる場所と、痩せとる場所でね。 あのまんまる肥えてね、長さが一緒でも重い、身が詰まっとる、わしが獲る鯛はそう言われるね。

鈴木
関西のいかりスーパーさんも、藤川さんの鯛を指名で仕入れされますね。
田中
すごいですね。僕のような庶民はなかなか行かない高級スーパーですね。
藤川
いかりスーパーさんはもう30年近い付き合いですかね。
田中
あの、いいとこの奥さんがベンツとか運転して買い物にくるスーパー。
藤川
いかりスーパーさんに卸す人はね、とにかく毎朝絶対電話くれて、飛んでくる。で、わしの鯛がなかったらしょうがない、他の人の買いよるけど。
いつもとにかく9時半に電話してくるよ。 今日はどんな感じに獲れとるかのう、いうて。
田中
高級な魚として認知されてるということですね。
藤川
まあ、やっぱりうちの鯛がウケがええ、いうことなんだろうなと思うわけですね。
鈴木
僕はもう、そこからおこぼれをですね、すごい破格で譲っていただいていて、炊き込みご飯を作ってるんですけど、それこそ京都の夜の店とかで、藤川さんの獲った鯛で作った料理を見ると、一品5,000円くらいするんですよ。
藤川
結局ね、漁師はね、自分で獲るじゃろ? で、美味しく卸す締め方とかね、自分の付加価値をつけれるわけね。
高う売ることもできるけど、そうじゃない。 一般の人がね、今の景気で、コロナで、そんな高い魚食べようという人おらんよ。ほんだったら、漁師がね、一般の消費者の方に、安うにね、おいしい魚を食べてもらって、魚を好きになってもらって、また鯛を食べたい。 そう思ってもらうことが一番大事なことなんで。
魚を食べてもらわんで、どうやって魚売れるの? いう話で。
鈴木
そうですよね。好きになってもらう。
藤川
美味しいって、また買いに行く、こうなってくれるのが一番いいんで。

田中
僕、本当に聞きたかったのは、鈴木さんがずっと都会に暮らしていらして、でも、こうやって尾道へ帰ってこられて。尾道の漁業と一緒に仕事をしていこうと思った。
その最初に、こういうふうにしたいとか、こういう思いで始めたという、そのあたりを聞きたいんですよね。
鈴木
僕がびっくりしたのが、都会で鯛なんかを見ると、もう価格が全然違うんですよね。 こっち帰ってきて、直売所とかに行くと、本当にびっくりするぐらい安く売られてるんです。
この価格差って何やろうなっていうのがずっとあってですね。
あとは、漁師のおばさんとおじさんにいろいろ話を聞く中で、本当に漁師は収入として厳しくなってきているし、自分たちも高齢化をしているってことで。若い人たちは、なかなか漁業で創業しづらい状況があるというのがあって。継続的に、漁業従事者の方が安定して漁業ができる環境っていうのが厳しいんだろうなって。
そこをなんとか、持続可能なものにしていくきっかけ作りができたらなっていうのが1つですね。
30年前からしたら、漁獲量が80%減という調査もあって。

