お前がいうな。
8月10日、東京から島根・松江に帰省する日。
東京から岡山への新幹線は動いていたけど、
岡山から松江へ走る「特急やくも」は、ほとんどの列車が大雨で運休になった。
朝の7時、東京の自宅で起床してすぐにそれがわかって、
ひとまず松江に住む父に電話をかけた。
すぐに電話に出てくれた。
父も事態に気づいて連絡を待ってくれていたのだろうか。
「はい、もしもし。」
もしもしとはよそよそしい。
いつもは、「おぉ。」とか「なんだや。」とか、適当な声かけから始まるのに。
「あ、お父さん。 やくもが運休になって、岡山までは行けるけど、そこからどうしよう」
「ちょっとちょっと、何?」
いつも冷静で落ち着きのある父はこんなこと言わない。
確かに年配男性の声だけど、父らしいあたたかみのある声じゃない。
電話できない状況で誰かが代わりに出てるとか…?
もしかして、監禁とか?!
「お父さん…じゃない? ……ダレ?!?!?!」
「誰ってこっちが誰だよ!」
番号をよく見ると数字を1つ間違えて登録していた。
朝から大変申し訳なく、丁重に謝って切った。
父は文句も言わず、岡山まで車で迎えにきてくれた。
雨がすごかったから、片道3時間。往復6時間。
ありがたい。
ありがたい。
将来はこういう親になりたい。
* * *
確か、8月25日だったと思う。
8時半、目覚ましを止めようと携帯を見ると着信だった。
見覚えのない番号だったけど、親戚とか知り合いかも、と思って出てみた。

「ぁい、もしもし。」
声を張ってみるも寝起き感バレバレで、ちょっと情けない。
起きて会社に行く準備をしなければならない時間だし、
ささっと終わらせるか、もしくは折り返しするって言おう。
「もしもし。こちら山口県警の者です。加納穂乃香さんのお電話にかけています。ご本人ですか?」
……
おい。
詐欺やないか。
朝から詐欺。
朝ラーとか朝カレーみたいに、朝詐欺をいただいた。
神妙に聞こえてほしいのか、刑事ドラマのヤマさんみたいな声を捻り出して、
オラつきながら喋ってくる。
とりあえず話を進めることにした。
「はい、本人ですけど。」
「あなたにね、事件のことで話を聞かないといけないんですよ。山口県警まで来てもらえますか。」
「えぇ…山口ですか…」
山口と聞こえてきた時、組の者かもと一瞬考えたけど、確かに県警と言った。
「何時に来れますか。取調室の時間を取らないといけないんでね、正確に。」
頭は起きてても、顔の筋肉が起きてないからうまく話せない。
「山口…はひぃ…」といった感じでモゴモゴしていたら、
「寝起きですか。」と、つっこまれた。
さすが、朝詐欺師は余裕がある。
ほっといてほしい。
「あ、はい。今起きました… えっと、車で12時間はかかるので夜の9時に行きます。」
「あなたねぇ。東京からそんなにかからないでしょう。山梨ですよ。」
寝ぼけて聞き間違えていた。
山梨組というのは聞いたことがないから、組の者でないこともあらためて分かった。
しかし私が東京にいることがなぜ分かったのか。怖い。
「今から事件の詳細を話します。周りに聞こえない場所に移動してください。」
「ええと… メモ取っていいですか。」
メモは許可された。
いいんや。
「ここから録音しますから。」
と言われたところで、どの口が?! と急に笑えてきた。
「録音て、ちょwwwww」
と笑ってしまったのがダメだった。
切られた。
加納穂乃香
日常
ひろのぶと株式会社 事務局長。株式会社街クリ 取締役。パンチニードル職人。