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2025年12月22日「街角diary」田中泰延がお届けします。

田中泰延


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街角相談室

こういう珍しい募集をした。

珍しい募集、略して「珍募」である。告知というか、「こくちん」といってもいい。

日記に何を書こうかな、などと考えるのが面倒くさかったのでこうしてみたのだが、いざ相談が寄せられてみると余計に面倒くさいことになった。

よく考えると、私、他人のことにはあまり関心がない。興味がない。

「その人の身になって」などというのはだいたい嘘であるし、嘘はつきたくない。

困った。

横着しようとしてむしろ手間が増える、人生はそんなことばっかりだ。

では、お答えしていきましょう。

なお、写真は自分の顔をAIにぶち込んで適当に作ったでたらめな画像である。
相談しているほうの顔はAIが生成したもので相談者ではありません。


*****

相談❶トリさんより

実はかなり悩んでいます。

りんごを丸齧りしても歯茎から血が出ないのに、夜寝る前に歯を磨くと時々歯茎から血が出ます。

3ヶ月に一度、歯医者さんに定期検診にも行っているのに…
血がついた歯ブラシを見てると切なくなります。
どうしたら歯磨きして歯茎から血が出ても笑顔でいられるでしょうか?

お答え❶田中泰延から

「リンゴをかじると血が出ませんか?」。これは1964年に発売開始されたライオンのハミガキ「デンターライオン」(のちの「デンターT」「デンターシステマ」)の名コピーですね。

歯茎からはむしろ血を出したほうがいいという歯科医の意見もたくさんあります。
「歯磨き 歯茎 出血 良い」でググってみてください。

中世ヨーロッパでは、瀉血(しゃけつ)といって、人体の血液を外部に排出させることで症状の改善を求める治療法がありました。現代では医学的根拠は無かったと考えられていますが、果たしてそうでしょうか?

血が出るのが不快でも、トリさんの体調が良ければそれは効果があると考えてもいいと思います。それが科学における仮説の大切さです。

不意にどこかをぶつけた時、指先を切ってしまった時、私もいろんなところから血が出ます。しかしそんな時、私が必ず思い出す一節があります。

「何だかぬらぬらする。血が出るんだろう。血なんか出たければ勝手に出るがいい。」

夏目漱石『坊ちゃん』。主人公の言葉です。

こんな名作にこんなことが書いてあるのです。輸血が必要なほどの出血でなければ、ほっといたら止まるような出血ならば、出さしてあげましょうや。


相談❷廣瀬さんより

これからくる年末年始が怖いです。

せっかくこの2ヶ月くらいですこし体重が落ちたのに、
友人との会食、さらにはお餅の誘惑に勝てる気がしません。
そこで、最近12キロ落とされたひろのぶさんに質問です。
どうしたら、食欲に打ち勝てますか?

お答え❷田中泰延から

廣瀬さんというのはもしかして私の会社の廣瀬翼さんではありませんか?

お餅の誘惑ですよね。大変なことになりました。

糸井重里さんから「餅つき機」の購入をおすすめされ、さらにはえつこさんから餅米を頂戴することになったのです。

いろいろ諦めましょう。正月じゃないですか。
そのあと頑張れば良いのです。


相談❸難波佑介さんより

本を読んだり、映画を観たりするのが好きです。
ただ、こうもカルチャーを消費してばかりなのは、どうなのか?と、思うことがあります。

そこで、何か自分でも創作活動等をした方が良いでしょうか。
もしそうなら、何か具体的に、取り組みやすいことはありますでしょうか。

お答え❸田中泰延から

ふーむ。「カルチャーを消費」というのがよくわかりませんな。

図書館へ行ってみてください。人間、一生かかっても、もしかすると棚一つも読めません。アマプラを覗いてください。生涯を費やしてもそこにある映画の1割も観ることができないでしょう。しかも誰かが創るなにかは、毎日毎日増え続けているのです。

