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ズンガリガリガリズンガリガーリ【連載】ひろのぶ雑記〈第二十五回〉

田中泰延


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コードネームをつけられた。私は今日から「コードネーム:TRUCKER」だ。

出典:「秘密結社:大阪ぴかぴか団」公式Facebook

これはABC朝日放送のラジオ番組『秘密結社:大阪ぴかぴか団』に出演した時に「コードネーム:大王」こと後藤ひろひとさんから与えられた名前である。

後藤ひろひとさんは、演出家・劇作家で、映画にもなった『パコと魔法の絵本』の原作者でもある。

出典:吉本興業


映画に造詣が深い方で、たくさんのお話を伺った。興味深かったのは「あなたのナンバーワン映画はなんですか? とか、あなたの好きな映画ベスト3は? なんてすぐに訊いてくる人は映画が好きじゃない」という話だった。確かにその通りだ。私も含め映画好きは、数えきれないくらい映画を観ていて、好きな映画がありすぎる。軽々しくこれが1番だなどとランクをつけられるほど傲慢ではないし、それぞれのジャンルに好きな作品があり、好きな監督がいて、俳優がいて、選ぶことなどなかなかできないものだ。


思わず後藤さんに番組内で「そうですよね!」と賛同の意を示したものの、実は収録前に私は「僕のベスト3映画」について用意していたので内心、焦った。


今日は大王こと後藤さんにバレないようにその3つの映画の話をしよう。ただし、ほかにも好きな映画はたくさんある。以下の3本の映画は、たんに「繰り返し観た回数が多い3本」と言ってもいいかもしれない。


ちなみに、私は「自分が好きな映画」を挙げろといわれて観た人がとても少ないようなマニアックな作品を列挙する人が苦手である。多くの人が観たものについて私個人がどう思っているのか知ってもらった方がよいと考えるからだ。


繰り返し観た映画その1。『ベン・ハー』

出典:映画ナタリー


予告篇をご覧いただこう。


Reference:YouTube

出典:ザ・シネマ


家族、友情、個人、国家、民族、差別、憎しみ、赦し、イエス・キリスト、そして伝説の大戦車競争。製作6年半。製作費は今のお金にしたら500億円は超えているんじゃないか。いや、もうこんなすごいものは人類には作れないんである。ベートーベンの『第九』とかそういうものと同じで、人間が打ち立てた金字塔としかいいようがない。

出典:YouTube

私はいまでも『ベン・ハー』が『午前10時の映画祭』とか、どこか地方の映画館で上映されると聞くと必ず行く。スクリーンで観たいからだ。

この映画3時間44分。上映前に前奏曲を聴くのだ。この曲のイントロが映画館で流れると、私は2秒で泣く自信がある。


Reference:YouTube


繰り返し見た映画その2。『ブレードランナー』

出典:映画.com


冒頭のシーンをご覧いただこう。

Reference:YouTube

出典:YouTube


『ブレードランナー』のすごい所は、「現実のほうが映画を模倣した」点にある。この映画の登場で、人類の世界観と実際の世界、両方が変わった。35年前、1982年にこの映画が公開されて以来、我々は『ブレードランナー』の中にいるといっても過言ではない。

出典:YouTube

そしてこの映画は、「人間存在とは何か? 愛とは何か?」を問うてくる物語でもある。

出典:YouTube


私の車に同乗して夜景など見せられながら調子のいいことを言われたことのある女性は、必ずこの音楽がかかっていたことを思い出すだろう。

Reference:YouTube

いま最高にいらないことを言ってしまった。嘘です。


繰り返し見た映画その3。『ホーリー・マウンテン』

出典:映画.com

ちょっと・・・予告篇を貼っておきますが、気持ち悪いものが苦手な人は見ないでください。やめたほうがいいかもしれない。

Reference:YouTube

監督はアレハンドロ・ホドロフスキー。これは70年代の伝説的なカルト映画で、私も80年代にリバイバル上映で観てブッ飛んでしまい、以後VHS、DVD、再上映・・・何度観たかわからない。

出典:YouTube


なんでこんなに好きかと言われてもちょっと説明できないのだが、「映画の本質とは“見世物”である」ということを思い出させてくれるからだと思う。


とにかく、ラストが最高だ。初めて観たときの痛快な気分、「そうか! そうだったのかワハハハハハハハハハハハハハハハ!」という気持ちは、今の自分の人生観を作っていると思う。ホドロフスキーというおっさんは、飄々とした詩人のようでもある。ちなみにこの映画、諸事情で実現しなかったが、主演は「ジョン・レノン」になるはずだった。嘘のような本当の話。

出典:YouTube



という、3本のよく観た映画の話を内緒で書いたところで、『大阪ぴかぴか団』の番組内で大王こと後藤ひろひとさんが一番泣けた映画について語っていたのを思い出した。


大王が泣いた映画は『ロッキー』だという。しかも、こんな意外なところだ。


最後の大試合、ロッキーとアポロの戦いが終わる
恋人・エイドリアンがリングに向かって走る
その途中、エイドリアンの帽子が脱げる
アポロの判定勝ちが告げられるがもはや勝ち負けなどどうでもいい
傷だらけで目もほとんど見えないロッキーがエイドリアンと向かい合う
その瞬間ロッキーが言うのは

“ Where’s your hat?“


そのシーンをご覧いただこう。

Reference:YouTube

後藤ひろひとさんは言う。


「あれだけの大試合をやってのけた男が最初に言う言葉が、愛する女に “帽子、どうしたの?” ・・・それだけでロッキー・バルボアという男のすべてがわかる。なんてすばらしい脚本なんだ。なんてすばらしい映画なんだ」


私の人生に、いままで気づかなかった、大事なことがまた増えた。


『ロッキー』という映画の素晴らしさは、これまた素晴らしい荻昌弘さんの解説を聞いてほしい。

Reference:YouTube

荻さんは語る。「これは、人生、するか、しないかというその分かれ道で “する”というほうを選んだ、勇気ある人々の物語です」


自分が、そんなものを作れるかどうかはわからない。誰かの人生を勇気付けられる何かを創造できるか、そんなことはこれからの自分次第だ。


だが、どんなにつまらない雑文であろうと、お金にならなかろうと、私は何かを書きたいと思う。それでも眠くて眠くてソファに横になってしまった夜、私の耳にどこからかレフェリーの声が聞こえてくる。私はカウント8で立ち上がり、もう一度キーボードに向かう。少なくとも私は人生、するか、しないか、その分かれ道で “する”というほうを選んだ。


サラリーマンやめちゃって不安だけど、“する”自分がいる限り大丈夫だ、という気がしている。


そんな映画の話をみんなとして2017年を締めくくりたいと思ってます。12月23日大阪・心斎橋で映画『恋するミナミ』の上映会とトークショーがあります。大阪ミナミが舞台の映画が、初上映から4年を経てついにミナミで凱旋上映です。監督のリム・カーワイさんと、製作総指揮の加藤順彦さんと3人でお話しします。


公開時に田中が作った予告篇はこちら。


Reference:YouTube


クリスマスにぴったりの映画です。


そして歳も押し詰まった12月27日、ラジオDJで映画評論家の野村雅夫さんと大阪ミナミのロフトプラスワン ウエストで、ことし1年に観た映画について語り合う、「ヒロノブ・マチャオの しっかし映画ぎょうさん観たで」を開催します。

映画の話を誰かとするのは楽しい。
みんな、来てね。

 

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  • 田中泰延 映画/本/クリエイティブ


    1969年大阪生まれ 元・広告代理店店員 元・青年失業家 現在 ひろのぶと株式会社 代表