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移動の記憶【連載】田所敦嗣の出張報告書<第22回>

田所敦嗣


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出張先での短い記憶をたどる。

養殖のサーモンは原則24時間管理される。
給餌の時間はまちまちで、日々の天候や水温、水中の酸素濃度を考慮して決められている。
彼らは毎日1袋20キロ以上ある餌を抱え何往復もし、慎重に育てる。
この日も深夜2時から起きていたので、フラフラだった。

2005.2 Chile

週末、チリ・バルディビア(Valdivia)の街を散歩。
店の人はみな笑顔で話しかけてくれたが、ホテルに戻ると財布をスられていた。

2004.3 Chile

ホーチミンは雨期になると、夕方にかけて豪雨になる。
雨はいつも短く、灼熱の街を瞬時に冷やす。
ひろのぶさんと訪れた初日も、大雨だった。

2023.7 Vietnam

ハノイは赤と灰色で覆われたイメージだが、郊外に出れば広大な田園が続く。
この日は丸一日かけてハイフォン(Hải Phòng)まで行き、帰路は美しい夕日に出会えた。

2008.4 Hanoi

オーレスン(Ålesund)にある小さな雑貨屋で、僕が背負っていたバックパックのことを興味深そうに訊かれた。
米国製のリュックだったが、後日彼女の店で取り扱うと言っていた。
お礼にと、エスプレッソを淹れてもらう。

2015.1 Norway

ロスキレ(Roskilde)からの仕事帰り、同行した取引先の誘いでコペンハーゲンのバーに行く。
帰路の途中、彼のガールフレンドと合流したまではいいが、その後バーでは2時間近く放置された。
スコッチを数杯頼んだ記憶はあるが、この日はかなり酔った。

2009.11 Denmark

グダニスク(Gdańsk)市内で名物のズレック (Żurek)を食べたあと、甘いテキーラのような酒を飲まされる。
ホテルまでたいした距離は無いはずだったが、2時間さまよった。
その夜にどこかで撮った、全く記憶のない写真。

2009.11 Poland

ニャチャン(Nha Trang)の工場で働くロアンとは長い付き合いで、数多くの生産とトラブルを共にしてきた。
僕もそうだが、彼女も写真を撮られることが苦手だ。

2022.7 Vietnam

この日はある食品の試作をするため、レシピに必要な乾燥海老を探しに市場に出た。
買い付けのピーク時間を過ぎたせいか、どこも業者が買い終えた品をトラックに積み込む作業でごった返していた。
ようやく見つけた店で無愛想な婆ちゃんから乾燥海老を買ったが、数十キロ買うというと、婆ちゃんは途端に笑顔になった。

2020.4 Hanoi

ホーチミンから南のベンチェ(thành phố Bến Tre)に向かう途中、高速道路のサービスエリアに立ち寄る。
美味しそうな饅頭が売っていたが、何の味なのかさっぱりわからなかったので、買わなかった。

2023.7 Vietnam

それぞれの記憶は小さくとも、古い写真が呼び戻してくれる。
人生もたぶん、短い記憶のようなものかもしれない。


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田所敦嗣さんの著書

スローシャッター

スローシャッター
田所敦嗣|ひろのぶと株式会社

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    千葉県生まれ。水産系商社に勤務。エッセイスト。著書 『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)で、SNS本大賞「エッセイ部門」受賞(2023年)。フライ(釣り)、写真、野球とソフトボールが趣味。人前で声が通らないのがコンプレックス。