私は出版社をやってます。1日にどのくらいの書籍が刊行されるかご存知ですか。200点です。日本だけで、毎日毎日、です。本だけで1年に7万冊が世に出ています。

「なにか創作活動をすればよいのでしょうか?」とありますが、しなくてよいです。もうたくさんあります。

出版社の社長の意見としては、

「するなと言われてもやる人」もしくは「自然にできてしまう人」、そして「誰かに書いてくださいと頼まれる人」が創作活動をする人だと思います。

そうですね。まずは「note」で日記を書いてみてください。今日から1年で365回書けないようなら、あなたは読む側の人です。消費などと言わず、受け止めることを楽しんでください。一度受け止めた作品が残したものは、あなたの中で消えません。

あ、2028年は366回あるのでお気をつけくださいね。


相談❹織部さんより

仕事についてご質問があります。

仕事に真摯に向き合わない人を見ると、怒りを覚えてしまいます。

例えば、

・情報を隠す(おそらく自分や所属部署の組織内での価値を維持したいがため)
・他者への敬意がない(他組織の面談に訪問した際、ノージャケット、サンダル、初対面なのに名刺を持参しない)
・自分の思い通りに進めたいがために不合理な理屈を立てる

ツイッターならミュート、ブロックで済むのですが、仕事関係となるとそうはいきません。

湧き上がった怒りは、アンガーマネジメントで忘れようとしたり、
うまい飯を食うなどして自分の機嫌をとったり、一晩反芻しまくって昇華したりしています。

田中さんなら、こういった怒りをどのように対処しているか、
このような人とどのようにコミュニケーションをとっているか、お伺いしたいです。

お答え❹田中泰延から

私は4年間、トラック運転手という肉体労働者として社会人生活を始めて、そのあと大きな企業の会社員を24年間、そしてフリーランスの文筆家を4年間、そして会社経営者を5年、というキャリアを経て現在に至ります。

いろんな形で働いてきました。

格言がありまして、「人間は、その人がまわりから無能と言われるところまで出世する」というものです。

つまり、社会という構造は、ある人間の能力を使い切れるだけ使う仕組みになっているのです。ですから、本当は走ったら世界陸上に出れるくらい速いのに全然別の職業についている人とか、本当は半導体回路を作らせたら新型のコンピュータを設計できるのにぜんぜん違う仕事をして一生を終える人などいないのです。

みな、一番得意なことをして、もしくはさせられて、より難しいことにチャレンジする羽目になり、最後は「あれもこれも出来てた人だけど、さすがに最近は無能だな〜」と言われてリタイアする運命なのです。

そういう意味では、私はいま無能と呼ばれてしまう限界点かもしれないと恐れながら毎日を進んでいるわけです。

どういうことかといいますと、会社を経営してみると、肉体労働や、会社員や、フリーランスのときに私がいた世界よりも、ずっとずっとはるかに「恐ろしい人」がたくさんいて、私はそれらの凶暴で獰猛な人たちと日々交渉しなければならなくなったのです。

織部さんがおっしゃるような

・情報を隠す
・他者への敬意がない
・自分の思い通りに進めたい

そんな人種が、会社員時代とはくらべものにならないほど強烈に争っているんです。そりゃそうですよ、取引や利率の世界では、最初に有利なようにことを運べば、何十年も続く利益、何億もの儲けを手にする可能性が出てきます。

私も会社員時代には、小ずるい人、付き合いたくないなと思う人と出会いましたが、今思い返すと、勤め人同士、なにをいがみ合ってたんだと、なんだかみなさん可愛く思えます。

織部さんが不愉快に思う方が会社員の方であれば、たぶん、可愛いです。

そうではなくて、一国一城のあるじとして国盗り物語をやってる人種の皆さんであれば、そういう猛獣なのだと理解して、「そりゃそうだ」と笑ってください。


相談❺なみさんより

自分の機嫌は自分で取りたい、とは思うのですが、それができず、
他の人にも優しくなれず困っています。

47歳にもなって自身の反抗期が来たのか、ミッドライフクライシスが来たのか、
はたまた更年期なのか、全部のような気もして困っております。

実の母のことが嫌いで(11年前自分が子供を持ってからは完全に嫌いになりました)、
ああいう風にだけはなるまいと思って生きてきたのに、

最近は母と似た嫌なところに自分で気づくようになり、これじゃあ自分が思うまともな大人ではないし、
人に嫌われて当然と思うようになりました。
でもそこからどうしたらよいのか、

