早川さんの「会う力」に引き寄せられました
早川洋平 『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』
ふだん出版社の代表をつとめる僕が映画や音楽、本などのエンタテインメントを紹介していくというこの連載。
しれっと書き始めましたが8年ぶりくらいに書いています。書き方忘れたわ。
みんないろいろあるとは思うんですが、いろいろあったんですよ僕。
2015年、この『街角のクリエイティブ』で原稿を書き始めた時はサラリーマンでした。それが、なにを考えていたのか会社を辞めてしまい失業者になったのが2017年。青年失業家などと名乗ってなにを考えていたのか本を書いて出したのが2019年。さらになにを考えていたのか会社を始めてしまったのが2020年。
みんな、なにか考えない方がいいです。なんか始めたらひっこみがつかないぞ。
でも、勤めを辞めたり、本を書いたり、会社始めたり、その都度ごとに、人は必ず誰かと「会う」んです。それが人生を大きく動かしていくんです。
というわけで、今回紹介するのは本です。
1. 早川洋平さんの 『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』が出版されました

早川洋平さんが書かれた 『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』。早川さんの初めての著作で、新潮社からの刊行です。
早川さんとは、一度お会いしています。忘れもしない、えーといつだったか、忘れとるやないか、カレンダーみます。はい、2020年12月7日でした。

この予定表を見ると衝撃の事実が浮かび上がります。
なんと、その前の月、11月22日と11月24日に、中1日だけ空けて、2回も僕は「美々卯」のうどんすきを食べているのです。

しかも美々卯と美々卯の間の日に天王寺の「源兵衛」の塊肉ステーキを食べているのです。

人知を超えています。ほんとうに何を考えているのでしょうか。さすがに胃が疲れたのでしょう、その翌週は会食の予定がまったくありません。

何の話をしていたのかさっぱり忘れました。そうでした。早川洋平さんと初めて会った時のことです。
2. 5年前、早川洋平さんからの一通のメール
私は、その前の年、2019年に一冊の本を書きました。
すると、早川さんから突然、メールをいただいたのです。
ちなみに、メールが突然に感じられないようにするには、「今からメールをしますよ」というLINEをしなければならず、そのLINEが突然に感じられないようにするには、「今からLINEをしますよ」という連絡をしなければならないのですが、突然ではあっても早川さんからのおたよりに、私は誠実さを感じました。
はじめてご連絡させていただきます。
インタビュー音声マガジン『Life Update』の編集長と聞き手を
つとめておりますキクタス株式会社の早川洋平と申します。
このたびは、田中さまにお話をうかがいたく、ご連絡させていただきました。
ご依頼のきっかけは、ご著書『読みたいことを、書けばいい』を通じて、
田中さまに完全にノックアウトされてしまったからです(唐突に申し訳ございません)。
私事で恐縮ではございますが、新聞記者出身の私にとって、
「『読者が』読みたいことを、書けばいい」病は、
独立10年経ってもなかなか治らない慢性のものでした。
そんななかで偶然手に取った『読みたいことを、書けばいい』。
その場で一気読みしてしまい(もちろんその後購入させて頂きました!)、
以来折に触れて読み返しております。
完全に忘れていた「自分が」の視点を取り戻したことで、
前述の二つの「病」が少しずつ癒されていくのを実感することができました。
驚いたのは、文章だけでなくその他にも「応用が利く」ということ。
インタビューが生業の私にとって、『知りたいことを、聞けばいい』を
今まで以上に徹底したところ(今までは、臆してしまい振り切れないところがありました)、
決してすくなくない方に「自分がいちばん聞いてほしいことを聞いてもらえた」と感謝される機会が激増しました。
……勝手に後略した上に勝手に私信を公開しておりますが、このメールをいただいて、僕はお目にかかったことのない早川さんに、ぜひ「会いに行こう」と思ったのでした。

早川洋平(はやかわ・ようへい)
1980年、横浜生まれ。中国新聞記者等を経て2008年起業。インタビューメディア『LIFE UPDATE』配信中。
■プロインタビュアー早川洋平Webサイト:https://yohei-hayakawa.com/
■X(Twitter):@kiqtas
その人、早川洋平さんは、「プロインタビュアー」でした。初めて知る職業です。
僕は、自分の書籍を上梓した直後にいくつかのメディアに取材され、新聞や雑誌記者の方からインタビューを受けましたが、インタビューそのものを仕事にされている方にお目にかかったことがありません。
会う前に早川さんのキャリアをわかる範囲で調べてみます。

