2/1(日)
「今年は南南東なのね」スマホを見ながら奥さんが言う。「なにが?」と聞くと「恵方巻き。あっちよね」と、自信に満ち溢れた表情で北東を指差している。
少し離れたところでは、次女が国語の教科書を覗き込んで
「モウコウネン 五言絶句 しらんがな!」
「トホ 五言絶句 しらんがな!」
「リハク 七言絶句 しらんがな!」と、繰り返し吠えている。どしたん?と聞くと「テスト勉強。“しらんがな”と一緒に言ったらよく覚えられるの」とのこと。
国民の皆さんは南南東ではなく、我が家の方を向いて恵方巻きを食べてはどうか。
2/2(月)
街角のクリエイティブで、田中泰延さんがこの日記を紹介してくださっている。記事内では、紀行作家・田所敦嗣さんの連載「田所敦嗣の出張報告書」についても触れられている。
2021年の7月、田所さんと私が二人揃って週刊SPAに載るという珍事件があった。田中さんがSNSに関するインタビュー記事の中で我々のTwitterアカウントを紹介してくださったのである。二人とも掲載について事前に知らされておらず、寝耳に液体窒素の驚きであった。年が明けて、2022年の3月に田所さんと初めてお会いした際、最初に話したのは無論週刊SPAの件であった。そのSPAは今でも大切に保管している。取り出すと、表紙には「8月富士山大噴火に備えよ」という見出しがある。記者の予想は大きく外れている。先のことは誰にも分からないものだ。私とて、数年経ってWebマガジンで田所さんとご一緒できるとは、この時は予想だにしなかった。
2/3(火)
ちょっと今日は、どう書いていいのかわからない。聞いたばかりのことで、まだ混乱している。自分の頭を整理するためにも、今こうして書いている。
まず、奥さんは「イカゲーム」を観たかった。いやちがう。奥さんが観たかったのは「タコゲーム」なのだ。奥さんはNetflixを開き、「タコゲーム」のシーズン2をさがした。オススメ欄には「イカゲーム」のシーズン2が表示されていたが、それは「タコゲーム」のパロディか何かだと思った。「梨泰院クラス」に対する「六本木クラス」のようなものだと。これじゃダメ。本家を観なきゃ。と、奥さんは同じ列をスクロールし続けて、ひたすら「タコゲーム」を探した。しかし一向に「タコゲーム」は出てこない。しばらく経って、奥さんは諦めた。もうこれでいいや…と妥協して「イカゲーム」のシーズン2を再生した。そして少し経ったところでやっと気づいた。自分が観たかったのは「イカゲーム」で、どういうわけかそれを「タコゲーム」と勘違いしていたと。
仕事から帰ってソファに腰掛けた直後に「今日ね、イカゲームをタコゲームだと思っててね」と切り出された私の身にもなってほしい。節分など知ったことではない。鬼も近寄らない、これが我が家の日常である。
2/4(水)
ジムの洗面所。常連の爺さんは今日も股間にドライヤーで風を当てて「ほえぇ〜」と恍惚状態。そこに友人らしき老人がやってきて「またキンタマ乾かしよる。あの貼り紙を見い。あんたみたいなんがおるけえ貼ってあるんじゃ」と笑う。貼り紙には「皆様に気持ちよくお使いいただくため、ドライヤーの頭部以外への使用はご遠慮ください」と書かれている。対して爺さん「こうした方がみんな気持ちええじゃろうが。おお!?」と強気の返答。この場合、誰の望みを叶えるかではなく、誰の苦しみを取り除くかを考えるべきではないか。いちばん苦しんでいるのは、風である。
2/5(木)
配信停止したはずなのに延々とメールを送ってくるサイトの運営者が食べる干し柿が種だらけでありますように。
2/6(金)
去年から娘たちが観ている恋愛リアリティ番組「今日好き」に、奥さんがハマった。先日は長女と2人で観て、大泣きしたという。今日は推しを見つけたらしく「もう出る。私も出る」と言い出した。ほぼビッグダディの言い方であった。
娘の塾の迎えからの22時出発で日本海までドライブ。今年に入ってずっと、週末が来るたびにコンディションが上向く。神様がいて不思議に夢を叶えてくれている。大人になっても奇跡は起こる。車を停めて寝袋に包まれたなら、目に映る全てのことはメッセージなのである。
2/7(土)
夜が明けると、誰もいないビーチに巨大な極上波が押し寄せていた。すぐに着替えて入水。5人で貸切。今日はミラノ・コルティナオリンピックの開会式だが、波を優先して欠席させてもらうことにした。
昼過ぎから西風が吹いて急激に気温が下がる予報だったので、4時間で上がって撤収。山間部に入ると猛吹雪で白銀の世界。あと2時間遅かったら走れない程に積もっていたであろう。福山に帰るとこちらも極寒。大きな風呂で温まりたくなってジムへ。風呂だけ入ろうと思って行ったのだが、せっかく来たのだからと水着に着替えて1キロだけ泳いだ。朝は海水、夜は淡水。吾輩は鮭である。
