父の事業を継いだ経験のある、上田さん。事業を「継ぐ」こと、時代とともに変化する事業形態やAIが注目されるこれから、そしてどのように『踊る阿呆の世界戦略』の装幀をデザインしたのか……さあ、“ふたりごと”を、ちょこっとのぞいてみましょう。
【 プロフィール 】
米澤渉(よねざわ・わたる)
NEO阿波踊り集団「寶船 」リーダー/株式会社アプチーズ 代表取締役
1985年東京都生まれ。幼少期より、徳島出身の父・米澤曜が東京・三鷹で発足させた阿波踊りグループ「寶船」に所属し活動する。2012年、日本芸能である阿波踊りを世界のエンターテインメントにするべく、寶船の運営元として一般社団法人アプチーズ・エンタープライズを設立。パフォーマー全員が赤い衣装をまとい、派手なメイクを施して激しく踊る独自スタイルの「NEO阿波踊り」で演者と観客が一体となる熱狂を生み、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中米、中東、アフリカなど多数の海外ツアーも敢行。世界最大規模の日本見本市「Japan Expo Paris」では7年連続で大トリを務めるなど、2025年までに世界26カ国で活動を展開してきた。2024年4月には、マネジメント会社「アプチーズ」を設立し、第三者割当増資による資金調達を実施。2024年Forbes JAPANが選ぶ「カルチャープレナー(文化起業家)」30組の一人として選出された。2025年、初の著書『踊る阿呆の世界戦略』(ひろのぶと株式会社)を出版。
上田豪(うえだ・ごう)
アートディレクター/クリエイティブディレクター
1969年東京生まれ。1990年より博報堂および博報堂C&Dにて笠井修二氏に師事。1996年、上田豪デザイン事務所設立。様々な企業やブランドの広告企画制作に関わる。2000年、株式会社ビースタッフカンパニー内に企画デザイン室設立。2010年、同社代表取締役に就任。2021年、盟友である田中泰延氏が代表を務めるひろのぶと株式会社の社外アートディレクターに就任。2023年、株式会社ビースタッフカンパニーを廃業し、再びフリーランスとなる。その他の活動として、2017年9月、乗り過ごしを愛する大人のための雑誌「Miss my stop」をXにて刊行。noteや街角のクリエイティブにて文章を書いたり浅生鴨の「異人と同人」に寄稿したりする。中学硬式野球クラブチームの球団代表も務める。
起業するのも大変、引き継ぐのも大変
上田
『踊る阿呆の世界戦略』は、ブランディングの本であり、マーケティングの本だと思っていて。いろんな「マーケティング」や「ブランディング」の本がありますけど、この本がよっぽど参考になると思います。しかも、実践ですから。
米澤
イベントでも、ひろのぶと株式会社のYouTubeでも話してくださっていましたよね。
上田
それで、もっと言うと、これは「事業承継」の本だと思っていて。
米澤
ええ、事業承継の。
上田
渉さんは、「寶船」をお父さんから受け継いで、その業態を転換してきた。
米澤
はい。
上田
俺もそうなんですよ。
米澤
そうなんですか!
上田
はい。自分も親父の会社を引き継いだけど、業態転換をしなきゃいけなくて。まあ、“世界戦略”はなかったけど、やっぱりどうやって業態を変えて、どうやって会社として成り立たせるかを考えていろいろやってきた。
『踊る阿呆の世界戦略』では、受け継いだ事業を転換していく過程でのブランディングやマーケティングのことが語られている。
そういう部分で自分を重ね合わせながら読んで、渉さんすげえなって思うことがいっぱいありましたし、俺もこうすればよかったなっていうのもいっぱいありました。
だから俺は、これは“2代目”の人に読んでほしいっていうのをすごく思いました。会社を継いだりして、それをどうにかしていかなきゃいけないって悩んでいる人に。
米澤
ああ、まさに、そうですね。
上田
起業するのも大変だけど、引き継ぐのも大変。
米澤
めちゃくちゃ大変ですよね!
上田
引き継ぎながら、でも最初のイメージを壊さなきゃいけないみたいなところもあるじゃないですか。
米澤
そうなんですよね。でも確かに、壊しすぎると、それはそれでDNAがなくなっちゃう感じもしちゃいますし。
上田
引き継いだものを変えていこうとする時、これまでと真っ向から反発すると絶対に対立しますよね。仲違いになるというか。そこをどう、渉さんたちは外に目を向けてきたのかなと。
米澤
究極的には、人間は変わらない。でも、僕も上の世代も、結局は全員歳をとっていくじゃないですか。
だから待つしかない時もあるというのが、最近の答えで。業界全体を変えるとか、そういうのじゃなくて、自分たちができることをやりながら世代が変わるのを待っているっていう感じですね。
