
実録ドキュメント
「ひろのぶと、おのみちへ行く。」
[3月4日]
朝8:30。
丸の内KITTEの前で車を待っていた。
目の前に佇んでいる中国人白タク業者の車。
その後ろに滑り込んでくるアルファード。
田中泰延、加納穂乃香、廣瀬翼、上田豪の
700kmを超える尾道までの旅が始まろうとしていた。
走り出してすぐ、トラブルに見舞われ大手町で停車した。
荷物の積み込みの際に手土産を路上へ置き忘れたらしい。
手土産が置き土産へと変わった瞬間である。
再び走り出すアルファード。
後部座席を振り返ると「ライブ配信をする!」と
旅の直前まで意気込んでいた加納・廣瀬の両名は、
何故か仮眠する態勢をとっていた。
*****
激撮グラビア「仮眠ing soon」

ライブ配信を乗り過ごす二人。
*****
岡崎PA。
ひろのぶとでは、車で関西方面へ向かう時、
必ずといっていいほどここに立ち寄り食事をする。
おそらく岡崎PAに立ち寄ることが社訓に加わるのも時間の問題だろう。
そして毎回ここに来て思う。
何故、このあたりではとんかつに味噌をかけて食べるのか、正直言って俺には解せない。
食事を済ませると、田中泰延の駆るアルファードは、
自動運転機能を駆使しながらひたすら西へと走る。
道中、大阪や岡山での所用を済ませ、
我々が尾道に入ったのは22:00を過ぎていた。

チェックインしたホテルは、尾道の駅からほど近い海のそばにあった。

自分でもよくわからない使命感に駆られ、何故だか駅の様子を見に行った。
尾道駅は、想像していたような古い駅舎ではなかった。
電車の撮影を思い立ち構内の時刻表を見ると、
電車の到着まではあと一時間近く待たなければならない。
タイミングが悪かったということだろう。

撮影を諦め、部屋へ戻る前に一服しようと
ホテルのバルコニーへ向かうと先客がいた。
そこには、物憂い顔で煙を吐く田中泰延の姿があった。
経営者はいつもひとり、
経営者ならではの重圧や苦悩と戦っている。

もとい。Twitterでクソリプラーと戦っていただけかもしれない。

和製吉川晃司。
ちなみに吉川晃司は広島出身だ。
ロングドライブお疲れさま。
[3月5日]
朝。
起きて窓の外を見ると小雨がぱらついていた。
今回の旅の目的のひとつである、鈴木創介さんとお会いする日だ。
尾道で、おのみち鮮魚店を営む鈴木さんは、
田中泰延に依頼した原稿の納品を3年以上も待っている偉人だ。
待たせる方も待つ方もどうかしている。
身支度を整え、ホテルの下に向かうエレベーターの中で、
鈴木さんと初めてお会いした日を思い出す。

2017年5月、大阪。
謎のこの飲み会が鈴木さんとの初対面だった。
ホテルの下でひろのぶとの面々と合流。
そして鈴木さんと再会。
今日、明日と、我々に同行して尾道を案内してくださるのだ。
全員の荷物を積み終え、
走り出したアルファードは尾道の駅前を通り過ぎると
ほどなくして尾道市役所へ到着した。



鈴木創介さんと田中泰延。
鈴木さんが「おのみち鮮魚店」を始める前に携わっていた大学の仕事、
それを田中泰延と形にしてから今日までの付き合い。
戦友のような間柄。
大人同士は仕事を通じて本当の友達になれる。

船の形を模しているという市役所の屋上から尾道の町を見渡す。
尾道水道と山に挟まれたわずかな平地に町が形成されている。
鎌倉と似たイメージを抱いた。





いくつもの寺が山の斜面に貼り付いている。
交通の要衝として栄えた古の時代にはさらに多くの寺があったらしい。
市役所を後にし、
次は山の上からこの町を見てみようと浄土寺の展望台へ向かう。

移動中の車窓から。
まるで結界のように山と平地の間を走る山陽本線が寺への石段を跨ぐ。
展望台へ続く山道の途中までは車で登っていけるという。

車を置いた一行は、小雨の降る中、山頂を目指し鈴木さんの先導で登っていく。
決してバードウオッチングに来た一行というわけではない。

おい! ちょっと待てよ! ©️木村拓哉

大きいものを小さく見せるには、より大きいものと並べるといい。

鈴木さんを先頭に絶景が待つ展望台へ。

タレント撮影定番のポーズ。


展望台から見る尾道の風景は、
幻想的でまるで水墨画のようだった。
天気が悪かったともいう。


雨の勢いが強くなった。
雨宿りをしながら、鈴木さんから尾道の話を拝聴した。
誰かの故郷の話をずっと聞いていたくなるのは、
その人の輪郭が見えるからなのかもしれない。

ずっと聞いていたくなる。

ずっと聞いていたくなる。

ずっと聞いて……る?