藤川
魚が減っとんじゃない、獲りに行く人がいない。
漁師自体が減っとるわけよ。 300人から60人やけね。
鈴木
うちの祖母なんかもそうでしたけど、カートを引いて魚を売りに行くおばちゃんたちって、尾道で有名なんですけど、この辺にたくさんいたんですよ。
藤川
そう、あれはね、昔は“ばんよりさん”、晩寄りさんいうてね、晩のおかずにとね、魚を手押し車でね、お得意さんのね、家の前行って売ったりしたけ。
漁師や、漁師の奥さんもばんよりさんしよったけどね、歳取ったおばあさんやおばちゃん連中がようやっておったね。
今は尾道でも仲買人が少うなっておらんけ、仲買人がおらんようになったということは、ばんよりさんも減ってくる。直接市場から魚を買うことは難しいけ、仲買人からばんよりさんは魚を買いよったわけよ。そういう仕組みになっとったけ。
鈴木
いまは魚市場も、尾道だと一軒しかない。
うちの伯母さんが言うには、一軒しかないから漁師が獲って市場に持って行っても、言い値でしか売れないから価格も下がっちゃう一方で。そこの問題もあるんだと思う。
藤川
尾道でも、昔は一番しっかりしたところ、駅前に市場があってね、いまグリーンヒルホテルがあるところ。
鈴木
今夜、泰延さんに泊まっていただくところですね。
藤川
一番ええとこじゃね、海がすぐ見えるけ、グリーンヒルは。
まぁ、今は尾道では一軒だけの市場が頑張りょうるけどね。
で、昨日も電話あったけ、わしに。ゆうべ電話かかってきて、魚が1匹だけ注文入っとって。それをまあ獲っちゃらにゃいけん思うて。だけど、潮が大潮じゃけ、大きいのが当たらんわけ。こりゃもうなんぼやっても。
田中
先に注文があって獲りに行くのも大変ですね。
藤川
もう絶対獲っちゃろうと思うんじゃけど、獲れんのよ。12時まで辛抱したら獲れるかも思うけど、風も吹いとるし、1匹のためにそこまで無理してね、そういう日もあるよ。1匹、たったの1匹で?
鈴木
それでも獲ってあげようって。
藤川
だけど、もう何回やっても獲れんのよ(笑)。獲れる時ゃなんでもすぐ獲れるんよ。獲れん時ゃ何回やっても獲れんわけよ。魚はおるんじゃけど、指定された大きさが違うんよ。
嫁も寒うて震えよるじゃろ。夫婦で船乗って漁しよるけ、それで翌朝の気温の予想が−2度で、注文してきた人には「今日は獲れんかった」って。しょうがないんですよ、1年に2、3回は、たった1匹が獲れん日がある。
鈴木
いや、すみません(笑)。
藤川
鈴木さんにも大きさを指定されるけえ。少しずれてもええて言うんだったらいいんだけど、指定されるけえなあ。それは難しいです。
鈴木
難しいですよね、それは。ポイントでそれ獲れって言われても。
藤川
ほとんど獲ってきてるけど(笑)。
鈴木
僕も電話いただくんですよ。今日は獲れんで〜って17時ぐらいに電話あって。で、その後20時ぐらいに「獲れたわ」みたいな。
藤川
難しいよ、 1匹獲るのに四苦八苦する時もある(笑)。
いや、見えんもの獲りに行くわけじゃけ、見えんのじゃけ(笑)。置いてあるもの獲りに行くわけじゃないけ。本当そこはもう生き物との戦い。

田中
代々漁師されている組合長でも見えない(笑)。
藤川
漁師いうても、自分の勘ひとつしかない。第六感いうか、満潮と干潮の潮を読んで、昨日はここに魚おったとこだろうと思って網を打つわけだけど、おらん時もある。
一回網打ってね、魚ようけ入ってたら、揚げるまで2時間かかったりする。この間なんか、1回で150キロぐらいかかっとって、大きなので3キロとか4キロ。魚が1匹も入っとらんかったら網は15分で揚がる。魚が入ってないんだけ、15分間引っ張るだけ。
網を何回も打つような日は、あんまりええことない、魚がおらんけ、何回も打つわけで、ええ日じゃない。
魚がよくかかっててな。揚げるんに1時間も2時間もかかったら、大体5回ぐらいでね。 ああ、今日はぎょうさん獲れた言うて。
嫁と2人で一生懸命で2時間かかって、魚を網から外すの。これ、知恵の輪より難しい。夏じゃったらええけど、これで冬じゃってみい、わしゃ軍手だけで、もう素手と一緒なんで。 ゴム手袋なんかしとったら仕事にならんで。嫁は冷え症じゃけな、ゴムの手袋しとるんで。
うちの嫁はね、わしと一緒になる前から船乗ってきたけ。なんせ籍入れる前からもうずっと乗ってきたから。わしのおふくろ生きとるときから、おふくろに教えてもらって鍛えとる、いうんじゃないけど、慣れとるんで、魚外すんもわしより早いけ。

田中
奥さんも一緒に海に出る漁師さんなんですね。
藤川
いわゆる夫婦船よね。嫁さんは、わしが39の時に一緒になって。そん時嫁さん21やったけな。
田中
そんなに若い! 捕まらないんですか(笑)。
藤川
みんなに言われたけえ(笑)。犯罪じゃ、言うて(笑)。
でも嫁さんもハタチすぎとったけえな。大人やけ。

