7月24日に開催された『踊る阿呆の世界戦略』刊行記念イベントの終演後に語り合うふたり。本づくりについて、「阿呆」について……さあ、“ふたりごと”を、ちょこっとのぞいてみましょう。
【 プロフィール 】
米澤渉 (よねざわ・わたる)
NEO阿波踊り集団「寶船 」リーダー/株式会社アプチーズ 代表取締役
1985年東京都生まれ。幼少期より、徳島出身の父・米澤曜が東京・三鷹で発足させた阿波踊りグループ「寶船」に所属し活動する。2012年、日本芸能である阿波踊りを世界のエンターテインメントにするべく、寶船の運営元として一般社団法人アプチーズ・エンタープライズを設立。パフォーマー全員が赤い衣装をまとい、派手なメイクを施して激しく踊る独自スタイルの「NEO阿波踊り」で演者と観客が一体となる熱狂を生み、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中米、中東、アフリカなど多数の海外ツアーも敢行。世界最大規模の日本見本市「Japan Expo Paris」では7年連続で大トリを務めるなど、2025年までに世界26カ国で活動を展開してきた。2024年4月には、マネジメント会社「アプチーズ」を設立し、第三者割当増資による資金調達を実施。2024年Forbes JAPANが選ぶ「カルチャープレナー(文化起業家)」30組の一人として選出された。2025年、初の著書『踊る阿呆の世界戦略』(ひろのぶと株式会社)を出版。
田中泰延(たなか・ひろのぶ)
ひろのぶと株式会社 代表取締役
1969年大阪生まれ。株式会社 電通でコピーライター/CMプランナーとして24年間勤務。2016年退職し「青年失業家」を自称し執筆活動を開始。2019年、文章術を解説する初の著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)を上梓。16万部突破。2020年、印税2割スタート・最大5割の「累進印税™︎」を掲げる出版社「ひろのぶと株式会社」を創業。2021年に『会って、話すこと。』(ダイヤモンド社)、2023年12月、実践的な文章指南書である『「書く力」の教室』(SBクリエイティブ)発売。
イベント登壇も阿呆にならねば
米澤
今日のイベント、楽しかったですね。
田中
いやぁ、良かったです。

米澤
終演後のサイン会では、みんな感想をくださって。
最初に「サインが欲しい人はこちらから」って言った時はあんまり来なかったから、こんなに長くなるとは思ってなかったんだけど、気がついたら「あれ? ほぼ全員並んでる?」みたいな。

田中
やっぱり、一人がやりだすと「誰かが先陣切るのを待ってました」っていうのもありましたね。
米澤
いやぁ、でもなんか、トークだと踊りと違う緊張がありますよね。
田中
……俺は踊ってないから(笑)。渉さんでも、緊張されるんですね。
米澤
そうですね。
田中
全然そんなふうには見えていなかったけれど。
米澤
萎縮するような緊張じゃないんですけど、不安というか、「上手くやりたい」っていう気持ちがかかっちゃうと、あんまり良くないなと。早口になったり、間を埋めたくなったり。
田中
いや、でも良かったです。中身があったわ。今までのイベントで一番中身があったんちゃうかなって思うくらい。
米澤
本当ですか?
田中
本当に。俺があまり喋らなかったのが良かった。スライド使って僕が喋ると、進まないんですよ(笑)。
米澤
でも僕は、あの泰延さんの“スライド伝統芸能”は大好きなんですよ。
田中
「さて」と言って「サテ」映すとか。進まない(笑)。


米澤
いやー、でも面白い。僕、たまに過去のひろのぶと株式会社の株主ミーティングの動画とかYouTubeで見ちゃいますよ、面白くて。本当に。
今日も思ったんですけど、泰延さんが喋り始めた瞬間、会場の温度が上がりますよね。
周りの期待というか、キャラクターもあると思うんですけど、やっぱり泰延さんじゃないとできないというか。
田中
実はそれも、段階があって、いきなり何かをカマして笑かそうというんじゃダメなんですよ。
すごく大事なステップとして、まず集まった人たちに、「この人はひょっとして頭が悪い人なんじゃないだろうか」って思ってもらう導入は絶対にいる。
今日のイベントでは、話し始めで「僕も今日ね、さっき初めてこの本『踊る阿呆の世界戦略』を読んだんですけど」と言ったり。
お客さんに「自分たちの方が知能的に有利に立っている、あの人は知能が低い」っていうふうに感じさせる瞬間がないとダメなんです。
米澤
ああ、めちゃくちゃいい話。本当、そうだと思います。
田中
“阿呆”にならねばならん。
安心して楽しんでもらう土台は、阿呆に思われること
米澤
僕、今日のイベントでお客さんに一緒に踊ってもらうために、まずは拍手から、声を出してもらってと段階を踏んでいくスモールステップが大切という話をしましたけど、もう一つ、DJダイノジっているじゃないですか。
田中
ダイノジさん。大地洋輔さんと、大谷ノブ彦さんの。
米澤
ダイノジさんって、めちゃくちゃ人を踊らせるのが上手で。
それで、トークイベントだったかなにかで、「どうやって人を踊らせるのか、コツはありますか」って聞いたら、「最初に恥部をさらせ」って。先に自分が恥をかく側に回ったら、みんなも少し心が開くっていう話をされてたんですよ。
今の泰延さんの話と、すごく似てる。ほとんど同じ話ですよね。
田中
ボケるっていうのは、バカなふりをするっていうことだから。そこで聞く側に「何か高いところから言われるんじゃなくて、自分たちのほうが賢いぞ」と安心感が生まれて、楽しむ準備ができる。
米澤
その通りですね。反対に気合いを入れすぎて、冒頭の5分や10分をガチでやりすぎちゃうとお客さんが引くっていうのもあるんですよね。
田中
ものすごくシンプルなテクニックでいいんですよ。それこそ、最初に「さっき初めて読んだんだけど」って言うとか。「バカかこいつは、そんなわけないだろ」ってなる。
あとは、今日は寶船の法被を着て登壇しましたけど、それがピッチピチで前が閉まっていないというのも、見た目から間抜けに見えるようにって、大事だったりします。