というポッドキャスト番組や、

を拝見すると、早川さんはそうそうたるトップランナーの皆さんのお話を聞かれています。
コシノジュンコ、羽生結弦、吉本ばなな、高田賢三、石田衣良、横尾忠則、角田光代、平野啓一郎、東浩紀、林真理子……
あ、僕、作家のお話が好きなんで、ついピックアップしてしまいましたが、これはあくまで一部です。早川さんがインタビューされた著名人は書ききれません。
早川さんは、そんな著名人をはじめ、さらには普通に生活されてる市井の方、海外で暮らしている日本人のみなさん、ライフワークとされている戦争経験者の方々、これまでなんと2000名以上の方にインタビューされているじゃないですか。
そんなすごいインタビュアーがなぜ、私なぞに……。と思いつつ、行ってみたら驚いた。
事前に早川さんから質問されてお答えしていた、私の愛読書や、好きな音楽などのリストを、彼はすべて読んだり、聴いたりした上で待っていてくれたのです。
これはもう、それまでのインタビューと全然違いました。信じられないことに、私が書いた本の取材といいつつ、本自体を読んでない記者も多かったのです。
初めて話す早川さんと私は、一瞬で打ち解けました。
そのときの様子は、ロングインタビューとして配信していただいたほか、5本のショートバージョンとして公開されています。
【INTERVIEW#64】【5 Minute Update】
Q22.田中泰延さん(ひろのぶと株式会社代表取締役)
だれにいまいちばん興味がありますか?
この日、私が感じたのは、そうそうたるトップランナーと会って話すことと、ぽっと出の僕であろうが、だれであろうが早川さんの姿勢は常にフラットということでした。
それ以来、早川さんと話した記録は僕の宝物です。で、彼の活動を1ファンとしてウォッチャーウォッチャーしていた僕なんですが、あの日から5年。
3. あれから5年、早川洋平さんからの一通のメール
また突然のメールが。
ちなみに、メールが突然に感じられないようにするには、「今からメールをしますよ」というLINEをしなければならず、そのLINEが突然に感じられないようにするには、「今からLINEをしますよ」という連絡をしなければならないのですが、突然ではあっても早川さんからのおたよりに、私は誠実さを感じました。
大変ご無沙汰してしまい申し訳ありません!
プロインタビュアーの早川洋平です。
私事で大変恐縮ですが、この度初めての著書『会う力』を新潮社さんから刊行することとなりました。
つきましては大変不躾なご相談で恐縮ですが、本書の著者インタビューのインタビュアーをひろのぶさんにお願いさせていただけないでしょうか?
私自身が自分にインタビューはできないことから(汗)、どなたか人と会うことの価値を知り尽くした方がいないか思いを巡らせたとき、ひろのぶさん以外の方を考えることは僕にはあり得ませんでした(生意気言って申し訳ありません)
お忙しいところ突然のお伺いで恐縮ですが、ご検討頂けたら幸いに存じます。
何卒よろしくお願いいたします。
早川 拝
……勝手に前略中略後略した上に勝手に私信を公開しておりますが、このメールをいただいて、僕はこの5年の間に、『会って、話すこと。』という本も上梓して、なんとか自分なりに生きてきた自分を認めてもらった気がして、ほんとうに嬉しかったのでした。
光栄です、いつでもどこでも、飛んでいきます、と返信したら、早川さんから二の矢が。
選択肢が5つあります(多くてすみません)
⑴焼鳥
ブロシェット 飯田橋
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130905/13130886/
⑵ジビエ・ワイン
ニコチェルシー
http://yumemania.jp/tenpo/nicoseries/chelsea/
⑶中華
智林
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130905/13233789/dtlphotolst/3/smp2/
⑷鉄板焼き
てっぱんや
https://kagurazaka-teppanya.com
⑸居酒屋
炉端肴町五合
https://tabelog.com/tokyo/A1309/A130905/13009097/
⑴は行ったことがあるのですが、⑵〜⑸は編集者さんの推しです!
さあ、みなさん、どう思いますか。早川さんのこと。
もう、この本、
『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』
僕のようなものが、中身をグダグダと紹介して、1行ごとに褒める必要などないと思いませんか。
それが早川さんの『会う力』です。
この本に関しては、石田衣良さんからの紹介を拝読したら、もう僕などが推薦するにはおよびません。

