上田豪さんが完全復帰されて1週間。
夕方5時。
ひろのぶと株式会社恒例のお茶時間が完全復活した。
1ヶ月以上間が空いてしまったので、なんだかちょっとそわそわする。
しゃちょうがお茶を淹れる準備をしている間に、会議テーブルの周りに集まってくる豪さん、加納さん、私。
あれ、うちの会社の会議テーブルって、こんなに小さかったっけ?
お茶の前にトイレに行こうとした加納さんが、光の速さで戻ってきた。
加納「豪さん!」
上田「ん?」
加納「豪さん、いつもトイレの後に電気を消してない!」
上田「はい、ごめんなさい」
加納「あと、便座のフタ」
上田「いや、俺、便座はあげてないよ?!」
加納「便座じゃなくて、便座のフタ!」
上田「いや、だから便座は……」
加納「それはいいんです。じゃなくて、その上のフタ!」
上田「……! あ、はい」
加納「フタしめてないと、上からトイレットペーパーが落ちてくることがあるんです」
上田「あ、はい。なるほど。気をつけます」
話が通じて、「よし」とトイレに向かう加納さん。
ちなみに、「上からトイレットペーパーが落ちてくる」というのは、天井近くに突っ張り棒を活用してトイレットペーパー置き場をつくっているのだけど、先日地震か何かで揺れたようで、月曜日に加納さんが出社したらトイレットペーパーがトイレの床に転げまくっていたのだ。

「もしトイレのフタがあいていたらビシャって入って悲劇だった」と、泰延さん・加納さん・私の3人はトイレのフタの重要性を認識した。
加納さんが部屋から出て行ったところで、豪さんが楽しげに話しながら、椅子に腰掛ける。
上田「これ今の、動画録ってたかな」
廣瀬「OSMO回ってますよ〜」
上田「加納が上田に怒られる……あ、逆だ。加納に上田が怒られる動画が、いつか上がるかな」
そんな会話を背後に、大きな体でお茶の用意をしてくれていた泰延さんが「やばい、加納に怒られる」と言い出した。
なんだ、泰延さんもトイレのフタを閉めない派なのか? あのトイレットペーパーの悲劇を知っている人なのに? と思ったら、違ったらしい。
田中「お茶、淹れすぎた」
そう言いながら泰延さんが持ってきたお茶を見て、びっくりした。

……森……?!
お茶というより、食べる茶葉?!
もりもりの茶葉に豪さんも声を出して笑う。
泰延さんが「加納がトイレから帰ってくる前に……」と急いでコップにお茶を注ぎ、加納さんのコップには少しお湯を足して薄め、そしてポットに再びお湯を注いでいると——。
上田「なんか、あれみたいだね。お酒の」
田中「お酒?」
廣瀬「お酒?」
上田「あれ……モヒート!」
田中・廣瀬「!! モヒート!!」
なんとしっくりくる。豪さん天才。
そんな話をしているうちに、加納さんが戻ってきてお茶を一口。
田中「……濃くない?」
加納「え? おいしいですよ」
よかった。
加納「豪さんの家のトイレって、人感センサーなんですか?」
上田「え? 人感? 違うよ?」
加納「あ、そうなんですか。家では自動で電気が消えるのかなって」
上田「自動じゃないよ」
加納「トイレの電気消さないおうちなんですか?」
上田「家でもいつも怒られてますよ」
加納「あ、そうなんですね」
なぜ、また話題がトイレに戻っているのか。
そういえば朝も加納さんは「私、1日2回くらいトイレ掃除してる!」と話していた。
この会社、トイレの話題が多すぎる。
そんな会話をしながら、仕事の話もその場で打ち合わせ。実はこのお茶時間の30分強が、この日の中で1番仕事が進んだかもしれない。
お茶時間って、こんなに賑やかだったっけ。
そんなことを思いながら、本の話をしていた最後。
参考の本を廣瀬の机から取ろうと豪さんが立ち上がったら……
バサバサバサーッ
崩れた。崩れたのだ。
掃除大好き田中泰延も難攻不落だった、ヒロセタワーが。
上田「ああーごめん!」
加納「わー! ついに!」
田中「豪さんは悪くない! これは廣瀬のせいや! 廣瀬が悪い!」
加納「崩れたついでに整理して捨てちゃいなよ」
非常にうれしそうな泰延さんと加納さん。なんだろう。田中・加納コンビは、4人体制になると軽やかに火力が上がるようだ。
本当の「いつも」が戻ってきた。
ひろのぶと株式会社は、いつもこんな感じだ。平和です。

崩れ去った、ヒロセタワー
※ 「ヒロセタワー」については9月24日の「街角diary」を参照
廣瀬 翼
レポート / インタビュー
1992年生まれ、大阪出身。編集・ライター。学生時代にベトナムで日本語教師を経験。食物アレルギー対応旅行の運営を経て、編集・ライターとなる。『全部を賭けない恋がはじまれば』が初の書籍編集。以降、ひろのぶと株式会社の書籍編集を担当。好きな本は『西の魔女が死んだ』(梨木香歩・著、新潮文庫)、好きな映画は『日日是好日』『プラダを着た悪魔』。忘れられないステージはシルヴィ・ギエムの『ボレロ』。