米澤
そういうコツみたいなのって、元々持ってらっしゃったのか、例えば電通の経験とかもあったりするのかは、どうですか?
田中
これはね、小・中学生あたりから、一人でウケるってどういうことかって考えてきたわけで。その頃から何も変わってないですね。
つまり「今日は自習です」って言われたら、教壇のところでみんなになんか喋って漫談をするってことをね。それを小学校、中学校でやってる人が、やっぱり大人になっても同じくやってるんですよね。
米澤
特に関西って、そういう面白い人の方が人気になる、みたいなのってあるんですかね。
田中
そういう人が特に多く住むんですよね。
でも、関西出身でもボケを会得していない人もいますよ。うちの編集の廣瀬も大阪出身ですけど、漫談みたいなボケをするって感じじゃないでしょう。ご両親は関西人じゃなくて、ご家庭では大阪弁じゃないそうで、社内ではエセ大阪弁って言われたりもしてるんですけど(笑)。
だから、その人の特性や家庭環境というところもあると思うけど、でも全体的には、やっぱり関西は面白い人、ボケる人が多いですよね。
「読みたい本」の核は“人”
米澤
ひろのぶと株式会社は、昨年『伝えるための準備学』を出された古舘伊知郎さんをはじめ、いろんな著者候補の人が「ここから出したい、書きたい」って言ってきて。それこそテーマやジャンルを絞っていない出版社としてやっているじゃないですか。
その中で、本をつくるにあたって「自分たちのこだわりはこれなんだよな」みたいなところって、あるんですか?
田中
それは単純で、「田中泰延が読みたい本」。それがなかったら出す意味がなくて。
「印税率で世界を変える」「自分が読みたい本を出す」出版社をつくりたいと言って始めたんです。
それが、「そんなに田中自身は読みたくはないけど、儲かりそうだからやってるんじゃない」って言われるようなことがあったら、その瞬間にブランドが毀損されるんですよね。
米澤
でも、本づくりのはじめは原稿がないですよね。原稿ができていない時から「読みたい」っていう。それは、なにか分かるものがあるんですか?
田中
それはやっぱり“人”、ですかね。メディアとか、SNSとかを見たりして判断したりするわけです。特に、立川談笑師匠の時はそうだったかなぁ。
談笑師匠が俺を新宿の喫茶店に呼び出して。前が見えないんじゃないかってくらい煙草の煙たい喫茶店で2人でね。そこで「こんな企画があるんだけど」って話してくださったんです。
僕、『令和版 現代落語論』をつくることになって談笑師匠の独演会に通うようになるまで、そんなに落語って分かってなかったんですよ。
米澤
落語、泰延さんは本づくりからだったんですか。
田中
はい。聴いてないわけじゃないけれど、生で見に行くほどでもなかったというか。俺らの時代にはYouTubeはないから、例えば志ん朝師匠も談志師匠も、DVDで聴いて。
米澤
僕も図書館で借りて聴いていたことあります。
田中
その前はCD。結構借りていましたね。
米澤
じゃあ……ちょっと聞いてみたいんですけど、今回の『踊る阿呆の世界戦略』は、どの段階で「読みたい」と思われるように……?
田中
結構最初からかな、やっぱり。昨年、寶船の皆さんがうちの株主ミーティングに出演くださったじゃないですか(2024年5月)。あの時には、ほんまに「早く形になったもの見たいな」と思うようになってました。
FIRST DOMINOの大塚さん*が応援していて、紹介くださったという信頼もあった。大塚さんがそれだけ推すってことは、なにか面白いものが出てくるはずだ、絶対なにかやり遂げている方だっていうね。
そういう意味では結構、大塚さんの存在は僕にとって、でかいですね。
*FIRST DOMINOの大塚さん:ひろのぶと株式会社の株主で、寶船のサポーター


