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当たるもHACK当たらぬもHACK 【連載】ひろのぶ雑記〈第二十三回〉

田中泰延


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相も変わらず無職である。


今年いっぱいは、失業給付金をもらっているので、無職らしい無職の生活なのだが、来年からは何かしらして食っていかなくてはいけない。


だが、就職活動みたいなことは、一応、ハローワークで紹介してもらったりしてやってはいるのだが、ハローワークに並んでいる求人情報というものは、行ったことのある人ならわかると思うが、これがもう、なんとも「足元をみている」ものが多いのである。


えっ・・・その忙しそうな・・・仕事内容で・・・この年齢の私に月給17万円・・・正気ですか? みたいな掲示が並びまくっている。


なのでマジ参考にならない。やや心を動かされたのは


【風俗雑誌のカメラマン 風俗店に勤務の女性の写真を毎日10人以上撮影して、月給18万円】


というやつだ。面白そうだとは思うが、よく考えると大変そうな仕事だ。興味本位以上のプロ意識を持てるどうかはなはだ疑問である。しかも、47歳で月給18万はまずいだろう。一人暮らしの若者で、写真の心得がある人にこの職は譲りたい。


なので、就職活動はしつつもアテにせず、ありがたいことに人様から急にやってくる、「電通辞めたんだって? じゃあウチでとりあえず試しにこれやってみない?」 みたいな話に乗ることにしている。


そのひとつが『ザッパラス』という会社がスタートさせたインターネット放送『占いTV』のなかの『ひろのぶの部屋』という番組の司会である。


ザッパラスというのは占いをコンテンツ事業にして東証一部に上場しているという変わった会社、というか面白い会社である。


このザッパラスという会社と契約して占いの記事を配信したり、電話やチャット形式で占いをする占い師がざっと200人以上もいる。その全員に1時間ずつ話を聞く、という番組である。


占い師200人にカメラの前で1時間話を聞く。気が遠くなる企画だ。ちなみに、上の写真左端の占い師は、「ムンロ王子」さん。東京大学法学部を卒業後、IT関係の会社を経営しながら、シャンソン歌手としてステージで歌いながら、占い師としても売れっ子の身長190センチのオネエキャラ・・・というまったくもって規格外の人である。


こんな強烈な人たちに毎回毎回インタビューして、なにしろ200人だから来年までかかる。なんとも壮大なことに巻き込まれてしまった。


しかも、占い師さんは個性のカタマリなので、こんな感じで面食らうこともある。


この、「新大阪の開運おばちゃん占い師・波羅門(バラモン)」さんなんか、東南アジアの寺院が歩いてきたのかと思った。普通の服を着て向かい合っていたのでは身体が持たない。楽天市場でいちばん変な服を選んで着ることにしようということで、こうなった。


一応、イメージは映画「オースティン・パワーズ」の「Dr.イーブル」である。

出典:IMDb


なんの一応なのかさっぱりわからない。さきほどの写真左端の占い師さんはアイビー茜さんという可愛い方で、この並びだと私が占い師みたいだ。


番組のコンセプトは


「占い師に相談して身の上話をする人は多いけれど、占い師自身の身の上話を聞いてみよう」


というものである。


そもそもは、私が最初にこの話をされたのは、飲み屋で酔っ払った挙句のバカ話だった。そのときの酔っ払いぶりは過去のこの連載に詳しい。

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その席に、私と同じ日にTBSを退職してフリープロデューサーになった角田陽一郎さんがいて、


「占い師200人にキャッチコピーを書いてみませんか?」

「え・・・。やってみましょうか」

「いや、どうせ占い師に会って話を聞かなきゃ書けないのだから、会って話を聞くこと自体を番組にしようそうしよう」

「なんだかよくわからないけどそうひまひょう」


と泥酔しながらの会話があり、翌週言われた場所に行ったらすでにカメラがスタンバイしてあり、「はじめまして。坂本奈津美です」とアシスタントのアナウンサーさんまでいたのだった。


プロのアナウンサーである「なっちゃん」こと坂本奈津美さんに助けられながら、なんとかやっと50人ほどの収録が終わった。やっぱり、気が遠くなる。


難しいのは、占いというのは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」というぐらいで、基本、目には見えない世界だということだ。そして私の立場としては、本来、占いには懐疑的なスタンスを取ってきたこともあり、微妙な立ち位置である。ハナからなんでも信じる姿勢ではない。また占い師にお金を払って相談するお客さんとは違って、私にとって占い師さんは「センセイ」ではない。ただ、シンプルな質問をして、虚心坦懐きょしんたんかいに耳を傾けることが大切で、そこからその人の人間性が浮かび上がってきたらいいなと考えた。


という、身構えた姿勢で向かっていったのだが、始まってみると楽しい楽しい。


占い師さんは、よく考えると当たり前だが、私と違って「喋りのプロ」なんである。毎日、何人もの悩みを抱えたお客さんと向き合い、その問題に共感し、それぞれが学んだ占星術や易学を駆使して、それぞれの悩みになんらかのアドバイスを与えて、訪れた時よりも前向きで明るい気持ちになって帰ってもらうのがその仕事だ。


また、ザッパラスで活躍してスタジオに来てくださる占い師さんたちは、みなさんファンがいて、リピーターがいて、という人気占い師、有名占い師ばかりだ。


何人もに話を伺って、占星術師と言われる人は、西洋式でも東洋式でも全員同じ計算方法を基礎として使っていて、それは長い歴史の中で体系化されており、でまかせで占う人など誰もいないことをはじめて知った。


人間は日々迷いながら生きているが、見えないものをいかに大切にして暮らしているかも知った。日常の中には神社もおみくじも厳然としてあるし、食事をいただく時には自然と手を合わせる。ゲンをかつぐ習慣だってだれにでもあるだろう。


向き合ってみると、占い師さんの話術、人間としての共感力、その明るさ、に学ぶところがめちゃくちゃある。番組内で自分をちょっと占ってもらうのも楽しみになった。


まだお目にかかったのは50名だが、占いは日常の中の楽しいエンタテインメントで、占い師は悩み事を打ち明けられる優しいカウンセラーであることもだんだんと理解できてきた。


ある人に「こんな番組の司会を始めたんですよ」というと


「占いって、“即席小説”でもあるから」


と言われた。そうか、と膝を打った。占い師さんに自分を占ってもらうのは、その場で自分が主人公の小説を書いてもらう面白さでもあるのか。


ある人というのは、糸井重里さんである。


じつは私の父の職業は、占い師で、そして小説家だった。父が占い師だったからこそ、どこか懐疑的なスタンスは変わらない。だってお父さん、「占いはあんまりアテにしちゃいかん」が口癖だったんだもん。けれども懐疑的だからこそ、人間として向き合う面白さがある。これからも虚心坦懐にお話を伺っていきたい。


それは私が、亡くなった父に出会う旅でもある。変な衣装でがんばっています。


 

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  • 田中泰延 映画/本/クリエイティブ

    1969年大阪生まれ 広告代理店元店員 コピーライター/CMプランナー ひろのぶ党党首 ひろのぶと株式会社