上田
他人は変えるのではなく、変わっていくのを待つ。
米澤
もちろん、僕らの目指す阿波踊りが届くといいなっていう気持ちで発信はします。でも、それで上の世代を変えようとかいう話は、おこがましいのかもしれないなと。
僕たちが考えて信念を持って目指していることはある。一方で、相手は相手でその人たちの歴史を持っていて、それで今に行き着いた理由があって。他の許容が難しいみたいに感じる時にも、理由はきっとあると思うんですよ。
アナログで積んだ経験は裏切らない
米澤
豪さんはお父さんの会社を継がれたというのは、最初お父さんは何をされていたんですか?
上田
画像修正の会社でした。
今でいうAdobeのPhotoshopでやっているレタッチ作業を、当時は全部アナログでやっていたんですよ。写真はデジタルデータではなく、フィルムだったので。エアブラシを使ったりして。
米澤
そうか、Photoshopはデジタルカメラになってからですもんね。
上田
父親から、「今後はデジタルの時代になって、この職種は先細るのが分かっているから、お前がデザインの会社にしろ」って言われて。それで、俺、自分の事務所を持っていたんですけど、それを畳んでやったんですね。
最初はもともとのレタッチ部門がありつつ、その中でデザインの部門を立ち上げて、徐々にデザインにシフトして、広告制作会社になっていって。
米澤
その、画像修正がデジタルに転換していく時って、多くの職人さんはどうなったんですか?
上田
デジタルに乗り換えられる人と、中には難しくて引退された年配の方もいました。
米澤
アナログでの仕事とパソコンでやるのとでは、同じ作業でも工程が全然違いますもんね。
上田
でも、俺がすごいなと思ったのは、アナログでやっていた人でデジタルに乗り換えられた人は、道具が変わってもめっちゃうまいんですよ。
絵を描くのと理屈が一緒なので、「こういう風にしたら上手にできる」っていうのが、デジタルソフトしか知らない人よりうまいんです。何色を足したらこうなる、引いたらこうなるっていうのが分かってるんですよね。
米澤
へえ〜! ベースの知識が共通して、経験が生きるんですね。
上田
デジタルデータ上で編集するのと、アナログで触るのとだと、アナログの経験のほうが理屈の理解が深くなるんだと思います。
だから、職人さんがデジタルに移っていくことよりも、会社のイメージを変えることが、1番大変でしたね。
AI時代のオリジナルと“阿呆”
米澤
今の、ツールによる変化の話みたいに、時代ごとにどうしても変わらなきゃいけない部分って出てきますよね。
上田
テクノロジーの進化で自分たちの業界にあった仕事が変わったり、ある職種がなくなったりも見てきたから、より重要になったと思います。
米澤
文章の世界も手書きからキーボードでwordに打ち込むようになって、今やAIが書けるなんてことになってきているじゃないですか。今後AIが本格的になってきたら、出版の世界はどうなっていくんですかね。
上田
AIは今、進化がかなり速くて、相当賢くなっていますもんね。文章も、画像や動画の生成も。
上田
2人は、情報を整理してまとめるだけのような文章は、今はAIにほとんど勝てないって話していますね。
でも、本はやっぱり著者・人間がいないとできないものも、あると思います。
AIには、思い出がないからね。
デザインも同じで、画像の切り抜きみたいな作業はAIに置き換わっていくかもしれない。でも、自分なりの個性があるデザインはやっぱり人間じゃないとできないと思っています。
米澤
確かに、AIに「〇〇さんのようにつくってください」と指示しても「〇〇っぽい」にしかならないですもんね。
上田
AIはインターネット上にあるものの再現・活用しかできないですし。ネット上にあるものを引っ張ってくるけど、全くのオリジナルは考えない。
米澤
まだAIが出てきたばかりで賢くなかった頃は、真面目に回答したものが的外れだったのが面白くてみんな遊んでいたと思うんですけど。
でも、最近はそのズレを修正してきているから、何かギャグを考えてもらうようなのもあまり面白くないですよね。
思考のジャンプ力みたいなものが、面白くするには必要なのかな。
上田
AI時代で勝つには“阿呆”にならねば、かもしれません。
赤のインパクトに一目惚れ
米澤
今回『踊る阿呆の世界戦略』の装幀を豪さんに手掛けていただいて、最初に4つも案をいただいたのが、それぞれ全然タイプが違って。
上田
「A案:ビジネス書方向」「B案:エンタメ方向」「C案:ドキュメンタリー方向」「D案:タレント本方向」で出した4案でした。
米澤
どれがいいかって、贅沢な悩みでした。
上田
最終的に決まったのは、「B案:エンタメ方向」ですね。それを元にブラッシュアップしていきました。

