ゴールデンウイークの遠出は、何年ぶりだろうか。
連休中に予定していたイベントが急遽延期になり、ぽっかり空いた休日を埋めるため、愛犬を連れてキャンプがてらの釣りへ行くことにした。
数週間前、目星をつけていたキャンプ場はすでに予約で埋まっていた。
ところが連休直前、ダメ元でホームページを確認すると、奇跡的に一区画だけ空きが出ていた。
以前もnoteで書いたが、僕にとって野営とは “狩猟や登山や釣りの行程で、どうしても一晩やり過ごすための行為” という認識が抜けない。
それがいつのまにかレジャーとして目的化し、世の中に「キャンパー」という存在が生まれたことは、とても面白い。
もちろん、丸の内あたりにいそうなかわいいオネイサンとキャンプへ行くなら話も変わるだろうが、そもそも丸の内あたりにいそうなかわいいオネイサンはキャンプ場には来ない。
だから僕の「キャンパーと呼ばれる人たちはキャンプ場で何をしているのか」という疑問は、今も謎のままだ。
* * *
昼過ぎの到着を予定していたが、あちこちで発生した渋滞に巻き込まれ、キャンプ場に着く頃には西日が差し始めていた。
サイトにはすでに多くのキャンパーが陣取っていて、僕のジープがガラガラと音を立てて入っていくと、静かな夕暮れの空気に少しだけ申し訳なさを覚えた。
男ひとりと犬一匹の装備は実にシンプルだ。
軽いテントと小さなバーナー、フライパンがあればほとんど事足りる。
荷物を車から出し、テントの設営もすぐに終わった。
15時を過ぎた頃、隣に家族連れがやってきた。
都会のナンバーをつけたレンタカーから親子が降りてきて、目をキラキラさせながら子供たちがはしゃいでいる。
若い父ちゃんと目が合ったので軽く会釈すると、彼も笑顔で返してくれた。
僕は愛犬を連れて、翌日に入渓する川のポイントを確認しに歩き出した。
釣りに愛犬を同行させるのかは、事前に渓相や経験から判断するし、ガレ場(崩れやすい斜面)が多い場所などには連れて行かない。
今回行く川は美しい里川で、犬連れでも全く問題なさそうだった。
ポイントは思いのほか遠く、片道だけで1時間近くかかってしまった。
散歩から戻ると、隣のサイトでは男の子兄弟は森にある全てのモノに夢中で、少し遠くから母ちゃんが見守っていた。
父ちゃんは組み上げたテーブルや椅子の横で、テントを組み立てている。
家族がサイトに到着してから2時間ほど経っているが、ずいぶん設営がゆっくりだなとは思った。
だが、こんな時にしゃしゃり出ていくのは最もご法度である。
家族で組み上げる楽しみもあるだろうし、時に“ワイルドな父ちゃん”像を見せるいい時間であると勝手に思っているので、頼まれてもいないのにこちらから手を出すことは、彼の尊厳を傷つけかねない。
僕は自身のテントで明日の釣りの準備を整えたあと、キャンプ場が提携する温泉へ向かった。
質素な作りの風呂だったが、山奥で入る露天風呂はいつも最高だ。
風呂の中で空を見上げながら、先ほどの家族のことを考えた。
もし、サイトに帰ってまだテントが立っていなかったら手伝おう。
父ちゃんのプライドを守るために、さりげなく行こうと決めた。
はたしてサイトへ戻ると、イヤな予感は的中していた。
一人の男の子は空腹に耐えかねてぐずり、もう一人は母親と車内で父ちゃんの様子を見ていた。
お父さんは暗がりの中、取扱説明書を必死に読んでいた。
僕は意を決して、声を掛けた。
なるべく父親としての尊厳を損なわないよう、できるだけ自然に話しかけるように気を遣ったが、父ちゃんはすぐにこちらを見て言った。
「実はさっきから待ってたんでず~! あじがどうございまず〜!!」
と、泣きそうな顔で頭を上げてきた。
もっと早く助け舟を出していればと胸が痛んだが、グズっていた男の子は、僕の隣でブンブン尻尾を振る僕の愛犬を見るなり、すぐ一緒に遊びだした。
人生では、ときどきこういう場面に出くわす。
大きなお世話だと距離を置けば必要とされていたり、またその逆もある。
昔より今の方が、人に助けを求めることがずっと難しくなった気がするのは、僕だけだろうか。

田所敦嗣さんの著書
スローシャッター
田所敦嗣|ひろのぶと株式会社
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田所敦嗣
エッセイ
千葉県生まれ。水産系商社に勤務。エッセイスト。著書 『スローシャッター』(ひろのぶと株式会社)で、SNS本大賞「エッセイ部門」受賞(2023年)。フライ(釣り)、写真、野球とソフトボールが趣味。人前で声が通らないのがコンプレックス。






