今週の水曜日は「餃子で学ぶ感想と正解の違い」「とあるお店で聞いたコーヒーのお話」の2本立てです
12月の末のこと。
加納さんが餃子の皮でアップルパイをつくったという。
「うまくない?」
スマホで写真を見せてきた。
パイシートを小さく切ったり、春巻きの皮を使ったりは見たことがあるけれど、餃子の皮でアップルパイというのは初めて聞く。片手サイズでパクッと食べられそう。なるほどそういうアイデアがあったか。
写真のパイはまるんとした愛らしいフォルムをしている。
「かわいい」
素直でポジティブな感想……のつもりだった。なのに、加納さんの反応が芳しくない。
「うまいでしょ?!」
「……?」
かわいいって、あれ、言ったよね? あれ、ちゃんと褒めてるはずなんだけど……?
「かわいいかどうかなんて聞いてない! うまいでしょって聞いているのに、廣瀬さんがちゃんと答えない!」
加納さんには求めている“正解”があったようだ。どうも私はしくじったらしい。
* * *
年が明けて、1月のお茶タイム。
加納さんが餃子をつくったという。餃子の皮にハマっているのだろうか。
例によって、みんなに写真を見せる加納さん。
「うまくできていると思いませんか?」
ヒダがきれいについている。
「おぉ、き……」
「廣瀬、気をつけろ!」
思ったままに「きれい」と言おうとした私に、横に座っていた泰延さんから声がかかった。
「返答には正解があるぞ。いいこと言っても正解じゃなかったら……」
そうか。わかった。
いいことでも「かわいい」「きれい」は“個人の勝手な感想”なのだ。
加納さんは、“感想”を求めていない。“正解”を求めているのだ。
感想を伝えようとしては、いけない。彼女の問いをよく聞いて、彼女の正解を答えなければならない。
けれど、これが簡単なようでなかなか難しい。“会話”をしようとすると、ふと先に感想が口をついて出てしまう。それを飲み込むと、正解も「思ってないのに言っている」みたいになってしまって、それはそれでなにかピリリとする。まあ私も捻くれたもので、言わされるように答えるのが癪で、なんだか言いたくなくなってしまうところもあるのだろう、モゴモゴしてしまうのだ。
加納さんには「どうせ餃子つくれないのに!」と、ぷりぷりと決めつけられた。つまり私は、年をまたいで2度しくじったようだ。
こういう応答は、たぶん「AI」のほうが得意だ。今週の加納さんは、なにかつくっているだろうか。私はAIになりたい。
ちなみに廣瀬は、料理する頻度は落ちたけれど、今でも帰省するとちょっとしたおつまみや卵焼きをつくるし、中高時代は毎日お弁当を妹と自分の2人分つくっていたし、餃子が夜ご飯のときは妹と一緒に包んでいた。
まあ、お弁当づくりの習慣は10年以上前だし、餃子を包むのはかれこれ10年近くやっていないから、今きれいにできるかは、わからないけれど。
* * *
中高時代は日課だったけれど、かれこれ10年近くやっていないことに「コーヒーを淹れる」がある。
実家では土日の朝と夜、父がコーヒーを淹れていた。いつしか、平日の夜も私が淹れるようになった。コーヒーを淹れるときにふわりとたつ香りが好きだ。
私が大学入学で上京してからは妹が淹れるようになり、凝り性な妹は今も一人暮らしの家でよく淹れているようで、最近も年末年始の帰省時のコーヒーは妹が淹れている。一方の私は、料理もコーヒーも、自分一人分のためにしようとは、どうもならない性分なのだろう。かれこれ10年近く、ほとんどコーヒーを淹れていない。
とはいえ、変わらずコーヒーは好きだ。飲み過ぎるくらいに、好きだ。
そういう家庭だから、もちろん父と母もコーヒーが好きで、しかも“常連”になっているバルや食事処でいろんな情報を仕入れてきていて、美味しいお店に詳しい。
このお正月も家族で、2日から営業していたとあるお店へコーヒーをいただきに行った。