藤川
わしも歳を取って目が見えにくうなって。目にくるんよ。
昔の裸電球があろう。100ワットとか。あれもう製造中止になったんかな。
田中
売ってないですね。
藤川
今もう、LEDじゃろ。テグスがだめ、白う光ってね、見えんけ。昔の裸電球がよう見えたね。
嫁さんは若いけ、よう見えて助かる。
田中
藤川さんはいま……。
藤川
57歳。嫁は40歳やけえ。
それで嫁の誕生日が12月23日で、結婚記念日が12月24日で、私が12月25日の生まれで。
田中
年末は毎日お祝い(笑)。
藤川
まとめてお祝いやるか、そのために並べて記念日にしよったんけやど、年末は忙しい、魚の注文入るけ、お祝いどころか、仕事漬けよなあ、船乗っとる(笑)。

鈴木
でも藤川さんみたいに直接注文が入る漁師さんっていうのは……
藤川
私だけじゃないよ。 直接のお客さんにね、責任持って販売する。それが一番いいことやけ。 徐々にそういう漁師が増えてきている。
わしはいつも言うんじゃけど、信用問題。自分のブランドを作ることで、果物にしても同じじゃろう。野菜にしてもそうじゃろう。自分の魚をブランド化していうか、個別のお客さん、常連さんというかね、つくわけです。 リピーターにね、自分のブランドで、「あ、この魚はAさんが獲ってる」ってなったら、その人の名前と写真とバーコードが入った。「これはAさんのええ魚」だと。
鈴木
そうですね。信用して買いますもんね。
藤川
まあ、ほんま、頑張っても魚の価格はもう上がっていくことはないと思うんで、消費者に美味しい魚を食べてもらう。うん、これが一番だろう漁業は。
田中
だから鈴木さんがインターネットを使って通販して、冷凍だから東京の人もね。例えば全然違う地方の人もああ、これは尾道の鯛、おいしいなって思ってもらえる可能性があるんで、それは本当に。
鈴木
今の僕のメインの仕事は、インターネットを介した事業で、どちらかというとこう、虚業と言われてしまうこともある仕事ですけど。
虚業かもしれませんが漁業と結びついていけば、と思ってるんです。
「持続可能な」なんて言いますけど、ここの漁業が続いていく仕組みを、工夫してやっていこうっていう。

藤川
まあ、地道でね。頑張るしかないけど、鈴木さんみたいにネット販売してね、みんなが食べれるように提供してくれたら漁業のものとしては助かるわな。
鈴木
全然まだ、微力も行ってないぐらいなんで、たくさんの方に買っていただけるようなればと。
藤川
あんまり売れたらわしの食べる分がなくなるけ、困るけど(笑)。

田中
今日はほんとうにありがとうございました。
じゃあ、港をバックに写真撮らせていただいて。

藤川
あんまり写真写りとうないんだよ(笑)。
田中
いや、すみません。
藤川
ああはい。撮ったの? ありがとう。
どんなん?

田中
ええ感じです。かっこいい感じで。
藤川
写真は歳を隠せるな(笑)。
田中
ありがとうございます。大阪帰って家族に藤川さんの写真見せてね、このまえ食べた鯛は、この漁師さんが獲ったんやで、と伝えたら喜ぶと思います。たくさんお話しいただき、ありがとうございました。

藤川
こちらこそ、ありがとうございました。鈴木さん、これどこ載るん? 楽しみにしてます。

藤川
田中さん、尾道堪能して帰ってってください。いつでもまた寄ってください。ええとこやけ。

おのみち鮮魚店
今回、尾道をご案内くださったのは、
おのみち鮮魚店の店主 鈴木創介さんです。
おのみち鮮魚店は、鈴木さんが営む
「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」を製造・販売するお店です。
記事に登場した、尾道の漁師 藤川さんが水揚げする
天然の真鯛をふんだんに使った炊き込みご飯。

3合のお米を炊飯器にセットして、「天然真鯛の炊き込みご飯」のキットを入れるだけで
自宅で誰でも簡単に、豪華な炊き込みご飯が食べられます。
真鯛の大きな半身が贅沢に入っているので、
ご飯のどこを食べてもふっくらした真鯛を味わうことができます。

おにぎりにして翌日食べてもおいしい!

ご自宅で。贈り物に。記念日やお祝いに。みんなで集まった日に。
食卓を彩るおいしい「天然真鯛の炊き込みご飯」、ぜひ楽しんでください。
▼おのみち鮮魚店「天然真鯛の炊き込みご飯」はオンラインストアで販売されています。
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