どうしたら自分のことを棚に上げる形で人にものを言わなくなるのか、
もっと相手のことを考えた言動ができるようになるのか、

素直に褒めたり好意を伝えたりできるのか、
息子(小5、生意気盛り)にどっぷり愛情をそそげるのか、
どうしたらもっといろいろよくなるのか、わかりません。

母のように専業主婦なのに家事も育児も嫌いな人にならないよう、
氷河期を乗り越え会社員として頑張ってきましたが、
AIの使いこなしが必須になり、どんどん進む人手不足を効率化で
補わないといけない昨今の働き方に考えがついて行けません。

好きだった仕事がつらくなり、管理職になるのを拒否して、
でも辞めてもどこかに必要とされる気がまったくしないので
リーダーシップがないチームリーダーとして今の職場にしがみついています。

『弱さ考』や『選ばない仕事選び』も読んでいますが、自己肯定感が常に低く、
今ある場所を手放したら必要とされる気がまったくしないのです。

思えば、とにかく居場所が欲しいと学生のころからずっと思ってきました。
ずっと愚痴はこぼしつつも本当に言いたいことは言わず、人にもそこまで深く関わらず、
ひっそりと居させてもらって何とかやってきた感じだったのが、
今は家と会社、どちらも中途半端で、どちらもやりづらい感じになってしまっています。

こんなこと、会社を背負っているひろのぶさんにお送りするのは心苦しいとも思ったのですが、
どうにもモヤモヤするので思い切って送ってみました。

家庭と職場、今からでも周りの人とお互い快適に過ごせる居場所にするには
まず何から始めたらよいとお考えになりますか?

あと、母を好きになることはできないですが、嫌いなままでも意識せず、
とらわれず生きるにはどうしたらよいでしようか?
(県外にいるのでごくたまにしか顔を合わせたりやり取りすることはありません。
でもこの11年嫌だなあと毎日のように思ってしまいます。)

お答え❺田中泰延から

ご相談ありがとうございます。

7回読みましたが、要点がつかめず、困惑しています。

なんだか不愉快そうだというのはよく伝わりましたが、大事なことは、なみさんが「いま一番解決したい優先順位は何か」をはっきりさせることです。

アントニオ猪木は「ピンチはダマになってやってくる」と言いました。

ダマとは糸がこんがらがって、固い結び目ができてしまう、あれです。

困難は、あなたの前に「ダマ」のように見えます。力を入れて引っ張ったりすると、ダマはより固くなってしまいます。

そういう時どうしますか? 針やヘアピンなどを持ち出して、ダマをよく見て、ここを緩めればそっちが緩む、こっちを引けばそこがほどける、そうやって一つ一つ着実にクリアしていけば、最後にはダマはなくなります。「現実を分割して対処する」のです。

なみさんはいま

・更年期障害だ
・母が嫌いだ
・息子に愛情をそそげない
・昨今の働き方について行けない
・世の中に居場所がない

それらを「全部のような気がします」とおっしゃっています。

これは「ダマ」です。

優先順位をつけてください。

私の好きな映画、リドリー・スコット監督の『オデッセイ』で、火星にたったひとり取り残された宇宙飛行士、マット・デイモン演じるワトニーが言います。



「物事が悪い方に向かう。終わりだと思った時に、諦めるか、闘うか。よく考えて、問題を解決する。
一つ解決し、次の問題も解決する。そしてまた起きる問題も一つずつ解決する。
諦めずに全部乗り越えたとき、君は家に帰れる」

