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2026年4月13日「街角diary」田中泰延がお届けします。

田中泰延


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伝説の過発注

日曜日、なにもしなかった。

ソーラー腕時計を太陽にかざして充電していたら日曜が終わった。

満充電になったので喜んで腕時計をカバンに入れたのだが、いま見たらまた充電が切れていた。

電池がもうダメだということがわかった有意義な時間だった。

太陽光発電などというがこんな腕時計ひとつやっと動かすのが関の山である。

昔、スマホに接続するソーラーパネルというのを買ったこともあるがまったく役に立たなかった。

地球に存在するエネルギーのほとんどは太陽由来である。

石油も結局、太陽からのエネルギーが古代の植物に蓄積され、それを掘り出しているだけである。

しかも太陽は球体なので全方向にエネルギーを出しているわけで、遠く離れた点である地球が受け取ってきたエネルギーは、そのうちの0.000000045%に過ぎない。

そのエネルギーを全て利用するアイデアがダイソン球であり、

……書いているうちにどうでもよくなってきた。私が考えるべきことでもないだろう。

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日曜というのは安息日であるので、何もしてはいけないのである。

何もしないと決意することもしてはいけないので、結果的に何もしなかったという状態が正しい。

映画『炎のランナー』では、登場人物が敬虔なキリスト教徒で、日曜だからオリンピックでも走らないみたいな駄々をこねていた。

ということで何もしないことの最たる行動である「Yahoo!ニュースを眺める」という活動をしていたら、「人気YouTuberの収益化停止が多数」とあった。

読むと、「自分の子供を撮影して題材にしたもの」「過度なダイエット」「大食いチャレンジ」などが挙げられており、まぁ、そうだろうなとも思う。日曜だから思ってもいけないのだが、思ってしまった。

大食いといえば、私の人生は「過発注」とは切っても切れない仲である。人生過発注といってもいい。

そして、過発注というのは、忘れられない思い出となるのである。

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ほんとに、「多い」は忘れられない。

2019年の出来事だった。前田将多くんや旅客機の機長である小瀬川キャプテン、山本コージくんと4人で高級イタリア料理店「サイゼリヤ」に行った時のこと。

サイゼリヤであるからして、そこまでもさんざん食べて苦しいぐらいであったのだが、前田将多くんが「さあ、そろそろお開きにしましょうか」と言って席を立とうした瞬間、私が頼んだ「スパゲティ大盛り5人前」が運ばれてきた。

みな、泣きながら食べたのはいうまでもない。思い出しても苦しい。

まず、4人で行っているのに5人前がおかしいし、大盛りというのもおかしい。最近のサイゼリヤでは「大盛り」という選択肢はなくなったようだ。私対策であろうか。

私はこれで過発注オブザイヤー2019を受賞した。

生成AIに「サイゼリアで過発注した画像」と打ち込んだら出てきました

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田所敦嗣さんとカイ君と入ったホーチミンの韓国料理。お皿に普通に盛られている写真がメニューだったので、店員さんにいろいろと指さし注文した。キムチ、ナムル、プルコギ、ユッケ、サムギョプサル、トッポギ、キンパ、チヂミ、チャプチェ。店員さんが少し不安そうな顔を見せた気がしたが、それぐらいおかしくないだろう。

届いてみると、一皿が5人前くらいあった。皿が、でかいのである。メニューの写真は今後、皿の隣にタバコの箱を置いて撮影してほしい。

みな、泣きながら食べたのはいうまでもない。責任を取って私が払った。

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もう十数年前の出来事だが、CM制作会社にいたヨネダ君と2人で高級中華料理店「王将」に入った。席に座った瞬間、ラグビー部出身のヨネダ君は

「とりあえず餃子10人前」

と言った。

なにがとりあえずなのかわからない。2人の前に60個の餃子が並んだのは、ヨネダ君が唐揚げ、酢豚、八宝菜、麻婆豆腐、炒飯を頼んだ後だった。

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これも十数年前の出来事だが、バルクオムCEO「のぐたく」さんこと野口卓也氏を立ち食いラーメン「金龍」に連れて行った。

私が「ここおいしいんですよ」と言うと、野口さんは

「じゃあ3杯ください」

と言った。ひとりの人間の前にラーメン丼が3杯並ぶ光景を生まれて初めて目撃した。野口さんは麺が伸びたりしないうちに立ったまま一瞬で食った。

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会社勤めをしていた頃、上司の池田定博さんと部下4人でフグを食べに行った。湯引き、てっさ、唐揚げ、てっちり鍋、きしめん、雑炊、デザートと、コースを最後まで食べてみな満腹であった。

そうしてフグ屋を出た瞬間、池田さんはすぐ隣の焼肉店に1秒の躊躇もなく全員を連れて入った。池田さんは入るなり

「タン塩10人前、カルビ10人前、ハラミ10人前」と言った。

4人は四苦八苦しながらタン塩を口にしたが、どうしても飲み込むことができない。

最後は会社の隣の部員が電話で呼び出され、彼らはわけもわからないうちに焼肉を食わされていた。

「なんでこんなことするんですか!」とみんなが言ったら、池田さんは

「一生忘れないやろ、今日のこと」

と言った。

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過発注は、人生の貴重な思い出となる。

ただ普通に満腹になって解散していたら、その日のことは思い出せないだろう。

残さず食べるのは当たり前であるから、苦行のようでもあるが、そのときのことを語る人々は、みな笑顔である。

世界には飢餓に見舞われている地域もあるのに、という意見はごもっともではある。

しかし、だからこそ、食べ物が必要以上にある状況を前にすると、人はちょっと、嬉しくなっちゃうんじゃないでしょうか。

最新の過発注は先週の水曜日でした。加納さん、廣瀬さんと回転寿司に行って苦しい思いをしました。

今週もどこかで過発注すると思います。

ではまた来週。

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  • 田中泰延 映画/本/クリエイティブ


    1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社 「ひろのぶと株式会社」 を創業。