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ライフ イズ カミング バック【連載】ひろのぶ雑記〈第二十二回〉

田中泰延


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痛風にはなんとか勝利をおさめた。いや、積極的に戦う方法は別にない。痛みが通りすぎるのを待つだけである。


前回も力説したが、そもそも痛風というやつは、「関節結石」とでもいうもので、腎臓結石、尿管結石と同じ血中の尿酸によって起こる。どこに石ができるか場所の違いだけだ。


最終的には、足の指の血管にできた尿酸の小さな結晶を、自分の血流がなんとか溶かして押し流して、痛みと腫れが終わる。私の場合、痛み始めてからだいたい3週間だった。


だが痛みが終わると同時に、果てしなく続くトークイベントの波が押し寄せてきた。


会社を辞めて以来まったく休みがないが、2017年の夏は、まるまる「人前で話す」ことに費やすとは夢にも思わなかった。


それもこれも、春先に持ちかけられた話になんの考えもなく「あ、いいっすよ」と答えたせいだ。自分のばか。


まず、7月30日から3週にわたって、TOKYO FMのラジオ番組に出演、澤本嘉光さん、権八成裕さん、中村洋基さんと4人で喋る、

『澤本・権八のすぐに終わりますから。』


8月7日、大阪・ミナミのロフトプラスワン・ウエストで、漫画家のかっぴーさんと、ラジオDJで映画評論家の野村雅夫さんと映画『ラ・ラ・ランド』について熱く語るトークイベント、

『 We Love La La Land!』


8月25日には大阪・ミナミのスタンダードブックストア心斎橋で、僕が電通を辞めた同じ日にTBSを辞めた角田陽一郎さんと、会社を辞めて自由に生きて食べるためにはどうしましょうかねえ、という対談トークショー、

『「好きなことだけやって生きていく」という提案』


その翌々日の8月27日には、京都・太秦うずまさの京都学園大学で、さえりさん&カツセマサヒコさんと、フリーランスで仕事をする立場になったら、人生は愉快になるかどうかをおしゃべりする3人トーク、

『愉快な大人のシゴト論』


さらに翌日の8月28日は東京に移動して、下北沢の本屋B&Bで前田将多さんの著書、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』が書かれた背景、本の内容についてガッツリ語り合う、

『カウボーイって今でもいるの?先輩後輩対談』


・・・それだけではない。その合間に、毎週毎週、『占いTV』というWEB放送局で占い師100人以上と1時間対談するという、気が遠くなる番組の収録、

『ひろのぶの部屋』


と、まぁ喋ってばかりの夏になってしまった。


だいたい、元来が人見知りで無口な人間である。いや、ここは笑うところではない。人前に出るのが苦手だから、会社を辞めるし、人に会わなくて済む職業ってなんだろうと考え、せめて文章を書いて生計を立てようか、と決めたのである。


だから喋りが仕事になったら困るのだが、引き受けたものは仕方がない。そこには、お客さんが待っている。


角田陽一郎さんとは、こんなオッサンふたりが話し合うだけの会に、金曜の夜、100人もの人が1,500円のチケットを買って集まってくださったことにまず衝撃を受けた。真剣にやるしかないではないか。


いつも、1時間半なり2時間、そこへ来ていただいたお客さんになんとか喜んでもらおう、笑ってもらおうと試みる。



暗い部屋でキーボードで文字を打つ仕事をしている私は、舞台俳優でもミュージシャンでもないから、人前に立つのはこんなトークイベントだけだ。しかも、私には著書もなく、販売促進のサイン会をするでもないから、その場その場が一回きりの出会いであり、勝負である。なんの勝ち負けかさっぱりわからない。


しかし、ライフ・イズ・ア・ショータイムなんである。集まってくださった方が最後、こんな笑顔で拍手をくださったら、まぁ、この日1日生きていてよかったな、と思う。


いまこの原稿を書き終えたらすぐ、私は熊本へ向かう。9月21日、熊本広告業協会からトークイベントに呼んでいただいた。この夏、しゃべってしゃべって走り抜けた、最後のトークショーである。主催者が決めたタイトルは、まさかの


『田中泰延です。青年失業家です。』


だそうだ。どないせいというねん。だいたい、広告の仕事をしていた24年間、まったく広告業協会的なところには呼ばれず、辞めたら呼ばれる不思議。


ただ、これはあの


「文字がここへ連れてきた」



なのである。ありがたくお話を頂戴しつつ、初めての人たちにお目にかかれることにワクワクしつつ、なにを喋るか悩みつつ、被災地熊本になにかお役に立てたらいいなと考えつつ、馬刺しのことを考えつつ、九州へ向かいます。


 

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  • 田中泰延 映画/本/クリエイティブ

    1969年大阪生まれ 広告代理店元店員 コピーライター/CMプランナー ひろのぶ党党首 ひろのぶと株式会社