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2026年3月【連載】唐木俊介のなんかいいたい

唐木俊介


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3/1(日)
海辺の空き地で6時起床。BEFORE DAWNを聴きながら、寝袋を畳んでコーヒーを淹れた。
波チェック。無人のビーチで良型のライトブレイクを発見して即入水。昼まで延々、良波堪能。帰宅してタイヤ交換。夜は実家で父の誕生日祝い。父は大の釣り好きで、毎週のように他県まで遠征している。仕事も現役。70歳とは思えない若さと活動量である。梵天丸もかくありたい。


3/2(月)
「平和達成まで激しい爆撃継続とトランプ氏」というニュースを見て、松村劯の『平和のための戦争学』を捲った。戦争のニュースでモヤモヤした時は松村劯に限る。
戦争については「わからない」としか言えない。何がどれだけ発達してもなくならない。戦争のために生まれた技術がなければ現代人の生活は成り立たない。ルソーが「人間のすべての知識のなかでもっとも有用でありながらもっとも進んでいないものは、人間に関する知識である」と言ってから、もう250年以上が経っている。


3/3(火)
今日履いていたパンツはゴムが伸び切って、ヨレヨレになっていた。「新しいの出すから、今日履いたら捨ててね」と奥さんに言われていたが、いつもの流れで、つい洗濯に出してしまった。洗濯に出せば、そのパンツは洗われ、干され、畳まれ、棚に戻ってくる。それをまた「もう寿命か」と言いながら、奥さんに「今日履いたら捨ててね」と言われながら、履いて、また洗濯に出してしまう。こうして0.01デニールのパンツが完成するのである。足を通そうと手に持つと、薄くなった生地の向こうに、フローリングの木目が見える。


3/4(水)
ジムでトライアスリートのIさんとスイム談義。50代後半ながら超人的なフィジカルのIさんはストイシズムの塊。私の10年後の目標である。話すだけでヒリヒリする。馴れ合い慰め合うのではなく、自分を追い込むコミュニケーションは尊い。
帰宅後、リビングでパソコンを開くと、女性の下半身(脚部)の画像がずらりと並んでいた。「美光沢パンティストッキング」「オールスルーストッキング」といった画像が画面中に表示されていて、慌てて画面を閉じた。近くに家族がいなくてよかった。昨日、パンツの薄さを強調する表現を探して「世界一 うすい ストッキング」で検索したままになっていたのだ。私クラスになると、日記を書くだけでも常にこのような危険と隣り合わせなのである。表現のためには決して妥協しない姿勢。いわゆるデニール・アプローチである。ジャンルを問わず、一流を目指す人は私を見習ってほしい。


3/5(木)
最高気温13度。陽が暖かく、風がやわらかい。さては松任谷由美、歌ったな。


3/6(金)
WBC台湾戦、大谷翔平が満塁ホームランを打った。侍ジャパンは13-0の快勝。この調子なら1次ラウンドは私がいなくても大丈夫かもしれない。


3/7(土)
7時起床。包丁を2本研いでトイレ掃除。そののち家族で鞆の浦へ。菜の花畑散策からの王が峰ハイク。誰もいない山頂で4人並んでカップラーメンを啜った。眼下には穏やかな瀬戸内海。遠くに2艘の船が浮かんでいた。
雑貨屋を巡り、T子さんに会いに病院へ。帰りに図書館で本を借りて帰宅。夕方から冷え込んだので、夜はみんなで鍋を囲んだ。20時に家を出て島根へ。峠はまさかの吹雪。ノーマルタイヤには厳しい積雪路面であった。海辺もかなり冷え込んでいる。真冬用の寝袋に包まってこれを書いている。スマホと顔が近い。


3/8(日)
まとまりに欠けるハードなコンディションで3時間サーフ。休憩してから午後も入ったが、セット間長めのワイドブレイク中心で意気消沈して早めの撤収。
帰り道にradikoでBEFORE DAWN、田中泰延のふたりごと、中川家ザ・ラジオショーを聴いた。田中さんの番組、今月のゲストはなんと、紀行作家の田所敦嗣さん。毎週土曜が楽しみである。


3/9(月)
どれだけAIが発達しても、月曜日の襲来を止めることはできない。


3/10(火)
炊飯器の調子が悪い。釜の周りに水が溜まる。炊き上がりの通知音が鳴らないこともある。買ってから5年しか経っていないのに。ブツブツ言いつつ、ネットで炊飯器を検索している。そのせいか、インターネットのポップアップ広告やSNSの広告に炊飯器ばかり表示されるようになった。人生何度目かの炊飯期である。


3/11(水)
Twitterでお世話になっていた竹澤さんから「朗読のイベントを企画しています。何を読むのがいいと思いますか?」という趣旨のメールが届いた。年配の方が多く集うイベントとのこと。『寝ずの番』の冒頭一択だが、読む人の腹が攣って朗読できなくなるのが目に見えている。というわけで、他の作品をいくつか提案しようと考えている。


