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2025年12月3日「街角diary」廣瀬翼がお届けします。

廣瀬 翼


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鯛か鱒か

12月に入った。1年が、あっという間だ。

泰延さん、加納さんとの共有メッセンジャーに、「もう1年が終わる」と一枚の写真が投下された。

今年の年始のお参り。私は発熱により欠席だった。

2025年は、父がインフルエンザにかかり、父に代わって母と妹をKinKi Kidsの元旦ライブ会場である京セラドーム大阪に車で送迎した夜、私も発熱したところからスタート。熱はすぐに下がって予定通り正月明けに合わせて東京に戻ったものの、喉の痛みが取れず、仕事始めの日はおやすみしてクリニックへ行っていた。

今年は熱も喉の痛みも全力回避したいものである。

もう、修学旅行をお休みして一人寂しく写真をはめ込まれるパン野郎にはなりたくない。

年末も近づいてくると、終業式という学校儀式を思い出す。

毎回、校長先生の挨拶があった。

先生には申し訳ないのだけれど、どんな話をされていたのかというのは、あまり覚えていないもので……。あの先生の話はよく聞いていたなとか、あの先生の話は眠くなったなとかは覚えているのですが……。

ただ一つだけ、強烈に覚えている話がある。

「先生は、鯛よりも鱒が好きです」という話だった。

みなさんは、お魚は好きですか? どんな魚が好きですか?

鯛、美味しいですね。鯛めし。いいですね。めでたい。

先生も、鯛は好きです。

でも、鱒はもっと好きです。

「〜したい」「〜になりたい」。

「タイ」は願望です。

「〜します」「〜をやります」。

「マス」は意思であり、決意です。

みなさんにはぜひ、「タイ」よりも「マス」と言えるようになってほしい。

自分は今、「タイ」なのか「マス」なのか。

まずは普段の言葉から、意識して「マス」にしていってみてください。

でも、魚は鯛も鱒もどちらも美味しいよね。

だいたい、こんな内容だった。

体育館で座って聞いた当時は「先生、急になんの話を始めたんや」と思ったし、「いや好きな魚って聞かれたらマグロとかヒラメのほうが……鱒って普通出てこんやろ」と思ったし、「なんで魚から国語の授業になるんや」とも思ったし、「そんなことより体育座りってお尻も足も痺れるよね」と思っていた。

簡単に言えば、それまでのどの校長先生の言葉よりもピンときていなかったのである。

ところが、どの回よりもなんだかモヤっとしたこの時の挨拶が、その後何年も経って唯一記憶に残っている……のみならず、今でも何かを書くときに「〜したいものです」なんて書いたらすぐに「鯛より鱒……」と頭に浮かんで「〜します!」と直したりしているのだから不思議なものだ。

鯛より鱒。

たぶん、この年末年始も富山出身の父が祖母に挨拶した帰りに買ってきた鱒の寿司を食べることになるだろう。「マス」と言える自分を増やしていきたい。

だけど、魚は鯛も美味しい。めでたい。

おのみち鮮魚店の「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」を、ぜひ年末年始用に今から注文して冷凍庫に秘密道具として置いておきタイ。

おのみち鮮魚店「尾道産 天然真鯛の炊き込みご飯」はこちらから

田中泰延 画伯作「貝田先生」と「柿増くん」

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    1992年生まれ、大阪出身。編集・ライター。学生時代にベトナムで日本語教師を経験。食物アレルギー対応旅行の運営を経て、編集・ライターとなる。『全部を賭けない恋がはじまれば』が初の書籍編集。以降、ひろのぶと株式会社の書籍編集を担当。好きな本は『西の魔女が死んだ』(梨木香歩・著、新潮文庫)、好きな映画は『日日是好日』『プラダを着た悪魔』。忘れられないステージはシルヴィ・ギエムの『ボレロ』。