再び小雨に変わったところで山を降りる。

来た道を下っていく。濡れた枯葉が足元を滑らせる。

わ
り
と
怖
い



日本野鳥の会ではない。ひろのぶとの社長と唯一の正社員だ。

車まで辿り着く。エイドリア〜ン!
電通時代の富士登山でもきっとこの調子だったのだろう。

アルファードに乗り込み、走り出したその目の前にヤマドリがあらわれた。
しばしのバードウオッチング。


山を降り、アルファードは商店街へと向かう。

個性のないショッピングモールなんて本当に町に必要なのだろうか。
個性が溢れるアーケードの商店街こそ、
いつまでも賑わっていてほしい。

店先のガチャガチャについムキになり何度も回してしまった。
その度に両替に行くと店主が苦笑していた。
4人の仮面ライダーをGETした。

バスケットボールストリート。なんちて。

祭りの展示をしていた。




地域の色が垣間見えて興味深い。
祭り(イベントごと)が出会いの場だというのは今も昔も変わらないのだ。

天狗がいるのはMissmystopの聖地、高尾だけではない。

展示を出たところで、通りすがりのおじさんが尾道のことを親切に教えてくれた。

通りすがりのおじさんの熱弁はひたすらつづく……。

ひたすらつづく……。

ひたすら……ありがとうございました。

アーケードから外れていくつもある路地を散策。



古い商店街の路地で見つけた新しい息吹。
新しいことを始めようと頑張っている地域の若い人たちは、
地方活性化にとってとてもありがたい存在だと思う。



売れないバンドのジャケ写。
鈴木さんおすすめの、アイスモナカが美味しい店。
店先の海辺でひとやすみ。


尾道水道の海辺には、いたるところに漁船が係留されている。
漁師になる人が増えないとこの先みんな困ったことになるよなあと、
アイスモナカを食べている最中に思う。


向島(むかいしま)への渡船。
人々の暮らしを支える大事なインフラだ。
果たして乗り過ごす人はいるのだろうか。

踊る廣瀬の世界戦略(シン尾道三部作)

くいしんぼう(シン尾道三部作)

時をかける症状(シン尾道三部作)

休憩を終え、もうひとつの旅の目的である漁師さんへ会いに向かう。

藤川さん。
鈴木さんが営む「おのみち鮮魚店」の天然真鯛の炊き込みご飯用に、
尾道で獲れた天然の真鯛を卸している「凄腕の漁師」。






獲れたばかりの真鯛を締める手際の鮮やかさ。
締め方ひとつで味が変わってしまう。

お裾分けを期待しているのか、その様子をアオサギが見ていた。




日々、命あるものと対峙する仕事をしている人の貌には、
厳しさと優しさがある。





藤川さんとの3年ぶりの再会に、
田中泰延も嬉しそうだった。

いただいた真鯛を携えて、鈴木さんの仕事場へと向かう。

宇宙一おいしいラーメン。いつか確かめてみたい。

産卵前のこの時期の真鯛は美しく、
そしてかなり美味い。


真鯛を捌きはじめた鈴木さんの表情が、職人の表情に変わった。
尾道の豊かな海で藤川さんが獲った天然真鯛をこの仕事場で捌き、
毎日のように炊き込みご飯を仕込む鈴木さん。

獲れたての真鯛で作った炊き込みご飯が炊き上がった。
ずっと尾道の海で仕事をしてきた男と、
生まれ故郷へUターンして仕事を始めた男のコラボレーション作品。


これが美味くないわけがない。
尾道では昔から食べられていたという真鯛の炊き込みご飯。
鈴木さんの伯母の味そのままだというレシピで、
おのみち鮮魚店の「天然真鯛の炊き込みご飯」は作られている。
しみじみ美味い。
林芙美子が尾道を愛した理由のひとつに、
真鯛の炊き込みご飯の存在があったのかもしれない。



天然真鯛の刺身と湯引き。
新鮮な白身魚特有の硬い食感と脂が乗った豊かな味があとを引く。
尾道の酒(スポドリ)が飲りたくなる。

美味すぎる〜。


鈴木さんの仕事ぶりをカメラに収める仕事熱心な二人。



腹ごなしに艮(うしとら)神社へ。
長い年月、尾道を見守り続けた楠の大木に圧倒される。




ロープウェイから望む尾道の町、尾道水道、向島、その奥の島々。
ここにしかない瀬戸内海の美しい風景。






起伏に富んだ地形。大河のような尾道水道、遠くには瀬戸内海の島々。
そして、僅かな平地にひしめく人々の暮らし。
千光寺山頂の展望台から、尾道の風景を眺めていると、
優れた文章や、映像、絵画が、この地から生まれてくる理由ががわかった気がした。