米澤
大塚さんの存在は、僕たちにとっても大きいです。いろんなきっかけをつくってくれる。
田中
大塚さんがいなかったらできていないことも、たくさんあるなと思います。この本も、まさにそういうプロジェクトでした。
知りたいのは“そこ”に行くまで
田中
『踊る阿呆の世界戦略』のここが素晴らしいっていうところはいっぱいあるんですけど、実は一番抑制が効いていると思ったのは、まだアマチュアだった2011年に初めて行ったハワイの話があるじゃないですか。
その後、声がかかってニューヨークでの出演が決まった話とか、法人化直後の話もあるんだけど、なんとそこから現在まではあえて書かずに飛んでいる。
これが、めちゃくちゃ抑制が効いていると感じて。
普通だったら、そこでどれくらい順次仕事や行った国が増えていったか、国名を全部並べるとかしちゃいそうですけど、そこをジャンプしているんですよ。
これは、どういうふうに意識されたんですか?
米澤
うーん、それこそ、泰延さんがおっしゃる“感動のヘソ”みたいなものがあるじゃないですか。
田中
はい、『「書く力」の教室』(田中泰延・直塚大成、SBクリエイティブ)で書いている。
米澤
海外の話って言っても、別にバイオグラフィーみたいに時系列順に書きたいわけじゃ全然なくて。
めちゃくちゃでかいフェスだったとしても、踊る側はイベント会社の人と挨拶して踊って帰るだけってこともあるわけで。実績として大きいものだから心に残っているというわけでもないと思ったんです。
だから、世界に行き始めるまでは時系列順に書いていますけど、本の後半、海外に行くようになってからは、「あの時の北京での一言が、僕の中で“感動のヘソ”だったな」とか。そういうエピソードを紡いで、本当に伝えたい「踊りとは何か」「伝統とは何か」っていうことに乗せた感じにしたんですよね。
田中
はあ〜、なるほど。
米澤
自慢っぽく聞こえるのもすごく嫌だし、「こんな大きなところに出ました」っていうのは、そんなにいらないかなって。
それよりも、舞台の大小に関係なく、本当に小さくても、海外で見てきた世界の感動したポイントを後半には入れたかったんだと思います。
田中
いや、そこに一番感心しました。
つまり、よくある本だと「2021年にはシンガポールで200億円の売り上げ。翌2022年にはオーストラリアに進出」みたいに続くわけじゃないですか。
でも、いろんな起業家の本なんかを読んでいて、無名時代とかが一番味のあるところだなと。そこから先の時価総額がどれだけ上がったとか、大きくなったとかの話って、読んでいてあんまり印象に残っていないんですよ。
だから、俺は“そこまで”のところを知りたいんだな、と。
米澤
僕もどちらかというと、闇の部分とか、普段は華々しく見えるけれど実は苦労しているみたいな実際のところを読みたいかな。
なにかに挑戦したいと思って手に取っている人は、きっと、跳ねた後のことよりも、そこまでの努力やどうもがいてきたのかっていうことを知りたいってこともありますよね。
田中
本当に、そうですよね。
米澤
そこを褒めていただくのは、すごくうれしい。
田中
いや、感動しました。
それから、これはイベントでも話したんですけど、本の中にある「阿波踊りの世界を変えたいんじゃない。阿波踊りで世界を変えたいんだ」という言葉が、特に響いて。
僕らも、出版業界を変えたいなと思って、“累進印税”を掲げて出版社を始めたわけですけど、「そうじゃない」と。それだと話が小さい。
そうではなくて、つくった本で世界を変えたい。読んだ人の人生を変えたい。そう思わないとダメだと、この本を読んで学び直したというか。
読み物として面白いだけでなく、起業している身として参考になることがたくさんありました。
米澤
ありがとうございます。ひろのぶとの皆さんのおかげで。
田中
いやぁ、本当に、またいい本ができてしまいました。
踊る阿呆を語り尽くす1時間半!
寶船の生パフォーマンスも体験できます!
日付:10月10日(金)
時間:19:00開演
(寶船のパフォーマンスは19:45〜予定)
場所:TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE
参加費:500円(税込)
【参加お申し込みはこちらから】
米澤渉さんがYouTube配信「僕たちは」シリーズ第19弾にゲストで登場されました!
「結石で欠席」の上田豪さんに代わり、2時間たっぷり出演。視聴者からの質問・相談にまっすぐ応えています。
米澤渉さんの著書

踊る阿呆の世界戦略
世界26カ国を熱狂させた NEO阿波踊り集団 寶船の挑戦
米澤渉|ひろのぶと株式会社
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米澤渉
文化/対談
NEO阿波踊り集団「寶船 」リーダー/株式会社アプチーズ 代表取締役。 1985年東京都生まれ。パフォーマー全員が赤い衣装をまとい、派手なメイクを施して激しく踊る独自スタイルの「NEO阿波踊り」で演者と観客が一体となる熱狂を生み、多数の海外ツアーも敢行。2025年までに世界26カ国で活動を展開してきた。2024年Forbes JAPANが選ぶ「カルチャープレナー(文化起業家)」30組の一人として選出された。2025年、初の著書『踊る阿呆の世界戦略』(ひろのぶと株式会社)を出版。