米澤
僕は最初に見た時から、もうこの赤いB案に一目惚れですよ。このインパクト。
でも、4案全部に意味があって、一目惚れしながらも迷いはして。泰延さんや廣瀬さんとも、こっちだとこんな人に手に取ってもらえるんじゃないかとか、こちらのほうがストーリー感あるんじゃないかとか。
寶船のみんなに聞いても、「これも好き、これも悩む」って、だいたいみんな2つ挙げるんです。でもその片方は全員、今の赤い案でした。
それに、少し時間を置くと、やっぱりこの赤い案しかないって思ったんです。だから、この装幀になってうれしい。すごく寶船らしいなと。
上田
俺、やっぱり寶船さんの印象と、情熱が溢れている感じには赤だよなと思ってつくりましたね。
米澤
帯は最初、今の黄色ではなかったんですよね。
上田
グレーでしたね。ブラッシュアップの段階で、より書店で目を惹いて寶船らしさを出すにはなど検討して、この色にしました。

米澤
僕たちの衣装に入っている「寶船」の文字も黄色で、一般メンバーの帯も黄色なんです。この本の姿がそのまま寶船の衣装みたいで。
あと、タイトルの文字にも一目惚れでした。
上田
この本は「阿呆」が重要なキーワードだけど、言葉として聞いた時にすごく強いじゃないですか。だから、ドギツくなったらいけない、だけど「阿呆」が埋没してもダメだよねって。
米澤
言葉の印象は、タイトル決めの最後の最後まで廣瀬さんと話していたところでした。
豪さんの「阿呆」の話もそうですし、「世界戦略」という言葉が堅い本に見えてしまったり、「どんどん世界へ出ていくべし!」みたいな話に見えてしまったりしないかとか。
上田
だから、タイトルのタイポグラフィーをつくりました。
踊る本に。上田豪が仕掛けた“いたずら”
上田
このタイポグラフィーが、本全体のキービジュアルです。
うちわのデザインとか、「AHO-T」「AHO-帽」とか。いろんなものに展開しやすい記号としてつくりました。
米澤
カバーの袖の部分や、カバーを外した表紙も「阿呆」がズラーっと並んでいて。


上田
そうそう、その並べているのも、阿波踊りの流し踊りの列をイメージしてそうしました。
米澤
本当に、連続している感じがします。
上田
で、もう一つ。渉さんが実際に本の中で踊るように見せられないかと思って、本に仕掛けた“いたずら”がありまして。
紙の本を手に取って、右下のほうを見た方はお気付きになられていると思うんですけど、パラパラ漫画ですね。隅っこで、渉さんが実際に踊るという。

米澤
これは、すごいアイデアですよね。本が踊るって発想が、すごい。
このあいだ、知り合いが「本、忙しくてまだ読めてないんだけど、パラパラ漫画だけは読んだよ」って言ってくれたんですよ(笑)。
上田
ビジネス書にパラパラ漫画がついてるって、ちょっと変わってて面白いなと思って。俺はどの装幀案になっても、これはやるつもりでした。
撮影も、このために渉さんのお時間をいただいて、寶船の事務所でさせていただいて。
米澤
楽しかったですね。
でも今思えば、もうちょっと滑らかに踊れたかなあとも。ちょっと硬かったかなぁ。
ゆっくり動いて、それを豪さんがカシャッ、カシャッて撮影くださっていたんですけど、ゆっくり踊るって逆に普段しないから、「どうやって踊るんだっけ?」みたいになっちゃうんですよ(笑)。
上田
いやいや、おかげでパラパラができて、俺自身は満足でございます。この本でやりたいことができました。
踊る阿呆を語り尽くす1時間半!
寶船の生パフォーマンスも体験できます!
日付:10月10日(金)
時間:19:00開演
(寶船のパフォーマンスは19:45〜予定)
場所:TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE
参加費:500円(税込)
【参加お申し込みはこちらから】
米澤渉さんがYouTube配信「僕たちは」シリーズ第19弾にゲストで登場されました!
「結石で欠席」の上田豪さんに代わり、2時間たっぷり出演。視聴者からの質問・相談にまっすぐ応えています。
米澤渉さんの著書

踊る阿呆の世界戦略
世界26カ国を熱狂させた NEO阿波踊り集団 寶船の挑戦
米澤渉|ひろのぶと株式会社
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米澤渉
文化/起業/対談
NEO阿波踊り集団「寶船 」リーダー/株式会社アプチーズ 代表取締役。 1985年東京都生まれ。パフォーマー全員が赤い衣装をまとい、派手なメイクを施して激しく踊る独自スタイルの「NEO阿波踊り」で演者と観客が一体となる熱狂を生み、多数の海外ツアーも敢行。2025年までに世界26カ国で活動を展開してきた。2024年Forbes JAPANが選ぶ「カルチャープレナー(文化起業家)」30組の一人として選出された。2025年、初の著書『踊る阿呆の世界戦略』(ひろのぶと株式会社)を出版。