3/12(木)
起きて即ウチヤマダフーヅ朝礼
夜、街角のクリエイティブで上田豪さんのエッセイを拝読。喪失と再生。涙。


3/13(金)
仕事帰りに美容室。夕飯後、娘を塾まで迎えに行き、家で降ろしてそのまま日本海へ。先週も先々週も車中泊。20歳の若者ならそれでもいいが、私はもう45歳の大人である。毎週のように車中泊では味気ない。たまにはフカフカのベッドで寝てみたい。というわけで、近隣のホテルや温泉旅館を隈なく検索して、今週は車の中で寝ることにした。寝袋に入り、木札を持つ聖徳太子の体勢でこれを書いている。


3/14(土)
夜明けから入水。オンショアでいまひとつのコンディションだったがレフト中心に楽しめた。昼前に上がって帰宅。道中BEFORE DAWN拝聴。燃え殻さんの語りには、オステオパシーのような効果がある。心が休まるのだ。
夜、恩師である岡本先生と会食。61歳の今も現役。ご自身の塾と河合塾で現代文を教えているとのこと。驚いたことに、今の時代は講義中に雑談を話せないそうだ。コスパ・タイパ重視の生徒からクレームが来るという。なんと。先生が瀬戸内海をカヌーで縦断した話やピラミッドに登って現地警察に拘束された話など、数々の必聴コンテンツも表に出ていないとのこと。学生たちは、いったい何を習っているのか。無駄の対義語を正確に答えられる人間はいない。全ての物事は比喩なのである。


3/15(日)
水回りの掃除、洗車、家族で買い物。みんなでT子さんに会いに行って、夜は実家で鍋。
ところで、ガソリンが高すぎる。レギュラー1リットル190円。もう明日から庭を掘る。


3/16(月)
Sさんから「今日はアカデミー賞授賞式ですね。唐木さんがいつ呼ばれるか、ドキドキしてます」少し経って、今度はTさんから「WBCお疲れ様でした。そういえば、バンクシーの正体が明かされようとしていますね。お気をつけください」とメッセージ。多忙の極みに皆さんのお心遣いがありがたい。
田中さんの街角diary「世の中を良くしたいと本気で考えること」を読んだ。明日で会社設立から6年とのこと。おめでとうございます。そしてYoutube鼎談「僕たちは田中と上田と前田です」が4月3日にライブ配信されるそうだ。大きな楽しみができた。


3/17(火)
朝から奥さんの誕生日を祝う。娘たちの手作りバースデーカードに感激する奥さん。誰かの誕生日はうれしい。プレゼントはあげる方がうれしい。何においても、祝福する人の方がうれしい気がしている。だからこそ、こちらこそ、おめでとうよりも、ありがとうなのである。


3/18(水)
「もう、明日履いたら絶対捨ててね」笑いながら奥さんが言う。横にいた長女が「いま捨てればいいじゃない」と言うと「せっかく洗ったんだからもったいないじゃん」
ヨレヨレになった私のパンツの話である。
「まだいけるだろ」と返すと「もう勘弁して。たたむ時に吹き出すから」「いや、まだいけるはず。貸してみ」両脇をつまんで広げると、ヨレにヨレている。透けに透けている。ウエストゴムは汁まで飲み干した後で丼の底にへばりついたきしめんのようだ。生地の向こうに奥さんと娘の顔が見える。私は黙って頷いた。


3/19(木)
塾の送り迎えの車中では必ず娘が選曲するのだが、最近はずっとaikoにハマっている。他にも、私たち世代のアーティストをよく聴いている。
ChatGPTで、世界の1日あたりの新曲リリース数を調べてみた。
・1990年代:100曲
・2020年代:100000曲
選択肢が増えている。音楽だけではない、本も映画も、何もかも。


3/20(金)
ノーサーフの3連休初日。家の掃除、T子さんの見舞い、図書館、塾の送り迎え。
夜、リビングから悲鳴が聞こえて何事かと覗くと、Snow ManのテレビにBTSが出ているのを見た女性陣が発狂していた。奥さんが「カッコいい…」「なんで出てるの、カッコよすぎる…」と、ため息まじりに繰り返すたびに横から「ありがとう」と返したが、私の声は聞こえていない様子であった。


3/21(土)
広島市内で母方の親戚一同が集まり、祖父母の長寿祝い。生ビールを呷る92歳の祖父、保有株の動向を語る94歳の祖母。強い。前回は7年前だった。次は5年後の開催を約束して解散。
帰りの車の中で娘たちが「おじいちゃんもおばあちゃんも、すっごく元気だね」と感服していた。ちょうど彼女たちの歳の頃、祖父は建物疎開で被弾予想地区の家屋解体、祖母は軍需工場で爆弾の包装作業をしていた。強い。
さきほどから家が揺れている。20時からBTSのカムバックライブがNETFLIXで配信されているのだ。我が家のリビングはライブ会場よりも盛り上がっている。築40年。少しは手加減してほしい。


3/22(日)
動いたといえばT子さんの見舞いとスーパーに特価のエビを買いに行ったくらいで、あとは本を読んだりラジオを聴いたりしていた。
今、日曜劇場「リブート」第9話を見終わったところだ。面白すぎるのであと5年くらい続いてほしいし誰か私にリブートして明日から代わりに出勤してほしい。