尾道に縁がある田中泰延は、
この風景を見てなにを想っていたのだろう。


山頂から下る途中にある千光寺の鼓岩。
ハンマーで岩を叩く。音の響きが違う場所がある。
人の心も同じかもしれない。

尾道は猫の街でもある。
地域猫への取り組みはこの町の優しさそのもの。

尾道には、一緒に転げ落ちた男女の性別が入れ替わってしまいそうな坂道がたくさんある。

尾道を代表する絵葉書的な風景。
まさに「るるぶ」の表紙になりそうだ。

田中泰延と加納が坂を転げ落ちて入れ替わったらどうしよう。

山陽本線。言葉の響きからもっと線路の数があると思っていた。

単騎でやってきた電気機関車EF65。ブルートレインを思い出す。

レールの廃材で作られた歩道橋からの風景。鉄分多め。


線路と住宅の距離感に、江ノ島電鉄沿線と通じるものを感じる。

アーケードに戻ると遠すぎて辿れない親戚の店を見つけた。

ご当地ならではの駄洒落。

このネーミングはなんかズルい。

銭湯のような飲み屋。コーヒー牛乳も置いてあるかもしれない。


尾道ラーメン。食べ飽きない味。







浄土寺。国宝の寺。
聖徳太子が創建。足利尊氏が戦勝祈願をした場所。
今日までどれだけの人がここを訪れたのだろうか。

渡船で向島へ。
3年前、鈴木さんと田中泰延が訪れた店へ食事に。

向島からの渡船とすれ違う。




尾道で暮らす人の時間の流れは、
東京のそれとは明らかに違う。

向島へ到着。
学校から帰宅する学生が船を待っている。
地元の人々にとって、この船は通勤や通学に欠かせない足なのだ。

向島ドックで働く人たちで賑わう店なのだろう。



鈴木さんと田中泰延、3年前の時間が蘇る。



尾道の海と山の味覚を堪能した。
特に、生口島産のレモンを使ったスポーツドリンク(レモンサワー)の旨さには驚いた。
何を食べても美味いこの地で暮らしたくなるのもわかる。

船のエンジン音だけが聞こえる夜。
干潮を迎えた尾道水道を、渡船で戻る。
波間にはただ灯が揺らめくだけだ。


充実した一日が終わろうとしている。
明日は朝から海に出る。
[3月6日]


鈴木さんが弟さんと船を出してくれた。
我々に釣りの体験をさせてくれるのだという。
10年くらい前まではよく海釣りに出掛けていたことを思い出す。
あの頃の、船での真鯛釣りの感覚を思い出せるだろうか。

船外機が立てる波を何も考えず眺めているのが好きだ。





魚影の濃いポイントまで、しばらく船を走らせるという。
静かな海には、
造船や修理のためのドックがいくつも見えた。

僕たちまだなにも悪いことしてません!




島と島の間に架かるいくつもの橋の下を通り過ぎていく。


船上で吹かれるこの季節の海風はまだまだ冷たい。


台船を曳航するタグボートを眺めていると、
船は徐々にスピードを落としていった。

どうやらポイントに着いたようだ。

弟さんに仕掛けの説明と魚を誘うアクションの仕方をレクチャーしていただく。

タイラバと呼ばれる擬似餌。

ウイリーやサビキ、手バネしゃくりなどでの真鯛釣りは経験があるのだが、
タイラバを使う釣りは初めてだ。

ひろのぶさん、釣りますよ?

寒さで意識が遠のいているようだ。

加納はすでに意識を失っている。




鈴木さん、廣瀬、俺が竿を出す。
廣瀬は弟さんから個人レッスン。
廣瀬と海釣りのイメージは新鮮だ。

意識が戻った二人。

キジハタ×3。カサゴ×1。本日の釣果。
ちなみにキジハタは記事畑と書く。
我々に相応しい魚。
もちろん嘘だ。

海釣りを堪能し、陸にあがる。
船釣りに行くと必ず
「もう少し釣りをしていたかった」と思う瞬間。



兄弟で釣果を捌いて食べさせてくれるとのことで、
今日もまた鈴木さんの仕事場へと向かう。




二人の鮮やかな包丁捌き。
刺身と煮魚を食べさせてくれるという。

キジハタの刺身。
鯛の白身とは違う旨さ。
ハタと名のつく魚はほぼ美味い。

キジハタとカサゴの煮付け。
おばあさんの味付けを受け継いでいるという。尾道の味。
ちなみにカサゴと名のつく魚もほぼ美味い。

カイロ三枚貼りの勇姿。
田中泰延と父の思い出の地、
尾道大橋へ向かった。



追憶。

田中泰延のお父さんも、きっと嬉しいに違いない。
海の道、空の道、追憶の道
(おのみち鮮魚店webサイト/寄稿:田中泰延)
https://onomichisengyo.net/hironobuto/