一個づつ、やってください。必ずダマはほどけるでしょう。


相談❻西のアンディさん より

生まれてから39年間彼女ができません。どうすればできますか。

お答え❻田中泰延より

西のアンディさん、実はあなたは彼女など必要ないのです。

人間は、必要なことはかならずやります。

私は今日、朝起きてお腹がへっていたので、近所にカレーを食べにいきました。
必要だから、やったのです。

「生まれてから39年間」必要でなかったものが、なぜ今になって必要なのでしょう。

心の声に耳を傾けてください。
いらないものは、いらないのです。

私は今日もヤフオクでいらないものを落札してしまいました。

西のアンディさんは、そんな愚かな人間にならないでください。


相談❼ÜNDY(アンディ)さん より

激しい老眼に悩んでおりますが、
カメラのファインダーに、もう、永遠にピントが合いません。
遠視なので遠くは見えますが、近くが見えません。
グラデーション老眼鏡を買いましたが、
メガネ嫌いで無意識で外して落として踏んで破るし、
失くすというかメガネは旅に出てしまうもの、なので
コンタクトは、むりでした(着脱に耐えがたい恐怖と時間を要します)

老眼のみなさま、
携帯と鍵と財布を忘れないようにするので精一杯の皆さま、
メガネを壊さず失くさず、どう工夫しているのでしょうか?


ーーーココマデ。

カメラの撮影に関しては、私はイベントの記録としての仕事なので、
残念なことにオートフォーカス頼りです。逃げです。アニさんには言えません、、
現在は百均の老眼鏡スペアを何個かアチコチに置いておりますが、、
老眼鏡というものは、遠視のわたしには「手元以外はぼやける世界」です怖いです。


勝手に近況報告:
最近、本を読む気力が徐々に復活しております。
「踊る阿呆の世界戦略」途中から、読み進め始めて気づいたこと。
親が子に、家族で力を合わせることは豊かだということです。
長男、娘たちは私からすっかり手放し自立して欲しい、のは願うばかりですが、
「表現」ということは親から子へ、私自身も先の祖先から引き継いだ血と魂があり、
ろ過したり新たな刺激を足したりしながら、
親子総出で生きるという価値観は恥ずべきことではない、ということを知りました。
デジタルだけではない世界は広くて、生身で逞しく生きる寶船の魅力を知れたこと、
ひろのぶさんが求めた読みたい本は、良いものだなぁと、沁みています。

本は、言葉は、いついかなる時も私を掬う泉のようです。
(手のひらに掬うと、硬くて刺さりますが、、というイメージ、というか)
ひろのぶさんが書いたもので、つくった本の中で、
一瞬で思い出しただけで涙腺がやばいぞ、というものがいくつも。
(追い読、追いついていませんが)
人生を豊かにしてくれて、ありがとうございます。

お答え❼田中泰延から

アンディさんが続きます。北のアンディさんとお呼びしましょう。

前段部分に対しては明確な解決策がありますのでお答えします。

カメラのファインダーには「視度調整」という機能があります。
おそらく、どんな近視、遠視(一般に言われる老眼)でも
ダイアルを回せばピント(合焦点)をクリアに視ることができます。

ダイアルを探してください。

お悩みは以上で、あなたはなにも悩んでいないように見えます。
はい、あなたは悩んでいません。

私から個人的にメッセージがあるといえば、
北のアンディさんの息子さんにお願いした服が届きませんので、
母親の立場としてご連絡をお願いします。

親子総出で生きるということでしたので、切にお願いしておきます。

おたよりありがとうございました。


*****

いかがでしたでしょうか。

結局のところ、私は私であり、自分のことは自分でしてくださいを香川県の方言でいうと

「めんめのことはめんめめんめでしまいよ」

というわけのわからないことになるのであって、なんがでっきょん。

こんなんでよければ、また、なにかありましたらお寄せください。
加納さんや廣瀬さんや豪さん、加藤順彦さんが答える展開もあるかもしれません。

あるの?ないの?


ではまた来週。

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    1969年大阪生まれ 元・広告代理店店員 元・青年失業家 現在 ひろのぶと株式会社 代表