直木賞作家の石田さんと早川さんは、「会う力」によって強い絆で結ばれている。すごいなあ。
4. プロインタビュアーにインタビューする日
さて、おいしそうなご飯につられて 早川さんに会いたい一心で、ご用意くださった場所へ向かった僕なんですが、よく考えると、プロのインタビュアーにインタビューする、これは大変なことだと気が付きました。で、僕は滅多に着ないスーツを着て、ネクタイまで締めて伺いました。

当日の様子は、こちらの配信にすべて収録されています。
いやぁ、汗がすごすぎたのでしょう、田中泰延のアップは一切ない、心温まる配慮がされております。助かりました。もう顔ビショビショなんです。
ぜひ2人の対話全編を見ていただきたいんですが、きょうはその中で心に残った部分を文字で構成して再録します。


もうね。プロインタビュアーにインタビューって、プロスポーツ選手の前で、ちょっと自分もプレーしてみなって言われるのと一緒で、こんな緊張することないですよ。もう汗がすごいでしょ。

今日はあんまり仕切らないようにしないと。
話を聞いてもらうなら、ひろのぶさんしかいないかなと思って。

誰かと会う時に「緊張してます」は誰も得をしないから言うなって糸井重里さんに言われたんですけど、僕、もうしてますね。

僕が緊張してきますよ。聞くのが普通なんで聞かれるっていうのは。

さて。こちらの本が新潮社からついに。


これまでのインタビュアー人生の集大成というか。
……集大成って死ぬみたいじゃない。

1巻の終わりは2巻の始まりです。

なるほどいいこと言う。

この本の中ですごい大事なこと書かれてて。
「インタビューといっても双方向の対話だから」っておっしゃってて。
それでだいぶ気を楽にしてきました。

よかったです。

この本は順繰りに全ページ伺いたいこと、いっぱいあるんですが、中でも、「人と喋るとかコミュニケーションが苦手だ」って書いてらして。
僕も立食パーティーとか未だに苦手で、隅っこの方でパスタとかガーって食べて帰りますね。

パスタ好き。

名刺交換して隅っこでパスタをガーって食べて、できるだけ喋りたくない。

パスタって2回言いましたからね。パスタ大好き。
僕は究極的に人付き合いが苦手で、今も人と関わりたくないし、前も言ったかもしれないですけど、普段家にこもってるのがすごく好きで。

その早川さんが、2000人以上にインタビューされて。
びっくりするような文学者の方、スポーツ選手の方がいらっしゃる。そして例えば戦争体験者の方。
僕が感じたのは誰に会われる時も、どんな方に会われる時も姿勢がフラットだなと思って。

正しいか分かんないですけど、「偉い」といわれる人にはそうでないようにして、「偉くない」という言い方はあれですけど、みんながぞんざいに扱うような人に対しては、リスペクトみたいなのはずっと心掛けています。
それでちょうど良くなるくらいなんですね。

いろいろ仕事を経験されてますよね。新聞記者、それから広告の会社、あとイベントの会社。
この本はすごくわかりやすくて。
会うこと自体の意義というか、効力が、「自分の人生どう変わった」というポジティブなことなんですよという前提があって。
会う前に何をするか、会った時に何をするか、会った後に何をするか何が起きるか、というふうに分かれて書かれてて。

どんな人でもどんな状況でも、自らこの人に会いたいと定めて会うことで、時代や環境に関係なく、自分の人生を変えるヒントを直接の対話で得ることができる。それはプロインタビュアーとか新聞記者とか関係なく直感したんですよ。
会う前にまずこの人に会いたいと定めて。そうすると、会うために何するかじゃないですか。真ん中にはもちろん会った現場があるんですけど。
そうすると逆算して会う前、会った時、会った後っていう風になっていくので、やりながらっていうところじゃないですかね。

会う前は「リサーチから始まる」と。

大事なところですね。
パブリックリサーチとオリジナルリサーチに分けて、パッと調べたらわかることと、コストをかけて深掘りと。自分が調べることはやっときましょう、と。
国会図書館と大宅壮一文庫はとにかく行くってことなんですよね。
ぜひ皆さんにも使っていただきたいなと。

リサーチをおろそかにしない。
あと、いろいろ調べた結果、「会った時には何か一個提案してみよう」と。

インタビューって、相手の時間を奪うことになるわけじゃないですか。
僭越なんですけど、相手がどんな大物であっても、何か一つでも「提案」をしてみようと。
時間を取ってよかったなって思ってもらえたらいいなと。

これはすごいなと思って。

やっぱりトップランナーの方はすごいから、いわゆる著名人の方に会ってるっていうのが見えがちですけど、有名無名、老若男女、国内外どんな人の話からも、やっぱり僕が大事にしてるのは「ライフアップデート」ってことです。
人生を更新する、人と、世界と、出会えると思ってるんで。