2/8(日)
朝は「御領ヘルスラボ」で毎年恒例の味噌作り。極寒の中、今年は私と奥さんと長女の3人でタネを捏ねた。昨年は長女が受験、今年は次女が部活のため不参加。捏ねるメンバーが変わればタネに遷移する常在菌も変わる。そうして毎年違う味の熟成味噌を楽しめるのである。帰りに衆院選の投票へ。毎度のことながら有権者の皆さんが投票用紙に私の名前を書いているのではないかと心配になる。気持ちはわかるが、私も忙しい。
2/9(月)
肉の日である。畜産系の会社が運営するスーパーが近所にあるのだが、毎年2月9日は肉が売り場に山のように積まれ、大特価となる。店内は朝から怪我人が出るほどの大激戦。仕事帰りに寄ってみようかと思ったが、閉店間際だったので断念した。どうせソ連崩壊直前のモスクワのスーパーマーケットのように棚がスカスカだろう。
2/10(火)
ウチヤマダフーヅのロゴが一新されている。ステッカーにならないだろうか。サーフボードに貼りたい。
2/11(水)
左の鼻の穴の内側が少し腫れて痛い。外側も少し赤くなっている。とにかく触ると痛い。家族に言うと「鼻のほじりすぎじゃない?とにかく触らないことよ」と言われた。「鼻くそはどうするん」と聞くと「そりゃダメよ。とにかく触っちゃだめ」と念を押された。鼻くそをほじらずに、人は生きていけるのか。
2/12(木)
「下記2点、ご確認をお願いします」という一文の下に、箇条書きで3点書いてある。いわゆる過剰書きである。
2/13(金)
高根恭子著『暮らしとうつわ』を読んだ。奈良県で「暮らしとうつわのお店 草々」を営む高根さんのエッセイ集。物理的な質感、装丁、文章、挿絵。あたたかい。この本もまた、ひとつのうつわではないか。高根さんの来し方行く末、うつわに対する想いが、丁寧に、心をこめて織り込まれている。
2/14(土)
バレンタインデーである。昨年から導入した整理券アプリは今年も大活躍であった。今年は国土交通省と連携して近隣空港のターミナルや鳴門海峡および関門海峡の大型船通過規制をかけてもらっていたので比較的スムーズに運搬することができた。
中国新聞ニュースのメールマガジンに“「年収の壁」は何万円?理解するにも壁”と出ている。たしかに。103万、106万、130万、税金や社会保険料の仕組みは壁が多すぎてよくわからない。ちょっと読んでみるかとリンクに飛ぶと有料記事だった。読むにも壁。
2/15(日)
T子さんに会いに病院へ。エントランスフロアに置かれたピアノを、知らないお婆さんが弾いていた。車椅子に座って、ゆっくりと、単音で「いい日旅立ち」を弾いていた。リズムは無いに等しい。お婆さんの思うままのペースで、ただ順番に音が鳴る。
T子さんは開口一番「おかえり」と言った。私が「ただいま」と返すと、ふっと笑って、安心したように目を閉じ、そのまま寝てしまった。
病室を出ると、遠くで鳴るお婆さんのピアノは「さくらさくら」に変わっていた。
2/16(月)
有給を取って半日ドック。今年も心電図で脈拍48をスコアして看護師さんに驚かれた。そして毎度のことながら肺活量検査が辛かった。今年は熟練の看護師さんで「はいこのマウスピース咥えて鼻をつまんでくださいね。最初にちょっと練習しますからね」と慣れた調子である。声も大きく、ハキハキしている。まずい。絶対笑ってしまう…。怯えていると看護師さんの表情がプロのそれに切り替わって「じゃあ練習いきますよ〜。はいマウスピース咥えて〜」この時点でなぜかもう噴き出しそうであった。「咥えたらゆっくりと息を吸いますはい吸って吸って吸って吸って〜まだ吸える吸える吸える吸えるまだまだまだまだ吸える吸える吸える吸える〜っ吸えなくなったら止めて〜止めて〜我慢我慢してそ・こ・か・ら・一気にフウーッ!!!」のところで盛大にマウスピースを吹き出してしまった。笑いに震えながら「すみません」と顔を上げると、看護師は(ん?なにがおかしいの?)という顔をして「はい、今のは練習ですからね、もう一回いきましょう」と言った。そこから病院を出るまでの記憶がない。
2/17(火)
TVerで日曜劇場「REBOOT」第4話を観た。展開が早く、面白い。例によって今後の展開を考察・推理している。自分で言うのもアレだが、私の推理はほぼ100パーセントの確率で外れる。つまり、いちばんドラマを楽しめているわけである。
2/18(水)
オリンピックのスノーボード・スロープスタイル決勝を見ている。フランスの選手でロマン・アルマンという人がいる。ロマンがある人だ。
2/19(木)