向島に渡り、山の上にあるカフェ、ウシオ ショコラトルを訪れた。
山の上から見る眺望に、
時間が止まっているような気がした。








クリエイティブな香りで溢れている空間。
仕事のことを忘れられるロケーションは、東京にはそうはない。


人は何のために生きるのか。

テクノロジーの進化に追われるためでもなく、

金を稼ぐことだけに追われるためでもなく、

ひとりひとりが、幸せになるためではないのか。

そんなことを考えていた。
ゆったりとした時間を過ごしたあと、
我々を乗せたアルファードはさらに標高の高い山へと向かった。

高見山関の四股名は、この高見山から来てるのだろうか。

2倍〜2倍〜(世代を選ぶギャグ)

ここからの眺望は、陛下もご覧になられたという。









尾道の町や瀬戸内海に浮かぶ島々。
遠くに四国の山々まで見渡せるこの風景は、ずっと眺めていられる。
山を降りると、
カフェから眺めていた小さな入江に向かった。


シーグラスが拾えるというこの浜辺で、
穏やかな波の音を聞いた。
久しぶりのビーチコーミング。
写真を撮るのを忘れるほど、何も考えず夢中になった。

昨日とは別の会社が運営する渡船を待つ。
車が乗り込むことのできるこの渡船は、
今年の3月末で廃止となった。
135年、この地の暮らしを支えてきた身近な存在の終焉。


係員の案内に従ってゆっくりと乗船する。




接岸。
向島から尾道まで、10分足らず。
岸壁には、向島に向かう車が渡船の到着を待っていた。
今夜の食事は、鈴木さんおすすめの「中國料理 松本」。









過発注の悪夢が脳裏をよぎる。

中華料理に合わせるスポーツドリンク(紹興酒)




充実したこの二日間の尾道での話。
そして鈴木さんと田中泰延との出会いの話。




美味しい食事の席での話は尽きない。
*****
「尾道での夜散歩」


なんやねん。


車を広告写真風に撮ってしまう職業病。














*****
ホテルに戻る途中、
市役所の屋上に立ち寄り夜景を眺めた。
夜の時間でも立ち入りできることに驚く。

西国寺のライトアップ。西国分寺ではない。


夜景を見ながら、
この濃密な二日間のことを振り返る。
尾道という町の空気、流れる時間、人の温かさ。
鈴木さんの故郷。田中泰延に繋がるルーツ。

尾道駅前で我々は鈴木さんと別れた。
俺は電車の写真を撮るためにホームへ入った。
向かいには電車を待つ鈴木さんの姿があった。

電車の入線を知らせるアナウンス。
鈴木さんに向かってあらためてお別れの手を振りお辞儀をしたが、
滑り込んできた電車に遮られてしまった。

電車の中からお辞儀を返してくれる鈴木さんがいた。

お世話になりました。
[3月7日]
朝。
寝坊してしまった。
慌てて身支度を整えていると、部屋の電話が鳴った。

カーテンを開けると、
窓の外は気持ちよさそうに晴れていた。

田中泰延の待つロビーに降りる。
「先に加納と廣瀬を迎えに行くから寝起きの一服でもして、荷物を見ててくれ」
そう言うと彼女たちを迎えに出て行った。


田中泰延の戻りを待つ間にふと思う。
仕事を共にするということ自体が、
旅なのかもしれない。
帰路。
東京へ向けて出発。
朝ラーしたいとのことで目当てのSAを目指すも、
バイパスを乗り過ごしてUターン。
どうにか目指していたSAに到着。


朝から食べても重くない。
尾道はラーメンの味まで優しい。
腹を満たしたあとは東京を目指すのみ。




前を行くタンクローリーを見つけるたびに、
鏡面のタンクにアルファードを映す遊び。
自動運転を駆使して、
アルファードは高速道路を快調に走っていく。
快調に……後部座席から寝息が聞こえる。
*****
激撮グラビア「仮眠ing soon」




*****



どうせ一度の
人生ならば〜
男度胸の
デザイン稼業〜



しかし、若い頃にトラックドライバーをやっていた経験があるとはいえ、
それにしてもこんな長距離をひとりでドライブできる
田中泰延はタフだなといつも思う。


富士山が見えてきた。




あと2時間足らずで東京だ。

人は誰でも、人との出会いで人生が転がっていく。

ひろのぶとのみんなと、
最後まで一緒に走り続けられたらなと思う。
上田 豪 広告・デザイン/乗り過ごし/晩酌/クリエイティブ
1969年東京生まれ フリーランスのアートディレクター/クリエイティブディレクター/ ひろのぶと株式会社 アートディレクター/中学硬式野球チーム代表/Missmystop