阪急吹田駅の近く。住宅街を右に、左にと歩く。佇まいも入り口も、普通の民家。これはもう、知る人ぞ知る、知っていないとたどりつけないお店。私も2度ほど行ったことがあるけれど、両親の案内がないと一人ではたどりつけそうにない。
メニューはコーヒーのみ。いくつかの豆から選べる。コーヒー豆の販売もしている、本当にコーヒーが好きでこだわったマスターがやっているお店、といった感じだろうか。
このお店は、深煎りがとくに美味しい。
母がよく行くバルで飲食店をやっている人たちと「コーヒーがおいしいお店」の話題になって、「深煎りが好きならここ」と複数人におすすめされたお店なのだという。
妹と私は、期間限定のブレンドを頼んだ。(父と母は少し離れた席に座ったのでわからない)
「う〜ん、美味しい」
一口含んで沁みるようにつぶやいた妹が、マスターに「コーヒーはどうしたら美味しく淹れられるのか?」を質問しはじめた。曰く、いろんなお店でドリップしている様子を見て真似ているし、同じようにやっているつもりなのだけれど、なかなか納得がいかないのだとか。
「営業秘密かもしれませんけど」と聞く妹に、「全然、秘密なんてないですよ」とマスターが笑って、たっぷりペーパードリップのポイントを教えてくださったので、今日はその「とあるお店で聞いたコーヒーの美味しい淹れ方」を紹介しよう。
ポイント1:豆は均一に挽こう
用意する豆の量は、2杯分ならば20〜30g。
ここで味のムラを生まないために大切なのが「豆を均一にする」こと。
ペーパードリップの場合は、「中細挽き」や「中挽き」と言われるサイズがベスト。グラニュー糖くらいの粗さ、と表現されるそうだ。
「その『グラニュー糖ぐらい』って表現がイメージできなくて、迷っちゃう人もいると思うんですけど。誰か偉い人が、『これだ!』とピンときて、そう表現したんでしょうね」
「たしかに(笑)。でも、塩だと粒感バラッバラですし、いろいろ考えたら、ぐるっと回ってグラニュー糖しかないような気がしてきました」(妹がはじめた質問で、なぜかインタビュアーになってメインで話を聞き出す姉)
ちなみに、「グラニュー糖くらいの大きさ」は検索してみたところ、1〜1.5mmだそうだ。
ポイント2:お湯は80度が目安
お湯の温度によっても、苦味が強くなったり酸味が強くなったりするそう。
基本の目安は「80度」。
「ヤカンで沸騰させたら、ドリップ用ポットに移す。それで少し温度が下がる。ドリップ用ポットからもう一度ヤカンに、そこからドリップ用ポットに戻したら、80度くらいになります」
ドリップ用のポットとは、写真のような注ぎ口が細く長いもの。注ぐ量・スピードが均一にコントロールしやすく、また適度にお湯の温度を下げてくれる。

中にはお湯の温度にものすごくこだわって、温度管理のためのアシスタントがいるようなお店もあるそうなのだが、マスターは「だいたい、で大丈夫ですよ。そんなに厳密に測ったりしなくても」と言う。自宅で自分で楽しむためなら、なおさらだろう。
豆の種類や状態、出したい味によってお湯の温度を調整することもあるそうだ。
深煎りの豆で苦味が出やすいときは、75度くらいに。
浅めの煎り具合や、煎りたてなどで苦味が出にくいときは、85度。
深煎りでもガッツリ苦味を出してパンチの効いた味にしたいときは85度。
「調整するといっても、75〜85度の間ですね」
豆のクセ、コンディション、その時の気分で変化させると楽しそうだ。
ポイント3:40秒蒸らして、3分で淹れる
いよいよ、淹れるステップでのポイント。
まず、ドリッパーの豆全体にさっとお湯を回して、蒸らす。
「お湯はサーバーに落ちないくらいの量で、蒸らしは40秒くらいです」
短すぎると味が出ず、長すぎても苦味が出てしまうそうだ。
「豆は焼かれて水分がなくなったカラッカラの状態なので、この40秒で目を覚まさせてあげるんです。起きろ〜って。それから、3分くらいをかけて淹れていきます」
