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〝よい死〟とは? 「Deathフェス」はポップに気軽に、問いかけの力で〝死とその周辺〟をアップデートする

街クリ 編集部


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「『Deathフェス』って、ご存じですか?」

ある日、取材のお誘いで、そう尋ねられました。

「Deathフェス」。まるで、音楽フェスティバルのような名前。どんなイベントだろうと想像していると、さらに問いかけられます。

「廣瀬さんは、死について考えたりすることって、ありますか?」

振り返ってみると、私は〝死〟に触れたことが少なく、あまり〝死〟に現実味を感じられません。身近な人の死も、他界した祖父は病院で息を引き取り、私はそれがどういうものなのかを感じる前に眠る彼と葬儀で対面しました。

「Deathフェス」は、そんな〝死〟と、〝死の周辺〟をアップデートするイベント。2024年にスタートし、第2回となる今年は4月12日(土)〜17日(木)の6日間、渋谷ヒカリエ8F「8/」にて開催されます。

「Deathフェス」のWebサイトを開いてみると、そこには「死をもっとポップに、終活を再定義する」という文字が。「死をポップに」という言葉が、新しく感じました。

人間、誰しも最後は致死率100%。避けては通れないことなのに、なぜか日常から遠い存在になってしまっている〝死〟。なぜ、〝死〟をテーマに「Deathフェス」を開催するのか、「死をもっとポップに」とはどういうことなのか。そして、今を生きる私は〝死〟をどう捉えて接していけばいいのか。

「Deathフェス」を運営する一般社団法人デスフェス共同代表の市川望美さん、小野梨奈さんにお話を伺いました。

(取材・文・撮影:廣瀬翼)

【 市川さん、小野さんのプロフィール 】

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市川望美(一般社団法人デスフェス 共同代表)

2010年12月に非営利型株式会社Polarisを設立。多様な働き方が選択できる社会の実現に向けた事業が評価され、令和元年度東京都女性活躍推進大賞(地域部門大賞)を受賞。2016年に代表を交代。2023年には、より実験的なプロジェクトを推進する場として合同会社メーヴェを設立。2024年には「Deathフェス2024」を成功させ、その後、リビングラボfromDeathを立ち上げるなど、社会課題解決に向けた新たな文化と仕組みの創出に取り組んでいる。

小野梨奈(一般社団法人デスフェス 共同代表)

サイエンス、IT、編集という自身の経歴を生かし、国立極地研究所をはじめとした研究機関のサイエンスアウトリーチ事業支援に関わる。並行して、女性の自立・多様な働き方の支援事業も手掛ける。2023年に、共同代表の市川氏とともに「Deathフェス」を企画し、2024年3月に一般社団法人デスフェスを設立。2024年4月に第一回となる「Deathフェス2024」を開催し、2,000人を超える来場者を集める並行して、日本での有機還元葬事業の実現に向けて、2025年に法人設立予定。プライベートでは3児の母。趣味は卓球。

【 聞き手・廣瀬のプロフィール 】

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廣瀬翼

1992年生まれ、大阪出身・東京在住。大学卒業後、食物アレルギー対応旅行の運営・お客様窓口を経て、Web制作会社にてライティング・編集を担当。携わってきた分野は、ビジネス、美容業界、カメラ・写真、ダイバーシティ&インクルージョンなど多岐に渡る。現在はフリーのライター・編集。ひろのぶと株式会社では、2022年より書籍編集を担当している。
X(Twitter):@wingYORK930

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雪の中、たった数十分で〝よい死の日〟のイベントは生まれた。

——「Deathフェス」ってネーミング、すごく印象的ですよね。「音楽イベントかな?」と想像したりして、どんな場なのか気になってしまいます。

ありがとうございます。

私たちも、気に入っているんですよ。「Deathフェス」という名前の惹きが強くて、「なにそれ?」って興味を持ってくださる方が思っていた以上に多くて。ありがたいです。

——「Deathフェス」という名は、どうやって生まれたんですか?