この本ですごく感動したのは、人生で困難なこと、誰にでもありますよね。
「これ乗り越えられないんじゃないか」っていう時に、早川さんは「この困難な状況をベストに乗り越えられる人は誰だろう」って思って、その人の気持ちになってみる。
「その人だったらどうするだろう?」って考えるっていうところ。
それはもうまさに「ライフアップデート」ですね。

2000人3000人、無名有名、関係なく、そういう方たちに会って、
今風に言うとなんて言うんでしょう。
自分というOSがあって、その方たちの知のアプリというかね。
それが常に心のクラウド上にあって。

この本は、インタビュアーになりましょうとか、YouTuberになりましょうとか、もちろんそういう方には直接役立つと思うけど、それだけじゃなくて。
「この人に会いたい」とか、「こういう問題を解決したい」って思った時に、最もそれに詳しい方とかに敬意を持ってお時間をいただいて会うという。

現世御利益的に言うと、会うことほどコスパいいものないじゃないですか。
コスパタイパって考える人ほど、どんどん本当に会って話すことじゃないですか。

会いに行くと、会いに来たっていう時点で、もう何か変わってるんですよね。

本が出るっていうことは、覚悟を世の中に発信することだから。
こういうことで生きてますし、生きてきましたし、これからも生きていく。よろしくお願いしますという。

うん、うん。
あ、これ聞きたかったんです。
「あなたにとって最も価値ある財産は何ですか?」

人です。やっぱりそれは本当にこのまんまですけど。
会う方が有名とか有名じゃなくても、素晴らしい方なんで、その方たちがすごいだけなんで、そういう意味で人が全てなんです。

5年前に初めて早川さんから僕がインタビューを受けた時、早川さんからの質問で、「今一番興味ある人は誰ですか?」って言われて、僕の答えが……

「目の前にいる早川さん」

そういうことですよね。それは本当に。
でも、人が苦手って言ってた人がなんでプロインタビュアーに。

破綻してるんです(笑)

最後に僕から質問です。
いま一番誰に会いたいですか。

今日は自分の娘に会いたい。
お父さんはいつもTシャツとか着て会社行ってるけれども、今日はネクタイ締めて会いたい人に会ってきて、こんなことを仕事としてやってきたんだよってことを言いたい。

素敵ですね。

最後はやっぱりインタビューされて終わっちゃいました。
素直に、すごく楽しい時間でした。
田中泰延による早川洋平さん『会う力』刊行記念インタビューは、こちらのSpotifyで音声ダイジェストが。
さらに、こちらのYouTubeでその様子の全てが公開されています。
笑ってばかりの無駄話もふくめて、しかしこの本をめぐって話題は核心へとせまっていく。そんな時間をぜひ、ご視聴ください。
このあと、2人は中華料理店で(そうです。あのリストから僕がお願いしたのは、中華です)

ここには書けないようなプライベートな話を3時間もして握手をして別れたのですが……
僕たち、会うの2回目ですよ?
5. 人生は、「会う力」でアップデートする
会うことは、人生をアップデートすることです。
『会う力 シンプルにして最強の「アポ」の教科書』は、早川さんが、そのための方法をひとつづつ丁寧に教えてくれます。
それは、どんな人にもきっと役立つ、早川さんからの「提案」だと思いました。
最後に、当社・ひろのぶと株式会社で編集者として日々、著者とアポを取り、会って出版を進めていく立場にある廣瀬翼の、この本を読んだ素直な感想で幕を閉じたいと思います。
『会う力』 すごく、すごく、いい本です。
インタビュアーやライター、編集者など人にお願いしてお話を伺う機会が多い人はもちろん、営業だって「人に会う」お仕事。他にも、仕事は「人と会う」ことで進んでいく場面がたいはんです。
すべてのビジネスパーソンが心がけたら、仕事が、人間関係がフッとアップデートする。そんな一冊だと思います。
それ以外にも「就活のOB訪問に」「推しに会いたい」など、きっと参考になる人はたくさんいるはず。
そうして、丁寧に人に会えば、きっと人生が変わっていく——。
そう感じる一冊です。

廣瀬翼(ひろせ・つばさ)
編集、ライター。ひろのぶと株式会社の書籍編集を担当。
X(Twitter):@wingYORK930

書名:会う力─シンプルにして最強の「アポ」の教科書─
著者:早川洋平
出版社:新潮社
定価:1,870円(税込)