地元の後輩Y(30代前半)から相談を受けた。高校時代の同級生は東京で高給を得て華やかな生活をしているのに自分は収入も低く地方でくすぶっている。東京か大阪の会社に転職しようか迷っている。とのこと。シンプルに、自分が何をしたいのかを考えて、その通りにするしかない。それがわからないなら、サーフィンしろ。としか言いようがない。
それにしても、なぜ他人の収入や暮らしぶりを気にするのか。だって、他人だぞ?と思う。どんな有名人も、輝かしい経歴のエリートも、風呂の中で屁をこいて登ってくる泡が水面で弾けたところで嗅いでいると思えば、人間など誰もたいして変わらないのである。
2/20(金)
前職の先輩Sさんと会食。転職してから、約半年に一度のペースでお互いの近況を報告し合っている。時々しか会わないけれど、ずっと続く関係。大切だ。何年何十年という時間と、その間、お互いがしっかり生きていなければ成立しない。
2/21(土)
T子さんに会いに行くと、ベッドサイドに小さな色紙があった。「先生の授業、大好きでした。ベージュのジャケットを素敵に着こなす先生は私の憧れです」と書かれている。
30年前、T子さんは高校で国語教師をしていた。当時の教え子が看護師になり、研修の一環で母が入院している施設にやって来たのだという。偶然の再会に大喜びのT子さんであった。
帰りにジムに寄ってスイム2000からの夜は庭で焼肉。スカスカの身体にタンパク質を補給した。娘と焚き火を囲んで、これをポチポチ書いている。娘はスマホでクリープハイプを流しながらマシュマロを焼いている。いいね。
2/22(日)
最高気温20度。地球、間違えて夏のスイッチ押したのか。
朝から木工の師匠、久さん宅へ。今日も組子細工と格闘していた。葉鉋の機能と鑿の研ぎ方についてあれやこれやと話した。帰り際に「これ持って帰れ」と組子の鍋敷きをいただいた。中心部に息を飲むほど繊細な花模様が施されている。花弁にはニガキが使われており黄色が良いアクセントになっている。しかし、である。「久さん、この花の一番細かいところとかすごいのに、鍋敷きって、鍋置いたら見えませんやん」と言うと「それは言うな」とのこと。言ってはいけなかったようだ。
晩御飯は昨日に引き続き庭で食べた。昨日張ったタープなどをそのままにしていたのだ。今夜は鍋。いいね。
2/23(月)
世間は祝日だが私は出勤であった。いったい私が何をしたというのか。最高裁まで行く。
2/24(火)
久しぶりの定時上がり。ジムで軽めのウェイトからのスイム。100のインターバル10本にキック50を10本。キックで500メートルは尻と太腿に効く。効きすぎる。効っくと言っても過言ではない。
2/25(水)
Yahooニュースで記事タイトルをタップすると、最近は必ずポップアップ広告が出る。こちらは記事を読もうとしてタップしたのに、次の瞬間、画面いっぱいに「黙々集中タイム⭐︎ナンプレ⭐︎ <今すぐ見る>」などと表示される。特に<今すぐ見る>のところが腹立たしい。見てたまるか。広告で人を怒らせてどうする。
2/26(木)
私の車のカーナビには、起動するとその日が何の日かを教えてくれる機能があるのだが、今朝は明るい声で「おはようございます。今日は2月26日、二・二六事件の日です」…重すぎる。
仕事帰りにジムへ。今週は火・水・木の3日で6キロ泳いだ。明日はおとなしく過ごして土曜の波乗りに備える。
2/27(金)
嶋津亮太さんとvoicyの収録。今回はリスナーの方からトークのお題をいただいたとのこと。ありがとうございます。ただ、そのお題が「“作ること”とは」と「“大人の遊びの作法”とは」だと聞いた瞬間に椅子から転げ落ちた。高尚すぎる。タートルネックにジャケットを羽織り、腕を組んで片方の手を顎に当てながら話さなければならないお題である。例によってまったく芯を食わない謎のコメントを繰り返しているうちに終わってしまった。嶋津さんに申し訳ない。
2/28(土)
朝出発で島根のビーチへ。やや物足りないサイズながらもコンスタントに形の良い波が続いて存分に楽しめた。日没後、ウネリが見えなくなるまで粘っていたらカモメの大群がやってきて、気味が悪くなって上がった。ちなみに寺山修司の「人生はただ一問の質問にすぎぬと書けば二月のかもめ」という句は、何度読んでもわけがわからない。いろんな人が解説しているが、どれも違う気がする。
海から上がって湯迫温泉へ。今日も入口付近をヤギが歩いていた。私が近づくとフゴフゴ言いながらどこかへ行った。メエメエじゃないのか。
今日は海辺で車中泊。明日の良波を祈るばかりである。
2月が終わった。
唐木俊介 エッセイ
1980年生まれ 広島県在住 会社員