それが、すぐに決まったんですよ。

そうなんです。もともと、「Deathフェス」という言葉は、人と話しているときに軽いアイデアとして出てきたことがあったのですが、梨奈ちゃんと「こんなイベントできないかな」と話している時に、「これだ!」となりました。

死の話題はタブー視されがちですが、実際はみんなが最後は行き着く身近なもの。だから〝死〟についてもっとカジュアルに話せる場があってもいいんじゃないか。そういうイベントをやろう! と話していたので、ポップな名前はすごくしっくりきました。

—— 私もそのポップなキャッチーさに惹かれた一人ですね! 最初は、なぜお二人で「Deathフェス」を行うことになったのでしょう?

スタートは、 2022年に参加した長野での集まりです。雪が降る中、日常を離れて自分の内側に目を向けるリトリートと、ワーケーション(仕事×休暇)を兼ねた会だったんですけど、梨奈ちゃんもそこに参加していて、そこで「有機還元葬(堆肥葬)って、知っていますか?」と話してくれて。

そこから、「〝死〟について、こんなにカジュアルに話せることって少ないよね。もっと〝生〟と地続きの自分ごととして話せる空気をつくっていきたいよね」という話になったんです。

話しはじめたら、ほんの数十分で「よし、来年の4月14日、『よい死の日』に『Deathフェス』をやろう!」と決まっていました。あの数十分は、すごくワクワクして楽しい時間だったなぁ。

—— すごいスピード感……! ところで、「有機還元葬」って初めて聞きました。

アメリカで始まった新たな葬法で、微生物の力によって遺体が土に還る、環境にやさしい方法なんですよ。

—— 火葬、土葬以外の埋葬法があるんですね。小野さんはもともと〝死〟というテーマへの関心があったのでしょうか?

それこそ、2019年に新聞で「有機還元葬(堆肥葬)」を知ったのが、最初に死というテーマに関心を抱くようになったきっかけですね。

それまで火葬しか選択肢として自分の中になかったのですが、有機還元葬を知った時に「すごい! 死んだ後に地球に還れるんだ! 私はこれを選びたい!」とビビッと感じました。

そこで、日本でなんとか有機還元葬をできないか調べはじめました。

ところが調べてみると、死とその周辺にいろんな社会課題が見えてきて。たとえば孤独死や、お墓の継承問題もその一つ。

これはまず、そもそもそういう現状があることをもっといろんな人に知ってもらわないといけないんじゃないか、そういう話をもっと気軽にできるほうがいいんじゃないかと考えるようになりました。

「Deathフェス」は、問いかけ・気づかせ系イベント。答えがないテーマに問いかけを。

—— 確かに今は、日常の中で死について語る機会は、あまりないような気がします。むしろ、死がとても遠い存在になってしまっているかもしれません。

そうですよね。そこには、社会環境やライフスタイルの変化など、いろんな理由があると思います。

例えば、昔はおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に住むご家庭が多かったと思いますが、近年はその環境も変わってきていますよね。それによって、〝老い〟や〝死〟が生活から遠くなっているのかもしれません。

—— 私も、祖父が他界した時は病院で息を引き取って、旅立つ瞬間には立ち会えませんでした。

他にも、コミュニケーションの変化や、なんとなく死がタブー視されてしまっている世間の空気もあるでしょうし。

死は、誰かの唯一のものではないので、捉えにくいというのもあります。自分のものでもあるし、家族のものでもあるし。いろんな関係性が複雑に絡み合っていて、唯一の答えがないんです。

—— 唯一の答えはない、でも身近に迫る課題って、真面目に考えようとすると宿題みたいに避けたくなってしまうかも……。

でも、そこで「有機還元葬って、知っていますか?」と聞かれたら、ちょっと興味を持って話しやすくなりませんか?

—— なります! そこから、「自分はどんな埋葬をされたいかな?」まで考えはじめるかも……というよりも、考えはじめている私がここにいます。

答えがないからこそ、いろんな問いかけをきっかけに、みんなで話してシェアして考えてみる。「Deathフェス」はそういう場にしたいなと、取り組んでいます。

先日、ある方が「Deathフェス」のことを「問いかけ系・気づかせ系」と言ってくれたのですが、そのくくりというか、言葉が面白いですよね。

—— 問いかけ系! これもまたキャッチーな、新しいジャンル。

私たちの考えていること・やりたいことをパンッと表現いただいたなと感じて、うれしかったです。

>次のページ:〝死〟は本人のもの? 家族のもの?

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