淹れる時間も重要。早過ぎれば薄くなるし、遅過ぎれば苦味につながる。
「時間も温度と同じで厳密に測る必要はないですが、5分とか長くなってくると淹れている間にお湯の温度が下がってきてしまって、苦味につながったり味にムラが出たりするんです」
注ぐスピードはドリップ用のポットをつかっていれば大きな失敗はしにくいけれど、一度に4杯分などたくさんを淹れようとしたり、豆が細かすぎたりすると、お湯が浸透して落ちていくのに時間がかかってしまう。
美味しくできる約3分で淹れるためにも、ポイント1の豆のサイズと、ポイント2で紹介したドリップ用ポットが大切なのだ。
ポイント4:豆の鮮度・コンディションが味の要
どんなに淹れ方が良くても、豆の鮮度が悪ければ、やはりコーヒーの味は落ちる。
煎りが浅すぎないか、深すぎないか。
焙煎から時間が経ちすぎていないか。
挽いてから時間が経ちすぎていないか。
「コーヒー豆は賞味期限がゆるいんです(1年くらい)。なので、スーパーなどですでに挽いているものを購入した場合、それが実際はどれぐらい焙煎や挽いてから時間が経っているかは、袋によってバラバラだったり、すでに結構時間が経っていることもあります」
それでも、開封してから1週間くらいであればそれなりに美味しく飲めるだろうから、自宅で自分で淹れる分にはヨシじゃないかな、なんて思うのが私。
でも、本当にこだわって家でも美味しいコーヒーを飲みたい人は、専門のお店で焙煎された鮮度の良いお豆を買って、自宅で電動ミルで挽くのがいいだろう。保存も、挽いた粉の状態ではなく、豆の状態のほうがいい。
ちなみに、「豆の鮮度」と書いたが、特に40秒の蒸らしでモコモコと膨らみリアクションがいいのは、焙煎から2週間くらいだそうだ。
「朝の一杯を淹れるときにブワ〜って膨らんで豆のリアクションがいいと、テンション上がって元気でますよね。でも、煎りの度合いなどによっても膨らみやすさは違うので、膨らんだからといって美味しくなるとは限らなくて。美味しそうに膨らんだのに、淹れてみたらアレ? ってことも、あるんですけどね(笑)」
ポイント5:“自分のために淹れてもらった一杯”は、美味しい
「お店と同じ豆を使って、お店の人が淹れていたのを同じように真似て淹れても、やっぱり味が違う」と話していた妹に、なんとなくぽろっと、こう言った。
「それはさ、お店で人が自分のために淹れてくれたコーヒーだから、美味しいんじゃない?」
すると、マスターが大きく同意してくださった。
「それは、やっぱりあると思います。僕も、いろんなお店に研究で行くことありますけど。やっぱり、淹れてもらうと、自分でやったときとは違う美味しさがありますよね。空間や、カップや、自分のために淹れてもらったというその時間も含めて、美味しく感じるんだと思います」
自分でつくる楽しみと満足もある。
人につくってもらう美味しさと幸せもある。
自宅でもポイントを押さえて楽しみながら、本当にゆったりして美味しいコーヒーを飲みたいときは、お気に入りのコーヒーが美味しいお店へ。きっと、喫茶店やカフェ、珈琲店って、そういう時間や幸せのためにあると思うのです。
マスターが東京の美味しいお店を一つ、教えてくださった。今度、行ってみたいなぁと思う。

廣瀬 翼
レポート / インタビュー
1992年生まれ、大阪出身。編集・ライター。学生時代にベトナムで日本語教師を経験。食物アレルギー対応旅行の運営を経て、編集・ライターとなる。『全部を賭けない恋がはじまれば』が初の書籍編集。以降、ひろのぶと株式会社の書籍編集を担当。好きな本は『西の魔女が死んだ』(梨木香歩・著、新潮文庫)、好きな映画は『日日是好日』『プラダを着た悪魔』。忘れられないステージはシルヴィ・ギエムの『ボレロ』。





