人さらいの季節
気づけば10月も半ばだ。
ということは、来週23日に運命のドラフト会議がある。
俺は毎年ドラフトの日は突然の指名会見があっても対応できるようにスケジュールを空けている。だが、残念ながらこれまで指名されたことはない。それもそのはず。よく考えたら一度もプロ志望届を出してなかった。来年はちゃんと出してこの日に臨みたいと思う。
なんて日頃から冗談ばかり言っていたら、あとひと月半で今年も終わってしまう。
10月半ば。大事なことだかた二度言う。
俺にとってのそれは毎年恒例の「人さらい」をする季節がやってきたことを意味する。
「人さらい」
この言葉が聞きなれない若い人も多いかもしれない。
俺が子供の頃は、夕方暗くなるまで外で遊んでいると通りがかった大人に「人さらいが来るから早く帰りな」と言われたものだ。そう言われても素直に帰ったためしはないのだが。昭和生まれの中高年なら誰でもきっとそんな記憶がある。
ちなみに俺は一度、人さらいをされかけたことがある。
別に日本海側に住んでいたわけじゃない。東京は板橋育ちでもあの頃は本当に人さらいがいた。
親から知らない大人についていってはいけないと言われていたが、子供を騙してどこかへ連れて行こうとする知らない大人を騙しちゃいけないとは言われていなかった。
知らない大人の「お菓子を買ってあげる」という言葉に乗って東武ストアに連れて行かれた俺は、それを実行してみたおかげで難を逃れた。数日後にその知らない大人は、誘拐未遂で逮捕されたとニュースに出ていた。
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話が脱線した。
ええと、人さらいをする季節になったという話をしようと思ってたんだった。
でも安心してほしい。
いくら反社の人間だと疑われることの多い俺でも、
ここで言う「人さらい」とは、冒頭に話したような誘拐や、北朝鮮の拉致みたいな話や人身売買ブローカーの類のことではない。
俺が代表を務める我がチームの来年の新入団選手獲得に向けての活動のことだ。
例年のこの時期は、我がチームの活動範囲の周辺の少年野球チーム(160チームほど)にメールやDMなどで案内を送ったり、フライヤーを作成したりして在籍選手の出身チームに配るなどの活動をしてきた。

体験練習は随時受け付けております
小学6年生の多くの野球少年に我がチームの存在を知ってもらって、練習見学や体験練習への参加に繋げなくてはならないからだ。
今年もその季節がやって来たのである。
今年の選手獲得活動は、チームの存亡がかかっているといっても過言ではない。なぜなら2025年は新1年生が3人しか入団しなかったのだ。
前年度までは順調に毎年15人前後の新入団選手を獲得できていた。ところが、例年通り体験練習も多くの参加者があったのに蓋を開けてみれば新入団選手はまさかの3人だ。Whyなぜに。
マ ジ で や ば い 。
来年度の新入団選手が集まらなければこのチームは解散するしかない。
ちなみに選手獲得に苦労しているのは、我がチームに限った話ではない。
選手獲得に苦労している大きな原因のひとつには、野球人口の減少がある。
もちろん野球人口の減少というのは、少子化の世の中であり今に始まったわけではない。ただ、それに拍車をかけるようなことが数年前にあったのだ。
コロナ。
今の中学一年生がちょうど野球を始めるくらいの年齢(小学2~3年)のとき、世の中はコロナ禍だった。そのため、野球を始める機会を失い他のスポーツや習い事に流れた子が多い世代らしい。
ということは、おそらくあと数年この状況が続く。危機感しかない。
また、親の負担が大きいと言う理由で硬式野球が敬遠される時代でもあるようだ。練習のある休日、子供の送迎やチーム活動へ参加をすることに二の足を踏む親も多いのだろう。
営利団体であるクラブチームと違って、完全ボランティア団体であるチームは、親の協力なしでのチーム運営は不可能なのだ。
しかし、我がチームに限っての原因でいえば「ホームグラウンドを失った」ことが大きく影響したのだと思う。
これまでのホームグラウンドは、車ではもちろん、電車でも通える場所にあった。東京都多摩地区と埼玉県西部地区から選手が集まる我がチームにとっては、最高のグラウンドだったのだ。
そのグラウンドを失った。
体験練習に参加した選手の親にしてみれば、これまで学校の校庭など毎週決まった場所で練習をしている少年野球の感覚なだけに「ホームグラウンドがないチームなんて大丈夫?」となってしまいがちだ。その気持ちはわかる。
だがしかし。実は西東京において、ホームグラウンドを持っているチームの方が少ない。
それでも、ホームグラウンドがなくても戦績が良いチームやいい選手を輩出しているチームは我がチームを含めていくらでもある。
チームを見る時はホームグラウンドの有無ではなく指導内容をみて決めてほしいと親には説明するようにしているのだが、それが響くかどうかは親に野球経験があるかどうか次第だということがわかってきた。
野球経験者なら我がチームの指導を見ればいい指導をしているということがわかるはず。なにより指導者がトップレベルで野球やってた人ばかり。その価値がわかる人なら我が子を入れたいって思うはずなんだけどね。俺がそうだったように。
高校野球で活躍したいと思ってる選手なら、とにかく野球が本気で大好きだという選手なら、育成中心・少数精鋭主義の我がチームは野球を学ぶには最高のチームだと思うよ。
つらつらと書いてしまったけど、俺が今日言いたかったのは、これを読んだ人の周りに小学6年生の野球少年がいたら、チーム選びで悩んでいる野球少年がいたら、「こういうチームがあるよ」という口添えや、「体験練習に行ってみたら?」と勧めてほしいというお願いです。
なにとぞ、人さらいにご協力お願いします。
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最後に。
せっかく「人さらい」という言葉が出たついでに、
谷村新司のサライという曲を検索してみてほしい。
そして、そこにあるサライの歌詞を読んでみてほしい。
この曲の歌詞を見たあなたはきっと、この曲が人さらいにあった子供の姿を歌っているとしか思えなくなっているはずだ。
どうでもいいか。どうでもいいな。
上田 豪 広告・デザイン/乗り過ごし/晩酌/クリエイティブ
1969年東京生まれ フリーランスのアートディレクター/クリエイティブディレクター/ ひろのぶと株式会社 アートディレクター/中学硬式野球チーム代表/Missmystop