後ろ影の見ゆるまではと

お世話になった方の御尊父が逝去されて、葬儀に参列した。
喪主は故人のご長男で、私の出版社の著者のひとりである。
私は、生前のお父様にお会いしたことがなかったが、釣りを愛し、旅を愛し、そして楽器の演奏も楽しまれた、カッコいい、カッコいい方だった。
親父さんは、息子が本を出され、作家となられたことをことのほか喜んでくださった。
友人に会うたび、自慢の息子の本をすすめ、買っていただいていたという。
棺に、その本が2冊、納められていた。
それをみた瞬間、すべてがわかった。
一冊は、あっちで親父さんがまた、楽しみに開いてくれる。
一冊は、あっちで会う人にまた、すすめてくれるんだな。
私は、出版社を始めてよかったと思った。
人は死んで終わりではない。
それは、あの世があるとか、そんな形而上の話ではない。
旅は、続いていく。
私のここまでの旅も、間違っていなかったと思えた、秋の日だった。
花だけじゃなくて、おつり用の20円も、お渡しすればよかったかな。
田中泰延
映画/本/クリエイティブ
1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社 「ひろのぶと株式会社」 を創業。