3/23(月)
3連休の間、一度もサーフィンしなかったのに月曜が来た。到底納得できない。


3/24(火)
土門蘭著『ほんとうのことを書く練習』を読んだ。
【私たちは書くことで「ふたり」になり、読まれることで「ひとり」になる。そして他の「ひとり」と出会い、以前よりずっと豊かな「ひとり」に変わっていく。】(同書 第3章より)
「ふたり」になる感覚、ものすごくわかる。自分が見たいもの、読みたいこと、面白いと思うもの、それらをいちばんよく知っているのは自分なのだ。私は時々、自分の日記を読み返して、吹いている。


3/25(水)
今日、有川浩が女性であることを知った。性別勘違い作家ランキングトップ3に入る驚きであった。ちなみに第2位は高浜虚子、第1位は泉鏡花。(4位は稲垣足穂)


3/26(木)
大人になったらなりたい職業のランキングに「投資家」がランクインしたという。莫大な利益を得た一部の面々を見てそう思うのだろうか。子どもたちは本当に「投資」をやりたいのか。他に好きなこと、やりたいことはないのか。毎日、何をやっている時に楽しいと感じるのか。ちょっとカネカネ言い過ぎではないだろうか。そんなにカネが要るのか。カネがなければ人生楽しめないというのか。私に言わせれば、どんな環境でも自分なりに楽しむスキルこそが重要であって、それさえ身につけてしまえばカネなんか要る。


3/27(金)
長女はブルベ夏、次女はイエベ秋らしい。肌質?化粧の感じ?ブルベやイエベというのが何を表すのかよく分からないが、パパは何?と二人に聞くと、少し離れたところにいた奥さんから「ブラべ」と返ってきた。ブラべ。春とか秋は?と聞くと「そういうのはない」とのこと。ブラべ。


3/28(土)
朝から家族で西走。山奥の農園でイチゴ狩りである。午前中から暖かく、農園は多くの家族連れやカップルで賑わっていた。大勢が一心不乱にイチゴを摘み貪る異様な光景。真っ赤に熟れた大粒のイチゴは、どれを摘んで食べても思わず空を見上げるほどの甘み。我が家4人で食べたイチゴの数は200個を超えた。競技か。
農園を出てさらに2時間ほど西へ。初めてのグランピングにやってきた。一泊二食、天然温泉付き。要は旅館の客室がドームテントになっているというものである。大自然を散策し、レストランでたらふく食べ、露天風呂から満点の星空を仰ぎ、暖房の効いたドームテントでババ抜きを楽しむ。22:30に消灯。
ドームテントのてっぺんがクリアになっていて、その向こうに星と月が光っている。これいいね。月が見えるよ。などと皆よろこんでいたが、5分ほどで寝入ってしまった。私も寝るとする。


3/29(日)
6時半から露天風呂に浸かり、朝食を食べてチェックアウト。今日は東へ。千光寺の桜が咲き始めていると聞いたので、少し早めの花見をしてから帰ろうということになった。気温20度。晴れの尾道。桜は七分咲きといったところか。満開でなくても十分に見応えがあった。千光寺に上り、そのてっぺんから尾道の全景を眺めた。南西風、潮の香りが吹き抜ける。林芙美子の言葉を借りれば”ひどく爽やかな風景”であった。
先ほど「リブート」の最終回を観終えたところだ。最初から最後までどんでん返され続け、結果的に私の推理はひとつも当たらなかった。


3/30(月)
ジムのトイレに「環境保全のため、トイレットペーパーの使い切りにご協力をお願いいたします」という貼り紙があった。清潔なのは良いことだが、さすがに1回で1ロールは拭かせすぎではないだろうか。


3/31(火)
最高気温23度。汗ばむ陽気。今にも大黒摩季が歌い出しそうな勢いである。
昼の定食屋で、シミュレーションとシュミレーションはどちらが正しいのかという会話を聞いた。表記を気にしているのだろうか、スーツ姿のサラリーマン二人組が、テーブルに置かれた書類を見ながら話している。やがて一人がスマホで検索して「シミュレーションが正解ぽいです」と言う。するともう一人が「そうなん。まあどっちでもええけど」と返し、会話は終わった。私は驚いた。どっちでもいいのか。翻字規則や音韻論、様々な角度から徹底的に議論するべきではないだろうか。コミュニケーションとコミニュケーションはどうなのか。ジョージ・ハリスンはハリスンなのにハリソン・フォードはなぜハリソンなのか。ハリソン山中は今どこで何をしているのか。議論すべきことはいくらでもあるではないか。ちなみに、この類で私が唸ったのは、10年ほど前に匿名の人物がYahoo知恵袋に書き込んだ問いである。曰く「マイケル・ジャクソンはポウですか?パウですか?」これはどんな未解決問題よりも難しい。未来永劫、誰も解を見つけることはできないであろう。
少し熱くなってしまったが、日記をアップして寝るとする。


3月が終わった。

 

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  • 唐木俊介 エッセイ


    1980年生まれ 広島県在住 会社員